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万葉集巻第七1099-1102番歌(片岡のこの向つ峰に)~アルケーを知りたい(1330)

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▼1099番は「Aすれば、Bになる」型の仮説文の典型。実際そうなるのかどうかをやろうと思えば実際に検証できる話になっているのが嬉しい。1101番は「 夜が来れば、巻向川の音が高くなる 」という 仮説に続いて あらしかも疾き と作者が自分なりの原因究明というか解釈をしている。別の原因を考えて黙っておれない読者から、異議申し立てが起りそう。  岳を詠む 片岡のこの向つ峰に椎蒔かば 今年の夏の蔭にならむか  万1099 *片岡の向こう側の峰に椎の種を蒔いておけば、今年の夏には良い日影になるでしょう。  河を詠む 巻向の穴師の川ゆ行く水の 絶ゆることなくまたかへり見む  万1100 *巻向の穴師川を流れる水が絶えることないよう、また見に戻って来よう。 ぬばたまの夜さり来れば巻向の 川音高しもあらしかも疾き  万1101  右の二首は、柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ。 *夜になると巻向川の流れの音が大きくなった。嵐の風が吹いているのだろうか。 大君の御笠の山の帯にせる 細谷川の音のさやけさ  万1102 *御笠山が帯にしている細谷川の音がすがすがしいことといったら。 【似顔絵サロン】巻7と同じ時代に起こった長屋王の変に関係する人々から: 小野 牛養  おのの うしかい ? - 739天平11年11月10日 奈良時代の貴族。729年、長屋王の変のさい、長屋王の屋敷で罪の糾問にあたった。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7

万葉集巻第七1090-1098番歌(いにしへのことは知らぬを)~アルケーを知りたい(1329)

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▼今回は雨と山を詠んだ歌。遊び心ありの明るい歌たち。  雨を詠む 我が妹子が赤裳の裾のひづつらむ 今日の小雨に我れさへ濡れな  万1090 *かわいい彼女の赤裳の裾に泥が着くかも知れないな。今日の小雨に私も濡れてゆこう。 通るべく雨はな降りそ我妹子が 形見の衣我れ下に着り  万1091 *服に浸み通るほどの雨は降らないで欲しい。彼女がプレゼントしてくれた肌着を着ているから。  山を詠む 鳴る神の音のみ聞きし巻向の 檜原の山を今日見つるかも  万1092 *人から話だけ聞いていた巻向の檜原山を今日、やっと見たのだ。 みもろのその山なみに子らが手を 巻向山は継ぎのよろしも  万1093 *三輪山の山なみは巻向山の続き具合がまことによろしい。 我が衣にほひぬべくも味酒 三室の山は黄葉しにけり  万1094  右の三首は、柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ 。 *私の衣に色移りするほど三諸山が黄葉しています。 みもろつく三輪山見ればこもりくの 泊瀬の檜原思ほゆるかも  万1095 *三輪山を見ていると泊瀬の檜原を連想します。 いにしへのことは知らぬを我れ見ても 久しくなりぬ天の香具山  万1096 *昔のことは知らない私ですけど、そんな私が見ても時代を経たのが伝わる天の香具山です。 我が背子をこち巨勢山と 人は言へども君は来まさず山の名にあらし  万1097 * 人は 私の夫を「こちらに来る巨勢山」と言います。けれど、本人は山の名前のようには来ないのです。 紀伊道にこそ妹山ありといへ玉櫛笥 二上山も妹こそありけれ  万1098 * 世間は 紀伊道にだけ妹山があると言ってます。でも二上山にも妹山があるんですよ。 【似顔絵サロン】巻7と同じ時代に起こった長屋王の変に関係する人々から: 中臣宮処 東人  なかとみのみやところ の あずまびと ? - 738年 奈良時代の官人。729年、聖武天皇に長屋王を 誣告 (ぶこく。わざと 事実と異なる内容で人を訴えること ) 。 大伴子虫と囲碁に興じていた時、話題が長屋王に及ぶにあたり、怒りを発した 子虫に 斬殺された。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7

万葉集巻第七1087-1089番歌(大海に島もあらなくに)~アルケーを知りたい(1328)

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▼雲を詠んだ歌三首。前二首は柿本人麻呂の作、三首目は詠み人知らず。海と空と雲の絵のような歌。  雲を詠む 穴師川川波立ちぬ巻向の 弓月が岳に雲居立てるらし  万1087 *穴師川で川波が立っています。低気圧で巻向の弓月岳に雲がもくもく湧き上がっているらしい。 あしひきの山川の瀬の鳴るなへに 弓月が岳に雲立ちわたる  万1088  右の二首は、柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ。 *山川の瀬の音もいちだんと高くなっています。弓月岳は雲がかぶさっています。 大海に島もあらなくに海原の たゆたふ波に立てる白雲  万1089  右の一首は、伊勢の従駕の作。 *島ひとつない大海の海原。ゆったりした波の上に白雲が浮かんでいます。 【似顔絵サロン】巻7と同じ時代に起こった長屋王の変に関係する人々から: 大伴 子虫  おおとも の こむし ? - ? 奈良時代の官人。長屋王に仕え厚遇を受けていた。729年の長屋王の変で連座した話は見あたらない。738年、中臣宮処東人(長屋王を誣告した人物)と囲碁をしていた時、話題が長屋王に及ぶにあたり、子虫は憤り、東人を罵ってその場で斬殺。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7

万葉集巻第七1083-1086番歌(山の端にいさよふ月を)~アルケーを知りたい(1327)

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▼月を詠むシリーズの最後の四首。前半の二首は月が見えていない歌、後半の二首は月が出て夜の景色が見えている歌。締めの四首目は、月が国の繁栄を祈って照っていると詠う。 霜曇りすとにかあるらむひさかたの 夜渡る月の見えなく思へば  万1083 *霜で曇っているのでしょうか。夜空を動く月が見えないのは。 山の端にいさよふ月をいつとかも 我が待ち居らむ夜は更けにつつ  万1084 *山の端で出待ちしている月を待っているうちに夜が更けていきます。 妹があたり我が袖振らむ木の間より 出で来る月に雲なたなびき  万1085 *妻がいる方向に袖を振ってみましょうか。木の間から出る月が雲で隠れないうちに。 靫懸くる伴の男広き大伴に 国栄えむと月は照るらし  万1086 *弓矢で武装した大伴の男たち。国が栄えるようにと月が照っています。 【似顔絵サロン】巻7と同じ時代に起こった長屋王の変に関係する人々から: 上毛野 宿奈麻呂  かみつけの の すくなまろ ? - ? 奈良時代の官人。729年、長屋王の変に連座し流罪。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7

万葉集巻第七1079-1082番歌(まそ鏡照るべき月を)~アルケーを知りたい(1326)

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▼今回も月を詠む歌四首。言い回しは古風でも月を詠む感覚は今も昔も変わらない印象。1081番など、屋外で天体観測しているうちに服が夜露でしっとりするなんてこと今でもあるのではないでしょうか。 まそ鏡照るべき月を白栲の 雲か隠せる天つ霧かも  万1079 *鏡のように照る月を隠しているのは白栲の雲かな、それとも天に立つ霧かな。 ひさかたの天照る月は神代にか 出で反るらむ年は経につつ  万1080 *天の月は神代に戻ったかのように照っています。神代からは年を経たというのに。 ぬばたまの夜渡る月をおもしろみ 我が居る袖に露ぞ置きにける  万1081 *夜空を動く月が面白いので 見ているうちに 時間が経ち、袖に露が下りてしまいました。 水底の玉さへさやに見つべくも 照る月夜かも夜の更けゆけば  万1082 *水底の玉が清らかに見えるほど、今夜の月はよく照っています。夜が更けるほどに。 【似顔絵サロン】 巻7と同じ時代に起こった 長屋王の変 に関係する人々から: 桑田王  くわたおう ? - 729年 長屋王の第二王子。長屋王の変で父と共に自殺。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7

万葉集巻第七1075-1078番歌(海原の道遠みかも)~アルケーを知りたい(1325)

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▼詠み人知らずの歌4首。月読、月のさやけさ、夜渡る月、この月のここ、と表現して 月を謳っている。 海原の道遠みかも月読の 光少き夜は更けにつつ  万1075 *海原の道が遠いせいか、月の光が少ないままに夜が更けています。 ももしきの大宮人の罷り出て 遊ぶ今夜の月のさやけさ  万1076 *大宮人たちが出てきて遊んでいます。今夜の月は一段とさわやかです。 ぬばたまの夜渡る月を留めむに 西の山辺に関もあらぬかも  万1077 *夜の空を動いて行く月を留めるために、西の山辺に関所があるとよいのに。 この月のここに来れば今とかも 妹が出で立ち待ちつつあるらむ  万1078 *月があのあたりに来る時間になれば、妻が外に出て私を待ってくれているでしょう。 【似顔絵サロン】 巻7と同じ時代に起こった 長屋王の変 に関係する人々から: : 膳部王  かしわでのおほきみ ? - 729年 奈良時代の皇族。長屋王の子。長屋王の変で父と共に自殺。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7

万葉集巻第七1071-1074番歌(山の端にいさよふ月を)~アルケーを知りたい(1324)

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▼ 今回は、月をネタにした四首の歌。 月の出を待つ、今夜の月夜をいつくしむ、一人を嘆く、別の場所を思う。 山の端にいさよふ月を出でむかと 待ちつつ居るに夜ぞ更けにける  万1071 *山の端でなかなか出ない月。いつ出るかと待っているうちに夜が更けてしまいました。 明日の宵照らむ月夜は片寄りに 今夜は寄りて夜長くあらなむ  万1072 *明日の月夜は今夜に合流して、今夜は格別長くあってほしい。 玉垂の小簾の間通しひとり居て 見る験なき夕月夜かも  万1073 *部屋で独りで見る月夜は味気ないものよ。 春日山おして照らせるこの月は 妹が庭にもさやけくありけり  万1074 *春日山を照らすこの月の光で、妻の家の庭もよく見えることでしょう。 【似顔絵サロン】 巻7と同じ時代に起こった 長屋王の変 に関係する人々から: 長屋王  ながやおう 676年 - 729年 奈良時代前期の皇親・政治家。高市皇子の長男。 藤原四兄弟と政治的に対立。誣告により 自殺した。 長屋王の変。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7