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万葉集巻第十2186‐2189番歌(秋されば置く白露に)~アルケーを知りたい(1469)

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▼万葉時代の人はすぐ枝を折ってはかんざしにしていた。当時も樹木を育てる人からは困ったものだと思われていたようだ。今は折り取らず、目出度い意匠の缶バッチを付ければよい。この雨で にほふ桜花の散らまく惜しも と思ふ。 秋されば置く白露に我が門の 浅茅が末葉色づきにけり  万2186 *秋になり白露が降りるようになりました。我が家の門の浅茅の葉っぱも色づきました。 妹が袖巻来の山の朝露に にほふ黄葉の散らまく惜しも  万2187 *巻来山の朝露で色づいた黄葉が散るのが惜しい。 黄葉のにほひは繁ししかれども 妻梨の木を手折りかざさむ  万2188 *黄葉は色とりどりだ。でも妻のない私は妻梨の木を手折ってかんざしにします。 露霜の寒き夕の秋風に もみちにけらし妻梨の木は  万2189 *露霜が降りる寒い夕方の秋風に紅葉したらしい妻梨の木は。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の間接的な関係者: 小野 竹良 /都久良 おの の つくら ? - 769 奈良時代の貴族。764年の藤原仲麻呂の乱では孝謙上皇側。藤原家依と同じ時期に昇叙。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2182‐2185番歌(大坂を我が越え来れば)~アルケーを知りたい(1468)

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▼秋を感じさせるもの、露、萩、黄葉、雁の声。時雨で流れる山の黄葉。ただの風景、音じゃなくて、風情として受け取れる感性の豊かさ。勉強になります。 このころの暁露に我がやどの 萩の下葉は色づきにけり  万2182 *このごろ明け方に露が降りるようになりました。我が家の萩の葉が色づいてきました。 雁がねは今は来鳴きぬ我が待ちし 黄葉早継げ待たば苦しも  万2183 *雁が今飛んできて鳴いています。私が待っている黄葉よ、続いて早く色付け。待つのは辛いから。 秋山をゆめ人懸くな忘れにし その黄葉の思ほゆらくに  万2184 *秋山のことをくれぐれも口にしないでください。忘れている黄葉を思い出してしまうから。 大坂を我が越え来れば二上に 黄葉流るしぐれ降りつつ  万2185 *大坂を越えて私がやって来ると、時雨と一緒に二上山の黄葉が流れています。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の間接的な関係者: 藤原 家依  ふじわら の いえより 743 - 785 奈良時代の公卿。藤原永手の長男。桓武朝では、大伴家持・藤原小黒麻呂・藤原種継らが次々と中納言に任ぜられる傍らで昇進できないまま。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2178‐2181番歌(九月のしぐれの雨に)~アルケーを知りたい(1467)

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▼2178と2179番は、秋の歌。2180番は歌に九月と詠みこまれている。2181番は「 寒き朝明 」と寒さが詠われている。この歌を見ると万葉の時代は家の中にいても外の天気や物音が今よりもよく伝わってきたのだろう、と今昔の違いが分かる。分かるとよりいっそう時々聞こえる鳥の音がありがたいと思ふ。  黄葉を詠む 妻ごもる矢野の神山露霜に にほひそめたり散らまく惜しも  万2178 *矢野の神山が露霜のために見事に色づいた黄葉が散るのが惜しいです。 朝露ににほひそめたる秋山に しぐれな降りそありわたるがね  万2179  右の二首は、柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ。 *朝露に染まったような秋山に時雨よ降らないでおくれよ。 九月のしぐれの雨に濡れ通り 春日の山は色づきにけり  万2180 *九月の時雨の雨ですっかり濡れた春日山が色づいています。 雁が音の寒き朝明の露ならし 春日の山をもみたすものは  万2181 *雁の鳴き声が寒々と聞こえる明け方。春日山を色づかせるのは朝の露だろう。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の間接的な関係者: 神王  みわおう 737 -  志貴皇子の孫。榎井王の子。右大臣。桓武天皇の近親として桓武朝後半の治世を支え全うした。礼儀正しく慎み深い性格、飾ることなく、物事にも執着せずあっさりしていた。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2174‐2177番歌(春は萌え夏は緑に)~アルケーを知りたい(1466)

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▼秋の風情を詠った作品四首。2174番の作者は農家か、農家に雇われた人の作と思ふ。稲刈りは一気に済ませたいので田んぼの近くにテント(仮廬)を作って寝泊まりしていたようだ。冷え込む夜はさぞ寒かったことだろう。その寒さを強調した歌が2175番。露が降りると萩の花の時期も終わり、という。2176番は稲刈りが進むと露が下りる穂や葉がなくなる、露の立場で詠う。2177番は春から秋までの山の色の変化を詠う歌。作者は、秋が最高、と思っているようだが、どうだろう。 秋田刈る仮廬を作り我が居れば 衣手寒く露ぞ置きにける  万2174 *秋、稲刈り用の仮小屋を作って入っていると、袖口は寒く露までおりたよ。 このころの秋風寒し萩の花 散らす白露置きにけらしも  万2175 *この頃は秋風が寒くなってきました。萩の花を散らす露も降り始めています。 秋田刈る苫手動くなり白露し 置く穂田なしと告げに来ぬらし   一には「告げに来らしも」といふ  万2176 *秋の稲刈りをする小屋の苫が風で動きます。白露が下りる稲穂がありませんと言いに来ているようです。  山を詠む 春は萌え夏は緑に紅の まだらに見ゆる秋の山かも  万2177 *春は萌え、夏は緑一色、いまは紅葉がまだらに見える 秋の 山です。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 桓武 天皇  かんむてんのう 737 - 806 第50代天皇。平城京から長岡京および平安京への遷都を行った。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2170‐2173番歌(白露を取らば消ぬべし)~アルケーを知りたい(1465)

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▼季節は秋、時間はかなり早い朝方。萩があって、露が下りている。その風景を詠んだ歌。空気も透き通っていそう。和歌は風景画でもあります。 秋萩の枝もとををに露霜置き 寒くも時はなりにうけるかも  万2170 *秋萩の枝の元にまんべんなく露霜が降りています。寒い時期になったものです。 白露と秋の萩とは恋ひ乱れ 別くことかたき我が心かも  万2171 *白露と秋の萩はどちらも相性抜群なので分けるなんてムリ。 我がやどの尾花押しなべ置く露に 手触れ我妹子散らまくも見む  万2172 *我が家の尾花にびっしりと降りた露に妻が手を触れて散るところ見たい。 白露を取らば消ぬべしいざ子ども 露に競ひて萩の遊びせむ  万2173 *白露は取れば消えます。さあみなさん、露と競って萩で遊びましょう。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 大伴 是成  おおとも の これなり ? - ? 奈良時代から平安時代初期の貴族。799年、桓武天皇の詔で淡路国へ派遣され、早良親王の霊に謝罪した。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2166‐2169番歌(夕立の雨降るごとに)~アルケーを知りたい(1464)

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▼鳥の鳴き声が今までと違って聞こえるから季節が変わったらしいと詠う2166番。今でも、日が長くなったとか、服装が変わったとか言うけど、万葉時代は鳥の鳴き声が変わったと言っていたのだろうか。変化に敏感ですごいな。2168と2169は露の歌。露の残る草むらをズボンを濡らしながら歩いてみたくなる。  鳥を詠む 妹が手を取石の池の波の間ゆ鳥が 音異に鳴く秋過ぎぬらし  万2166 *妻の手を取るという取石の池の波間で鳴く鳥の声がこれまでと違って聞こえます。秋が過ぎたのでしょう。 秋の野の尾花が末に鳴くもずの 声聞きけむか片聞け我妹  万2167 *秋の野の尾花の末で鳴くモズの声。聞こえますか、耳を傾けてください、私の妻よ。  露を詠む 秋萩に置ける白露朝な朝な 玉としぞ見る置ける白露  万2168 *秋萩の上に降りた白露を毎朝、玉として見ていますよ、白露を。 夕立の雨降るごとに  一には「うち降れば」といふ  春日野の尾花が上の白露思ほゆ  万2169 *夕立の雨が降るごとに春日野の尾花の上の白露を思い出します。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 石川 垣守  いしかわ の かきもり ? - 786 奈良時代の貴族。長岡京造営を担当。785年、藤原種継暗殺事件に連座した早良親王を淡路国へ配流するために派遣された。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2162‐2165番歌(神なびの山下響み)~アルケーを知りたい(1463)

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▼蛙の歌4首。2163番は物思いをしているとカエルの声が聞こえて、気づくと夕方、という歌。ここはカエルじゃなくてヒグラシでも雁がねでも置き換えできそう。すると歌の風情がちょっと変わる。作者の物思いの内容が、カエルだと妻の事を考えてるんじゃないか、と思う。ヒグラシだと、これからの人生 (?) についてとか。雁がねだと、職場の人間関係(?)についてとか。知らんけど。 神なびの山下響み行く水に かはづ鳴くなり秋と言はむとや  万2162 *神奈備山のふもとで音を響かせながら流れる水と一緒にカエルが鳴いています。秋ですね。 草枕旅に物思ひ我が聞けば 夕かたまけて鳴くかはづかも  万2163 *旅に出て物思いしているとき聞こえてくるのは、夕方になったよと言わんばかりに鳴くカエルの声です。 瀬を早み落ちたぎちたる白波に かはづ鳴くなり朝夕ごとに  万2164 *瀬を勢いよく流れ落ちる白波を浴びながらカエルが朝に夕に鳴いています。 上つ瀬にかはづ妻呼ぶ夕されば 衣手寒み妻まかむとか  万2165 *川の上流の瀬でカエルが妻を呼んで鳴いています。夕方は冷えるから身を寄せ合おうと言うように。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 藤原 園人  ふじわら の そのひと 756 - 819 奈良時代末期~平安時代初期の公卿。事件への関与を疑われ事件直後に地方官に左遷。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2158‐2161番歌(蔭草の生ひたるやどの)~アルケーを知りたい(1462)

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▼今回はコオロギの歌が3首、カエルの歌が1首。コオロギの漢字は 蟋。この漢字、なかなか読めません、書けません。じゃあカエルは書けるかというと、こちらも書けません、読めません。 蝦。歌になると風情があって可愛い。  蟋を詠む 秋風の寒く吹くなへ我がやどの 浅茅が本にこほろぎ鳴くも  万2158 *秋風が吹いて寒々しい季節。我が家の浅茅の根元でコオロギが鳴いています。 蔭草の生ひたるやどの夕影に 鳴くこほろぎは聞けど飽かぬかも  万2159 *蔭草が生えている家の夕刻時に鳴いているコオロギの声はいくら聞いても飽きません。 庭草に村雨降りてこほろぎの 鳴く声聞けば秋づきにけり  万2160 *庭の草に村雨が降るとき、コオロギの鳴く声を聞くと、いよいよ秋だなあと感じます。  蝦を詠む み吉野の岩もとさらず鳴くかはづ うべも鳴きけり川をさやけみ  万2161 *吉野の岩の間から動かずに鳴くカエル。そうやって鳴くのももっともだ、川が澄んでいるからなあ。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 吉備 泉  きび の いずみ 743 - 814 奈良時代から平安時代初期の公卿。吉備真備の子。795年、藤原種継事件の関与が疑われ備中国に左遷。幼い頃より学才が評判。性格はかたくなで短気、物事に逆らうこと多。政務を行うにあたり原則を踏まえず処置するなど、強情で心がねじけていた。老いても変わることがなかった・・・ 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2154‐2157番歌(夕影に来鳴くひぐらし)~アルケーを知りたい(1461)

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▼今回は鹿の歌3首とヒグラシの歌一首。いずれも秋の歌。鹿の声を人の心に寂しさを思い起こさせ、ヒグラシの鳴き声は心地よいBGMのようだ。 なぞ鹿のわび鳴きすなるけだしくも 秋野の萩や繁く散るらむ  万2154 *なぜ鹿が侘し気に鳴くのでしょうか。もしかしたら秋の野で萩がどんどん散っているからでしょうか。 秋萩の咲きたる野辺にさを鹿は 散らまく惜しみ鳴き行くものを  万2155 *秋萩が咲いている野原で雄鹿は、散るのを惜しんで鳴いているのでしょう。 あしひきの山の常蔭に鳴く鹿の 声聞かすやも山田守らす子  万2156 *山で一日太陽の当たらない場所で鳴く鹿の声を聞いていますか。山の田を守る貴方様は。  蝉を詠む 夕影に来鳴くひぐらしここだくも 日ごとに聞けど飽かぬ声かも  万2157 *夕方の影に乗って来て鳴くヒグラシ。毎日聞いているけどいっこうに飽かない鳴き声です。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 和気 広世  わけ の ひろよ ? - ? 奈良時代末期~平安時代初期の貴族・学者。和気清麻呂の長男。785年、藤原種継暗殺事件に連座して禁錮。特別の恩赦で復帰。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2150‐2153番歌(山遠き都にしあれば)~アルケーを知りたい(1460)

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▼今回は萩と鹿を組み合わせで秋の情緒がしみる4首。それぞれの歌に特徴のある言葉がある。2150は「おほほしみ」、2151は「乏しくもあるか」、2152は「ともしみ」、2153は「露を別けつつ」。これらと萩と鹿が結合すると、あら不思議、秋の風情がしみる歌になる。 秋萩の散りゆく見ればおほほしみ 妻恋すらしさを鹿鳴くも  万2150 *秋萩が散るのを見ると気持ちが萎えるので、雄鹿は雌鹿に逢いたくて鳴くのです。 山遠き都にしあればさを鹿の 妻呼ぶ声は乏しくもあるか  万2151 *山から遠く離れた都にいるので、雄鹿が雌鹿に呼びかける声は聞こえませんね。 秋萩の散り過ぎゆかばさを鹿は わび鳴きせむな見ずはともしみ  万2152 *秋萩が散ってしまうと雄鹿はわびしく鳴くのだが、萩の花が見られないといって。 秋萩の咲きたる野辺はさを鹿ぞ 露を別けつつ妻どひしける  万2153 *秋萩が咲いた野原では雄鹿が、露を払いのけながら雌鹿のところに通っています。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 林 稲麻呂  はやし の いなまろ ? - ? 奈良時代の官人。785年、藤原種継暗殺事件で早良親王が春宮を廃されると、東宮学士として仕えていた稲麻呂も連座して伊豆国へ流罪。806年、恩赦。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2146‐2149番歌(山の辺にい行くさつ男は)~アルケーを知りたい(1459)

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▼鹿の声がうるさいから山の近くに住むのはお勧めしない、という 2146番 。鹿狩り行く猟師が多いというのに山でも野でも鹿が鳴いている、という2147番。そんな鹿の鳴き声を人に聞かせたい気持ちを詠う2148番。猟師に狙われるリスクを冒してまで鹿が鳴く理由を解く2149番。鹿はどんな鳴き声か気になってくる。猫の鳴き声がうるさかったのが懐かしく思える。今回の4首は、見ているうちに笑顔になる歌。 山近く家や居るべきさを鹿の 声を聞きつつ寐寝かてぬかも  万2146 *山の近くの家に住むのはやめたほうがいい。雄鹿の鳴き声がうるさくて寝るに寝られませんから。 山の辺にい行くさつ男は多かれど 山にも野にもさを鹿鳴くも  万2147 *山に狩りに行く猟師が多いというのに、山でも野でも雄鹿が出て鳴いています。 あしひきの山より来せばさを鹿の 妻呼ぶ声を聞かましものを  万2148 *山を通ってきたならば、雄鹿が雌鹿を呼ぶ鳴き声が聞けたことでしょうに。 山辺にはさつ男のねらひ畏けど を鹿鳴くなり妻が目を欲り  万2149 *山には猟師に狙われるのが怖いけれど、それでも雄鹿は雌鹿に逢いたくて鳴くのです。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 藤原 雄依/小依  ふじわら の おより ? - ? 奈良時代から平安時代初期の貴族。藤原永手の次男。785年、藤原種継暗殺事件に連座して隠岐国へ流罪。805年、流罪となっていた五百枝王らと共に赦されて帰京。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2142‐2145番歌(雁は来ぬ萩は散りぬと)~アルケーを知りたい(1458)

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▼今回は、動物は鹿と雁、植物は萩、そして季節は秋。この材料で絵が描けそう。 さを鹿の妻ととのふと鳴く声の 至らむ極み靡け萩原  万2142 *雄鹿が妻を呼んで鳴く声が届く先まで、萩原よ風に靡け。 君に恋ひうらぶれ居れば敷の野の 秋萩しのざきを鹿鳴くも  万2143 *貴方様を思ってしょんぼりしていると敷野の秋萩を押し分けるながら鹿が鳴いています。 雁は来ぬ萩は散りぬとさを鹿の 鳴くなる声もうらぶれにけり  万2144 *雁が飛んでくる、萩の花は散る。すると雄鹿の鳴き声もうらぶれてくる。 秋萩の恋も尽きねばさを鹿の 声い継ぎい継ぎ恋こそまされ  万2145 *秋萩への恋しさも尽きないのに、雄鹿が妻を呼ぶ声が絶えず聞こえるので、思いは募るばかりです。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 紀 白麻呂  き の しろまろ ? - ? 奈良時代の貴族。785年、藤原種継暗殺事件で隠岐国へ流罪。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2138‐2141番歌(このころの秋の朝明に)~アルケーを知りたい(1457)

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▼2140番は 雁が詠っている歌。 2139番の人に問いかけている。人と雁の問答になっていて面白い。 鶴がねの今朝鳴くなへに雁がねは いづくさしてか雲隠るらむ  万2138 *鶴が今朝鳴いている辺りで雁はどちらに向かって飛んでいるのだろう。雲に隠れて。 ぬばたまの夜渡る雁はおほほしく 幾夜を経てかおのが名を告る  万2139 *夜間飛行中の雁の声がうっすらと聞こえます。あと何日夜を過ごせば名前を名乗ってくれるのでしょうか。 あらたまの年の経ゆけば率ふと 夜渡る我を問ふ人や誰れ  万2140 *新年に仲間と夜間飛行している私に名を名乗れと仰るお方がいらっしゃいます。そっちこそ、どなたさんでしょう。  鹿鳴を詠む このころの秋の朝明に霧隠り 妻呼ぶ鹿の声のさやけさ  万2141 *秋の朝が明ける頃に、霧の中で妻を呼ぶ鹿の声がさわやかに聞こえます。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 伴 国道  とも の くにみち 768 - 828 平安時代初期の公卿。大伴継人の子。大伴宿禰姓から伴宿禰姓へ改姓。785年の藤原種継暗殺事件で父・継人が処刑(斬首)され、連座して佐渡国へ流罪。803年、恩赦により平安京に戻る。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2134‐2137番歌(つとに行く雁の鳴く音は)~アルケーを知りたい(1456)

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▼2134の「 秋風の吹き来るなへ 」の「なへ」が良い味を出している。周辺という意味らしい。2135の「おしてる」は難波にかかる枕詞というんだけど、おもしろい。おもしろいから例えば電通大の枕詞を考えてみた。電波を飛ばす、言葉を飛ばす、ことばす電通大なんてどうだろう。こうしてみると枕詞は現代はキャッチコピーなのか(笑)。2136を見ていると、羽毛服が強力に暖かい理由が分かる。霜が降る冷え込みでも雁は寝られるんだから。2137の「つとに行く」の「つと」は朝早くの意味。そういわれれば枕草子も「 冬はつとめて」と言ってた。 葦辺にある萩の葉さやぎ秋風の 吹き来るなへに雁鳴き渡る   一には「秋風に雁が音聞こゆ今し来らしも」といふ  万2134 *葦辺に生える萩の葉がさやいでいます。そのように秋風が吹きよせてくる周辺で雁が鳴きながら飛んでいます。 おしてる難波堀江の葦辺には 雁寝たるかも霜の降らくに  万2135 *難波堀江の葦辺で雁が寝ているのでしょう。霜が降りているだろうに。 秋風に山飛び越ゆる雁がねの 声遠ざかる雲隠るらし  万2136 *秋風に乗って山を飛び越えている雁の鳴き声が遠ざかっています。雲に入っていくのでしょう。 つとに行く雁の鳴く音は我がごとく 物思へれかも声の悲しき  万2137 *早朝に飛び行く雁の鳴き声は、私のようにものを思っての声だろうか。そう思うと悲しく聞こえます。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 大伴 永主  おおとも の ながぬし ? - ? 奈良時代後期の貴族。大伴家持の子。785年、藤原種継暗殺事件では、前月に没していた父・家持が首謀者とされ永主も連座して隠岐国へ流罪。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2130‐2133番歌(我がやどに鳴きし雁がね)~アルケーを知りたい(1455)

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▼今回は、雁、雲、鹿、月、田が効いて味を出している歌四首。漢字一文字の威力。「月をよむ」「はだれ霜」「冬かたまけて」は今は使わない言葉だけれど、何かが伝わってくる感じがする。春かたまけて、今日も落ち着いて過ごそう・・・ってこの使い方で合ってるのかな。 我がやどに鳴きし雁がね雲の上に 今夜鳴くなり国へかも行く  万2130 *私の家で鳴いていた雁が、今夜は雲の上で鳴いています。里に帰るのでしょう。 さを鹿の妻どふ時に月をよみ 雁が音聞こゆ今し来らしも  万2131 *雄鹿が妻を呼ぶときに月を見ると雁の鳴き声が聞こえてきます。今にもやって来そうです。 天雲の外に雁が音聞きしより はだれ霜降り寒しこの夜は   <一には「いやますますに恋こそまされ」といふ>  万2132 *天空の雲の上から雁の声が聞こえます。うっすらと霜が下りて寒い夜です。<ますます恋しい気分です> 秋の田の我が刈りばかの過ぎぬれば 雁が音聞こゆ冬かたまけて  万2133 *秋の田で私の分担する場所を刈り終えたとき、雁の鳴き声が聞こえてきました。冬が近づいたのですね。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 大伴 真麻呂  おおとも の ままろ ? - 785 奈良時代の貴族。藤原種継暗殺事件の翌日、捕縛され斬刑。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2126‐2129番歌(秋風に大和へ越ゆる)~アルケーを知りたい(1454)

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▼2126と2127はすれ違いの歌、そこはかとない悲しさを感じる。2128と2129も雁が出て来るけど、悲しさの味が前の二首とは少し違う。目の前の花か、遠い空を飛ぶ雁か、の違いからか。 秋萩は雁に逢はじと言へればか  <一には「 言へれかも 」といふ>  声を聞きては花に散りぬる  万2126 *秋萩は雁には逢わない、と言い伝えがあります。そのとおり、雁の声が聞こえる時期になると花が散ります。 秋さらば妹に見せむと植ゑし萩 露霜負ひて散りにけるかも  万2127 *秋になったら妻に見せよう植えていた萩。露霜がおりて花が散ってしまいました。  雁を詠む 秋風に大和へ越ゆる雁がねは いや遠ざかる雲隠りつつ  万2128 *秋風に乗って大和方面に飛んでいく雁の一隊がだんだんと遠ざかって雲に隠れています。 明け暮れの朝霧隠り鳴きて行く雁は 我が恋妹に告げこそ  万2129 *明け方まだ暗いうちに朝霧に隠れるようにして鳴きながら飛んでいく雁よ、私の思いを妻に伝えてくれ。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 大伴 竹良  おおとも の たけら ? - ? 奈良時代後期の貴族。大伴継人の弟。藤原種継暗殺事件で死罪(斬首)。矢を射った実行者。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2122‐2125番歌(ますらをの心はなしに)~アルケーを知りたい(1453)

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▼自分は男子なのに花にこんなに心を奪われて良いものか、と詠う2122番が面白い。時の流れを季節の象徴に託しているのだろうか。 ますらをの心はなしに秋萩の 恋のみにやもなづみてありなむ  万2122 *男子たる心意気を失って秋萩への執着ばかりに囚われていて良いものか。 我が待ちし秋は来りぬしかれども 萩の花ぞいまだ咲かずける  万2123 *私が待ち望んでいた秋が来ました。でも萩の花はいまだに咲いておりません 見まく欲り我が待ち恋ひし秋萩は 枝もしみみに花咲にけり  万2124 *見たくて待ち遠しかった秋萩の花。枝にみっちり咲いています。 春日野の萩は散りなば朝東風の 風にたぐひてここに散り来ね  万2125 *春日野の萩が散るのなら、朝吹く東風の風に乗ってここで散ってもらいたい。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 大伴 継人  おおとも の つぐひと ? - 785 奈良時代後期の貴族。父親は大伴古麻呂。藤原種継暗殺事件で死罪(斬首)。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2118‐2121番歌(恋しくは形見にせよと)~アルケーを知りたい(1452)

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▼和歌独自の言い回しがある。今回の歌はそれを持っているように思ふ。2118は「いまだ飽かなくに」、2120は「 またも逢はめやも 」、2121は「 散らまく惜しも 」。このフレーズを使うだけで表現が和歌っぽくなりそう。 朝霞のたなびく小野の萩の花 今か散るらむいまだ飽かなくに  万2118 *朝の霞がたなびく小野で咲いている萩の花が今にも散りそうです。まだ見飽きていないというのに。 恋しくは形見にせよと我が背子が 植ゑし秋萩花咲きにけり  万2119 *恋しくなったら思い出すよすがにしなさいと私の夫が植えてくれた秋萩の花が咲きました。 秋萩に恋尽さじと思へども しゑやあたらしまたも逢はめやも  万2120 *秋萩に気持ちを持っていかれないようにと思うのだけれど、いやはやこれは滅多にお目にかかれない見事な秋萩です。 秋風は日に異に吹きぬ高円の 野辺の秋萩散らまく惜しも  万2121 *秋風が日ごとに強く吹くようようになりました。高円の野原の秋萩が散ってしまうのが惜しいです。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 春原 五百枝  はるはら の いおえ 760 - 830 平安時代初期の公卿。市原王の子。志貴皇子の玄孫。藤原種継事件の後、伊予国へ流罪。805年、赦免され帰京。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2114‐2117番歌(手に取れば袖さへにほふ)~アルケーを知りたい(1451)

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▼秋の風景が目前に広がって来そうな歌4首。2115番の「にほふ」は今の匂うではなく、染まる、という意味で使われている。これもおもしろき。 我がやどに植ゑ生ほしたる初萩を 誰れか標刺す我れに知らえず  万2114 *我が家の庭に植えて育てていた初萩なのに、私が知らないうちにどこかの誰かが縄で囲っている。 手に取れば袖さへにほふをみなへし この白露に散らまく惜しも  万2115 *手に取って見ると袖まで染まりそうなおみなえしの花。この白露で散ってしまうのが惜しい。 白露に争ひかねて咲ける萩 散らば惜しけむ雨な降りそね  万2116 *白露に急かされるようにして咲いた萩の花。散るのが惜しいから雨よ降らないでおくれ。 娘子らに行き逢ひの早稲を刈る 時になりにけらしも萩の花咲く  万2117 *早稲を刈る時期になりました。萩の花が咲いています。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 早良親王  さわらしんのう 750 - 785 奈良時代の皇親、僧侶。光仁天皇の皇子。桓武天皇の皇太子なるも、藤原種継の暗殺に関与した罪により廃され、絶食して没した。石川垣守が発見。種継暗殺に実際に関与していたかどうか不明。大伴家持をはじめとする歌人たちと万葉集を企画。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2110‐2113番歌(人皆は萩を秋と言ふよし)~アルケーを知りたい(1450)

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▼2110は秋をいつとするのかについての持論を述べた歌。みなさんはAと仰る、しかし私はBと言いましょう、と対比させている。2111は萩の贈り主への気持ちが伝わる歌。2112も萩を介した大切な人への気持ちを表す歌。 ▼ 藤原種継暗殺事件には、万葉集の編集者である大伴家持が連座した。家持のことを旅人の息子で、書持の優しいお兄さん、という面でしかとらえてなかった。けれど、歴史に残る事件に深く関わる面もあったことを知った。 人皆は萩を秋と言ふよし 我れは尾花が末を秋とは言はむ  万2110 *世間のみなさんは萩の花が咲いたときをもって秋と仰る。でも私は、萩の花が終わった頃が秋であると申しましょう。 玉梓の君が使の手折り来る この秋萩は見れど飽かぬかも  万2111 *ご主人様の使いの人が手折ってお持ちくださったこの秋萩は、いくら見ても飽きません。 我がやどに咲ける秋萩常ならば 我が待つ人に見せましものを  万2112 *私の家で咲いた秋萩の花は、咲いた状態が続くものであれば私がお待ちしている方にお見せしたいものです。 手寸十名相植ゑしくしるく出で見れば やどの初萩咲きにけるかも  万2113 *「手寸十名相」を植えたかいがあって、庭に出て見ると初萩が咲いております。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 大伴 家持  おおともの やかもち 718 - 785 公卿・歌人。藤原種継事件の一か月前に死去していたものの、首謀者として官籍から除名された。万葉集は、反逆者が編纂した歌集と見られたため公的認知が遅れた。   〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2106‐2109番歌(さ額田の野辺の秋萩)~アルケーを知りたい(1449)

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▼歌を見ていると、風景や絵柄が クリアに イメ―ジできるものとそうでないものがある。2106は秋萩をかんざしにする絵柄が浮かぶ。でも2107は女郎花と萩の二つが出て来るので、どちらに焦点が当たっているのか分からないのでちょっと落ち着かない気分になる。 さ額田の野辺の秋萩時なれば 今盛りなり折りてかざさむ  万2106 * 額田 の秋萩の花が盛りを迎えたので、折り取ってかんざしにしましょう。 ことさらに衣は摺らじをみなへし 佐紀野の萩ににほひて摺さむ  万2107 *わざわざ着物を染めることはない。女郎花が咲く佐紀野の萩が花盛りだからそれに染まりましょう。 秋風は疾く吹き来萩の花 散らまく惜しみ競ひ立つ見む  万2108 *秋風よ、すぐここに来て吹いてくれ。萩の花が散るのを惜しむように枝が揺れるのを見たいから。 我がやどの萩の末長し秋風の 吹きなむ時に咲かむと思ひて  万2109 *私の家に咲いている萩の枝が長く伸びています。秋風が吹いたら花咲かせようと思っているのでしょう。 【似顔絵サロン】785年、長岡京遷都の後、造宮監督中に矢で射殺される藤原種継暗殺事件が発生。これに関係する人々: 藤原 種継  ふじわら の たねつぐ 737 - 785 奈良時代末期の公卿。藤原宇合の孫。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2102‐2105番歌(秋風は涼しくなりぬ)~アルケーを知りたい(1448)

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▼今は春、今回の4首は秋。季節は違うけれど、面白い歌ぞろい。2102は花が露と争ふ、という表現が面白い。2103は、好きなワード「馬並めて」が入っているだけで嬉しい。一緒に萩を見に行くのだなあ、楽しそうだ。2104は、作者の好みがはっきり出ているのが好ましい。2105は「 秋萩咲きぬ折りてかざさむ」でトドメを刺されるのが嬉しい。 この夕秋風吹きぬ白露に 争ふ萩の明日咲かむ見ゆ  万2102 *今夕から秋風が立ち始めました。白露と競っている萩の花が明日、咲くかどうか見ものです。 秋風は涼しくなりぬ馬並めて いざ野に行かな萩の花見に  万2103 *秋風が涼しくなりました。さあ、馬を連ねて萩の花を見に野に出かけましょう。 朝顔は朝露負ひて咲くといへど 夕影にこそ咲きまさりけれ  万2104 *朝顔は朝露で咲くといいますが、私は夕方に咲く朝顔が勝っていると思います。 春されば霞隠りて見えずありし 秋萩咲きぬ折りてかざさむ  万2105 *春には霞で隠れて見えなかった萩ですけど、秋には花が咲きますから、折り取ってかんざしにします。 【似顔絵サロン】785年、長岡京遷都の後、造宮監督中に矢で射殺される藤原種継暗殺事件が発生。これに関係する人々: 桓武 天皇  かんむてんのう 737 - 806 第50代天皇。平城京から長岡京および平安京への遷都を行った天皇。784年、長岡京遷都を決意、藤原種継に任せる。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2098‐2101番歌(我が衣摺れるにはあらず)~アルケーを知りたい(1447)

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▼今回は、鹿、秋萩、白露、秋田という名詞で季節を感じる。秋萩や秋田の「秋」が効いているんだな。「 散らまく 」「枯らさむ」「にほふ」「摺れる」で出来上がる。今日はどこの野辺に行って衣を摺らむ。 奥山に棲むといふ鹿の宵さらず 妻どふ萩の散らまく惜しも  万2098 *奥山に棲む鹿は毎夕、雌鹿の所に行くけれど、そのときに萩の花が散ってしまうのが惜しい。 白露の置かまく惜しみ秋萩を 折りのみ折りて置きや枯らさむ  万2099 *白露が降りて秋萩の花が散るのが惜しいから、今のうちに折れるだけ折っておいたら枯れてしまうだろうか。 秋田刈る仮廬の宿りにほふまで 咲ける秋萩見れど飽かぬかも  万2100 *秋に稲刈りをするための小屋を照らし出すほど咲く秋萩はいくら眺めても飽きません。 我が衣摺れるにはあらず高松の 野辺行きしかば萩の摺れるぞ  万2101 *私の衣は染めたのではありません。高松の野原に行って萩の花の色で染まったのです。 【似顔絵サロン】740年、ポスト藤原広嗣の乱の人々: 光仁天皇  こうにんてんのう 709 - 782 第49代天皇。天智天皇の孫。藤原百川の推しを受けた。奈良時代最後の天皇。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2094‐2097番歌(雁がねの来鳴かむ日まで)~アルケーを知りたい(1446)

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▼季節の変わり目の花が雨で落ちるのを惜しむ歌。自分は風情を解する心に疎いけれど、こうやって詠まれた歌を見ていると、そうだなあと思ふ。そろそろ桜が咲くので、せっかくの花が雨で早く散るのが惜しい。  花を詠む さを鹿の心相思ふ秋萩の しぐれの降るに散らくし惜しも  万2094 *牡鹿が大好きな秋萩の花が時雨で散ってしまうのがたいへん残念です。 夕されば野辺の秋萩うら若み 露にぞ枯るる秋待ちかてに  万2095  右の二首は、柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ。 *夕方には野原の若い秋萩が露でしおれました、秋が来るのを待ちかねるように。 真葛原靡く秋風吹くごとに 阿太の大野の萩の花散る  万2096 *真葛原では秋風が吹くたびに、阿太の大野で咲いている萩の花が散ります。 雁がねの来鳴かむ日まで見つつあらむ この萩原に雨な降りそね  万2097 *雁が来て鳴く日まで見ていたいから、 雨よ、 この萩の原に降らないでおくれ。 【似顔絵サロン】740年、ポスト藤原広嗣の乱の人々: 藤原 百川  ふじわら の ももかわ 732 - 779 奈良時代の公卿。藤原宇合の八男。広嗣の弟。神託事件で配流された和気清麻呂のために秘かに仕送りして支えた。称徳天皇=道鏡コンビの時代が終わった後、光仁天皇を擁立。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1886‐1889番歌(白雪の常敷く冬は)~アルケーを知りたい(1445)

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▼1886番は町で偶然知人に会った時にも応用できそう。1888番の「白雪の常敷く冬」が厳しい寒さを感じさせる美しい表現。1889番の「下心」 は、悪だくみの意味になっているけど、この歌ではそうではない。心の下、底からじわりと嬉しい、という感じ。  懼逢 住吉の里行きしかば春花の いやめづらしき君に逢へるかも  万1886 *住吉村を進んでいると、春の花のように心惹かれる貴方様に出逢いました。  旋頭歌 春日にある御笠の山に月も出でぬかも 佐紀山に咲ける桜の花の見ゆべく  万1887 *春日にある御笠山に月が出てくれないかな。佐紀山で咲いている桜の花が見えるように。 白雪の常敷く冬は過ぎにけらしも 春霞たなびく野辺のうぐひす鳴くも  万1888 *いつも白雪が積もる冬の季節が過ぎたようです。春霞がたなびく野原でウグイスの鳴き声が聞こえます。  譬喩歌 我がやどの毛桃の下に月夜さし 下心よしうたてのこのころ  万1889 *私の家の毛桃の木の下に月光が差しています。何となく嬉しい気持ちになるこの頃です。 【似顔絵サロン】740年、ポスト藤原広嗣の乱の人々: 和気 清麻呂  わけ の きよまろ 733 - 799日 奈良時代末期~平安時代初期の貴族。道鏡が天皇になって良いものか宇佐八幡に出かけて神託を聞き、朝廷に報告した。道鏡の意に反する内容だったので、散々な目に遭わされる。朝廷が変わり名誉回復できたので幸い。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1882‐1885番歌(物皆は新しきよし)~アルケーを知りたい(1444)

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▼1882番は好きなキーワード「思ふどち」が出て来る歌。よき。1883番は「梅をかざして」いる人たちの心持ちが楽しい。能では竹の枝を持つと気がふれている様を表す。和歌では梅をかざすと楽しい場面を思わせる。何を持つかで状況説明ができるのだ。1884番と1885番は人の老いを詠った作品。84番で「そうだねえ」と思い85番で「それそれ、それですよね」と思ふ。前向きな気持ちにしてくれる歌。 春の野に心延べむと思ふどち 来し今日の日は暮れずもあらぬか  万1882 *春の野でのんびりしようと思い、気心知れた仲間と出かけました。今日が暮れないと良いのに。 ももしきの大宮人は暇あれや 梅をかざしてここに集へる  万1883 *大宮人は暇なのだろうか、梅を簪にしてここに集まっているけど。  歎旧 冬過ぎて春し来れば年月は 新たなれども人は古りゆく  万1884 *冬が過ぎて春になれば年月は新しくなるけれども、人は古びるのです。 物皆は新しきよしただしくも 人は古りにしよろしかるべし  万1885 *物はなんでも皆新しいものが良い。でも人は古びるのが良いのだよ。 【似顔絵サロン】740年、ポスト藤原広嗣の乱の人々: 道鏡  どうきょう 700 - 772 奈良時代の僧侶。平将門、足利尊氏とともに「日本三悪人」。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1878‐1881番歌(春日野に煙立つ見ゆ)~アルケーを知りたい(1443)

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▼春の風景を詠う4つの歌。1878番は増水した川の瀬の音、「たぎつ」という言葉で激しそうだな、と思わせてくれる。台風の時は川や水路を見に行くのは危険だからダメだけど、春雨の増水くらいならば、いつもと違う風情を味わえるのだ。1879番は、野原で煮物をする煙が見えるという長閑な歌。アウトドアでの料理も道具だてが揃った今より、当時の娘子らのほうがちゃちゃっと要領が達者かもね 。1880番は「思ふどち」という好きなキーワードがある。思ふどちがある歌に外れなし。  川を詠む 今行きて聞くものにもが明日香川 春雨降りてたぎつ瀬の音を  万1878 *今すぐ行って聞けるものなら聞きたいものです。明日香川が春雨で増水して激しくなっている瀬の音を。  煙を詠む 春日野に煙立つ見ゆ娘子らし 春野のうはぎ摘みて煮らしも  万1879 *春日野に煙が立っているのが見えます。これはきっと娘子らが春野の若葉を摘んで煮ているのでしょう。  野遊 春日野の浅茅が上に思ふどち 遊ぶ今日の日忘れえめやも  万1880 *春日野の浅茅の上で仲の良い仲間で遊んだ今日の日は忘れられない思い出です。 春霞立つ春日野を行き返り 我れは相見むいや年のはに  万1881 *春霞が立っている春日野を往復しながら、私たちは毎年、顔を合わせるのです。 【似顔絵サロン】740年、ポスト藤原広嗣の乱の人々: 藤原 仲麻呂  ふじわら の なかまろ / 恵美押勝 706 - 764 奈良時代の公卿。藤原武智麻呂の次男。 淳仁天皇を推す。 恵美押勝の乱で孝謙天皇=道鏡に敗北、斬首。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10