万葉集巻第七1191‐1217番歌(妹が門出入の川の)~アルケーを知りたい(1347)
▼1191番は、「門を出入りする」動作と「出入川」という川の名前をかける技と馬がよろめいたら家人が自分を思い出しているという当時の因果話を結合した歌。今回の歌は、似たような調子で山や花を擬人化して詠った作品群。風景と感情の結び付け方が面白い。
妹が門出入の川の瀬を早み 我が馬つまづく家思ふらしも 万1191
*出入川の流れが早いせいか、乗っている馬がよろめきました。これは家人が私を思っている印でしょう。
白栲ににほふ真土の山川に 我が馬なづむ家恋ふらしも 万1192
*白い布のように輝く真土の山川で、乗っている馬がよろめきました。これは家人が私を思っている印でしょう。
背の山に直に向へる妹の山 言許すせやも打橋渡す 万1193
*背山と向き合う妹山。背山の申し出を許したかのように、二つの山の間には橋が渡っています。
人にあらば母が愛子ぞあさもよし 紀の川の辺の妹と背の山 万1209
*人に例えるなら、母親にとっての愛しい子らです。紀の川の妹山と背山は。
我妹子に我が恋ひ行けば羨しくも 並び居るかも妹と背の山 万1210
*妻を恋しく思いながら旅していると、うらやましいことに妹山と背山が仲良く並んでいるのが見えます。
妹に恋ひ我が越え行けば背の山に 妹に恋ひずてあるが羨しさ 万1208
*妻を恋しく思いながら旅路を進んでいると、背山と妹山が仲良く並んでいて、羨ましい。
妹があたり今ぞ我が行く目のみだに 我れに見えこそ言とはずとも 万1211
*妹山あたりを今、私は進んでいます。何も言わなくてよいから、顔だけでも見せて欲しいです。
足代過ぎて糸鹿の山の桜花 散らずもあらなむ帰り来るまで 万1212
*足代を過ぎたところにある糸鹿山の桜花よ。私が帰るまで散らないでおくれ。
名草山言にしありけり我が恋ふる 千重の一重も慰めなくに 万1213
*「名草」山とは言葉だけのものだった。私の積もるほどの思いのうちの一つの「慰め」にもならないのだから。
安太へ行く小為手の山の真木の葉も 久しく見ねば蘿生しにけり 万1214
*安太に行く小為手山に生えている杉や欅。長らく見ないうちに苔が生しています。
玉津島よく見ていませあをによし 奈良なる人の待ち問はばいかに 万1215
*玉津島をよく御覧になっておいてください。奈良でお帰りを待っている人に様子を聞かれたときに備えて。
潮満たばいかにせむとか海神の 神が手渡る海人娘子ども 万1216
*潮が満ちたらどうしようというのでしょうか。海神が支配する難所を渡る漁師たちは。
玉津島見てしよけくも我れはなし 都に行きて恋ひまく思へば 万1217
*玉津島を眺めても嬉しくありませんね。というのは、都に帰ったら思い出してとても恋しく悲しくなるでしょうから。
【似顔絵サロン】同時代の乱、藤原広嗣の乱の関係者:中臣 名代 なかとみ の なしろ ? - 745年 奈良時代の貴族。740年、藤原広嗣の乱に連座して流罪。
〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7
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