投稿

万葉集巻第七1169-1172番歌(いづくにか舟乗りしけむ)~アルケーを知りたい(1343)

イメージ
▼琵琶湖の周辺を詠った歌四首。当時の舟は、帆で風を受け、人が楫を漕ぐ、この二つ。空や波を気にするのも道理。 近江の海港は八十ちいづくにか 君が舟泊て草結びけむ  万1169 *近江の海の港はたくさんあります。そのなかのどこにご主人様は舟を泊めて宿泊なさるのでしょうか。 楽浪の連庫山に雲居れば 雨ぞ降るちふ帰り来我が背  万1170 *楽浪の連庫山に雲がかかると雨になるそうです。早く戻って来てください、私の夫よ。 大御船泊ててさもらふ高島の 三尾の勝野の渚し思ほゆ  万1171 *大御船が風を待っている間、高島の三尾の勝野の渚を思い出しておりました。 いづくにか舟乗りしけむ高島の 香取の浦ゆ漕ぎ出来る舟  万1172 *どこから舟を出してきたのでしょう。高島の香取の浦を漕ぎ渡っている舟が見えます。 【似顔絵サロン】 同時代の乱、 藤原広嗣の乱 の関係者:藤原 広嗣 ふじわら の ひろつぐ ? - 740年 奈良時代の貴族。藤原宇合の長男。740年、藤原広嗣の乱を起こすも鎮圧され、死罪(斬刑)。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7

万葉集巻第七1162-1168番歌(夕なぎにあさりする鶴)~アルケーを知りたい(1342)

イメージ
▼干潟の生態系の観察記の和歌。鶴、洲、波、浦、舟、磯、干満、藻・・・。 円方の港の洲鳥波立てや 妻呼び立てて辺に近づくも  万1162 *円方港の洲にいる鳥は妻を呼びながら岸の方に飛んでいます。波が立ち始めたからでしょうか。 年魚市潟潮干にけらし知多の浦に 朝漕ぐ舟も沖に寄る見ゆ  万1163 *年魚市潟の潮が干潮なので、知多の浦を朝漕いでいた舟が沖の方に寄っているのが見えます。 潮干ればともに潟に出で鳴く鶴の 声遠ざかる磯廻すらしも  万1164 *潮が引くと揃って潟で鳴いていた鶴の声が遠ざかります。磯廻りを始めたのでしょう。 夕なぎにあさりする鶴潮満てば 沖波高み己が妻呼ぶ  万1165 夕なぎの時に魚を捕っていた鶴は、潮が満ちて波が高くなると自分の妻を呼びます。 いにしへにありけむ人の求めつつ 衣に摺りけむ真野の榛原  万1166 *ここは昔の人が探し求めては衣を染めていたという原料が取れる真野の榛原です。 あさりすと磯に我が見しなのりそを いづれの島の海人か刈りけむ  万1167 *漁のときに磯で見つけておいた海苔。どこかの島の海人が見つけて先に刈り取ったようです。 今日もかも沖つ玉藻は白波の 八重をるが上に乱れてあるらむ  万1168 *今日もまた沖の玉藻は白波が何重にも寄せて乱れているのでしょう。 【似顔絵サロン】巻7と同じ時代に起こった長屋王の変に関係する人々から: 多治比 三宅麻呂  たじひ の みやけまろ ? - 725年 飛鳥時代後期~奈良時代前期の貴族。長屋王と藤原四兄弟の対立に巻き込まれ流罪。長屋王側の人物。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7

万葉集巻第七1157-1161番歌(住吉の沖つ白波風吹けば)~アルケーを知りたい(1341)

イメージ
▼海風が吹くときの海岸の様子を詠った歌の数々。海を見たくなる。潮の匂いを嗅ぎたくなる。 時つ風吹かまく知らず吾児の海の 朝明の潮に玉藻刈りてな  万1157 *潮の風が吹くかも知れません。吾児の海では朝明けの間に玉藻を刈りましょう。 住吉の沖つ白波風吹けば 来寄する浜を見れば清しも  万1158 *住吉の沖で白波を立てるほどの強い風が吹くとき、浜に寄せる波のなんと清いことでしょう。 住吉の岸の松が根うちさらし 寄せ来る波の音のさやけさ  万1159 *住吉の岸の松の根を洗うように寄せ来る波の音。なんと清々しいことでしょう。 難波潟潮干に立て見わたせば 淡路の島に鶴渡る見ゆ  万1160 *難波潟が干潮の時に立って見わたしていると、淡路島に向けて鶴が渡っているのが見えます。  羇旅作 家離り旅にしあれば秋風の 寒き夕に雁鳴き渡る  万1161 *家を離れて旅の途上です。秋風が寒い夕べの時刻、雁が鳴きながら飛んでいます。 【似顔絵サロン】巻7と同じ時代に起こった長屋王の変に関係する人々から: 舎人親王  とねりしんのう 676年 - 735年 天武天皇の皇子。政治家・歌人。長屋王の変では新田部親王らと共に長屋王を糾問。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7

万葉集巻第七1151-1156番歌(楫の音ぞほのかにすなる)~アルケーを知りたい(1340)

イメージ
▼今回も大阪の住吉の歌。海辺に立って波を見たくなる。 大伴の御津の浜辺をうちさらし 寄せ来る波のゆくへ知らずも  万1151 *大伴氏の御津の浜辺を波がざんざと寄せては返しています。波の行方は誰も知りません。 楫の音ぞほのかにすなる海人娘子 沖つ藻刈りに舟出すらしも   一には「 夕されば楫の音すなり 」といふ  万1152 *楫の音がかすかに聞こえてきます。漁師たちが沖へ藻を取るために舟を出しているようです。 「夕方になると楫の音がします」 住吉の名児の浜辺に馬立てて 玉拾ひしく常忘らえず  万1153 *住吉の名児の浜辺で馬を駐めて玉を拾いました。この思い出は忘れられませんね。 雨は降る仮廬は作るいつの間に 吾児の潮干に玉は拾はむ  万1154 *雨は降るし仮廬は作らないといけない。忙しいなか、どのタイミングで吾児の潮干で玉を拾えば良いのでしょうか。 名児の海の朝明のなごり今日もかも 磯の浦みに乱れてあるらむ  万1155 *名児の海の朝明の潮だまりが残っています。今日も磯の浦のあちこちに残っています。 住吉の遠里小野の真榛もち 摺れる衣の盛り過ぎゆく  万1156 *住吉からちょっと離れた里の小野にあるハンの木。その染料で染めた衣の色が薄くなっています。 【似顔絵サロン】巻7と同じ時代に起こった長屋王の変に関係する人々から: 新田部親王  にいたべしんのう ? - 735年 天武天皇の皇子。長屋王と皇親政権。長屋王の変では舎人親王らと罪の糾問に当たる。子が道祖王。邸宅の土地を 鑑真 に提供、唐招提寺になる。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7

万葉集巻第七1143-1150番歌(馬並めて今日我が見つる)~アルケーを知りたい(1339)

イメージ
▼今回は住吉の海を詠う歌8首。現在の大阪市住吉区。「馬並めて (友達と馬を並べて) 」のフレーズが好きなので、すぐ目が行ってしまう1148番。 さ夜更けて堀江漕ぐなる松浦舟 楫の音高し水脈早みかも  万1143 *夜が更けました。堀江を松浦舟が漕ぎ進んでいますね。楫の音が大きいのは流れが早いからでしょう。 悔しくも満ちぬる潮か住吉の 岸の浦みゆ行かましものを  万1144 *残念ながら潮が満ちてきましたよ。住吉の岸の浦に行こうと思っていましたのに。 妹がため貝を拾ふと茅渟の海に 濡れにし袖は干せど乾かず  万1145 *妻の土産にしようと思って貝を拾いました。茅渟の海で濡れた袖は干しても乾きません。 めづらしき人を我家に住吉の 岸の埴生を見むよしもがも  万1146 *珍しい人が我が家にやってきました。住吉の岸の埴生の貴重な土を見れたらよいのに。 暇あらば拾ひに行かむ住吉の 岸寄るといふ恋忘れ貝  万1147 *機会があれば住吉の岸にあるという恋忘れ貝を拾いに行こうかな。 馬並めて今日我が見つる住吉の 岸の埴生を万代に見む  万1148 *馬を並べて今日我われが見に来た住吉の岸の埴生。これから先もずっと見たいものです。 住吉に行くといふ道に昨日見し 恋忘れ貝言にしありけり  万1149 *住吉に行くという道で昨日見た恋忘れ貝。名前だけのものだったよ。 住吉の岸に家もが沖に辺に 寄する白波見つつ偲はむ  万1150 *住吉の岸に家があったらなあ。いつでも沖や岸辺に寄せる白波を見ていられるのに。 【似顔絵サロン】巻7と同じ時代に起こった長屋王の変に関係する人々から: 藤原 麻呂  ふじわら の まろ 695年 - 737年 奈良時代の公卿。藤原不比等の四男。藤原四兄弟の四男。藤原京家の祖。 上には聖主有りて、下には賢臣有り僕のごときは何を為さんや。なお琴酒を事とするのみ 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7

万葉集巻第七1140-1142番歌(命をし幸くよけむと)~アルケーを知りたい(1338)

イメージ
▼今回の3つの歌は、その人のその時の経験を述べたもの。教訓があるわけでもなく、だから何?と反応しても良さそうな作品。でも、ああそうなんだ、そういうこともあるのか、と頷きながら味わうタイプの作品なのだろう。まだ後者の反応の域には遠い私なれど、こういう歌もあり、そういう反応もあり、ということは分かるような気がする。  摂津作 しなが鳥猪名野を来れば有馬山 夕霧立ぬ宿りはなくて   一には「猪名の浦みを漕ぎ来れば」といふ  万1140 *猪名野までやって来ると有馬山が見えます。夕霧が立ち始めたけど、まだ宿が見つかっていません。 武庫川の水脈を早みと赤駒の 足掻くたぎちに濡れにけむかも  万1141 *武庫川の流れが早いので、赤馬の足から飛び散る水しぶきでこっちまで濡れちまいました。 命をし幸くよけむと石走る 垂水の水をむすびて飲みつ  万1142 *健康長寿を祈って勢いよく落ちる滝の水を両手で飲みました。 【似顔絵サロン】巻7と同じ時代に起こった長屋王の変に関係する人々から: 藤原 宇合  ふじわら の うまかい 694年 - 737年 奈良時代の公卿。藤原不比等の三男。藤原四兄弟の三男。藤原式家の祖。729年、長屋王の変のさい、宅を包囲した。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7

万葉集巻第七1135-1139番歌(宇治川に生ふる菅藻を)~アルケーを知りたい(1337)

イメージ
▼山背(やましろ)はいまの京都府。5首とも 宇治川を詠っているので宇治川作にしても良かったのに。1138番を見て、昔、タクシーを探して捕まえられなかったことを思い出しました。公園で タクシーをと呼ばへども 聞こえずあらし車の音もせず  山背作 宇治川は淀瀬なからし網代人 舟呼ばふ声をちこち聞こゆ  万1135 *宇治川は流れが緩やかな浅瀬がないらしい。網代を仕掛ける漁師が舟を呼ぶ声があちこちから聞こえてきます。 宇治川に生ふる菅藻を川早み 採らず来にけりつとにせましを  万1136 *宇治川の流れが早いので菅藻が採れませんでした。土産にしたかったのですけれど。 宇治人の譬への網代我れならば 今は寄らまし木屑来ずとも  万1137 *宇治の人の例えに使われる網代ですけど、私なら、とっくに寄り付いてます。他の木っ端は来る必要なし、です。 宇治川を舟渡せをと呼ばへども 聞こえずあらし楫の音もせず  万1138 *宇治川を渡りたいので、舟を出してくれと呼んでるんだけど、聞こえないらしい。楫の音もしない。 ちはや人宇治川波を清みかも 旅行く人の立ちかてにする  万1139 *宇治川の川波がとても清らかなので、旅人が立ち去り難い様子です。 【似顔絵サロン】巻7と同じ時代に起こった長屋王の変に関係する人々から: 藤原 房前  ふじわら の ふささき 681年 - 737年 飛鳥時代~奈良時代前期の貴族。藤原不比等の次男。藤原四兄弟の次男。藤原北家の祖。政治的力量は兄弟の間で随一。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7