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大伴旅人の万葉集864-867番歌~アルケーを知りたい(1113)

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▼旅人は都にいる医師の吉田連の宣(よろし)に、前出の815から863の歌を贈った。 ▼その返答として宣は大宰府にいる旅人に返書と一緒に以下の864から867までの歌を贈った。 ▼宜は 孝昭天皇 の後裔。医術に優れた元、僧。  諸人の梅花の歌に和へ奉る一首 後れ居て長恋せずは御園生(みそのふ)の 梅の花にもならましものを  万864 *そちらでお仲間に入ることもなくこちらで長々と思いめぐらしてばかりするよりも、貴方様の庭の梅の花になるほうがマシですよね。  松浦の仙媛の歌に和ふる一首 君を待つ松浦の浦の娘子らは 常世の国の海人娘子かも  万865 *貴方様をお待ちしている松浦の浦の娘さんたちは、常世の国の漁師の娘たちかも知れません。  君を思ふこと尽きずして、重ねて題す二首 はろはろに思ほゆるかも白雲の 千重に隔てる筑紫の国は  万866 *はるか遠くに思えるのです。千も重なる白雲が隔てる筑紫の国は。 君が行き日長くなりぬ奈良道なる 山斎の木立も神さびにけり  万867 *貴方様が着任してからの日数も重なりました。奈良道にあるお宅の庭の木々は神さびております。  751天平2年七月十日 【似顔絵サロン】 孝昭天皇  こうしょうてんのう 第5代天皇。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集一』角川ソフィア文庫。 https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/tabito2.html https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%BC%B4%E6%97%85%E4%BA%BA

大伴旅人の万葉集861-863番歌~アルケーを知りたい(1112)

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▼今回も 「松浦川に遊ぶ」物語の歌の続き。旅人と憶良の共作。863番は、もろに旅人を羨ましがっている 憶良であることよ、とまる分かり。  後人の追和する歌三首 帥老 松浦川川の瀬早み紅の裳の 裾濡れて鮎か釣るらむ  万861 *松浦川の川の瀬の流れが早いので、紅の裳の裾を濡らしながら鮎を釣っていることでしょう。 人皆の見らむ松浦の玉島を 見ずてや我れは恋ひつつ居らむ  万862 *人は誰でも見る松浦の玉島を私は見ずに恋心ばかり抱いております。 松浦川玉島の浦に若鮎釣る 妹らを見らむ人の羨しさ  万863 *松浦川の玉島の浦で若鮎を釣る娘さんらを見ている人が羨ましいです。 【似顔絵サロン】 鑑真  がんじん 688 - 763 75歳。奈良時代の僧人。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集一』角川ソフィア文庫。 https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/tabito2.html https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%BC%B4%E6%97%85%E4%BA%BA

大伴旅人の万葉集855-860番歌~アルケーを知りたい(1111)

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▼「 松浦川に遊ぶ 」物語の歌の続き。 ▼物語の世界での歌のやりとり。男性の歌が3首、女性の歌が3首。  蓬客のさらに贈る歌三首 松浦川川の瀬光り鮎釣ると立たせる 妹が裳の裾濡れぬ  万855 *松浦川の瀬が光り鮎を釣って立っておられる貴方様の裳の裾が濡れています。 松浦なる玉島川に鮎釣ると 立たせる子らが家道知らずも  万856 *松浦にある玉島川で鮎釣りをして立っている貴方様は家に行く道を教えてくれません。 遠つ人松浦の川に若鮎釣る 妹が手本を我こそまかめ  万857 *松浦川で若鮎を釣る貴方様の手を私の枕にしたい。  娘子らがさらに報ふる歌三首 若鮎釣る松浦の川なみの 並にし思はば我れ恋ひめやも  万858 *若鮎を釣る松浦の川なみ、貴方様はなみのお方ではないので私は恋しています。 春されば我家の里の川門には 鮎子さ走る君待ちがてに  万859 *春が去れば我が家がある里の川門には、鮎の子が貴方を待って水中を走っているでしょう。 松浦川七瀬の淀は淀むとも 我れは淀まず君をし待たむ  万860 *松浦川の七瀬の淀は淀んでも、私は淀むことなく貴方様をお待ちします。 【似顔絵サロン】 レオン3世   Leōn III ho Isauros  685 - 741 56歳。東ローマ帝国の初代皇帝。聖像禁止令を発出。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集一』角川ソフィア文庫。 https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/tabito2.html https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%BC%B4%E6%97%85%E4%BA%BA

大伴旅人の万葉集853-854番歌~アルケーを知りたい(1110)

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▼物語になっている序と和歌2首。 ▼ 万葉集初心者の私にはどう捉えてよいか分からない作品なので、 旅人はこういう作品も作っていたんだ、と思いながら味わいます。  松浦川に遊ぶ 序 余、たまさかに松浦の県に往きて逍遥し、いささかに玉島の潭に臨みて遊覧するに、たちまちに魚を釣る娘子らに値ひぬ。 花容双びなく、光儀匹ひなし。 柳葉を眉の中に開き、桃花を頬の上に発く。 意気は雲を凌ぎ、風流は世に絶れたり。 僕、問ひて「誰が郷誰が家の子らぞ、けだし神仙にあらむか」といふ。 娘子ら、みな咲み答へて「児等は漁夫の舎の児、草庵の微しき者なり。 郷もなく家もなし。 何ぞ称り云ふに足らむ。 ただ性水に便ひ、また心山を楽しぶ。 あるいは洛浦に臨みて、いたづらに玉魚を羨しぶ、あるいは巫峡に臥して、空しく煙霞を望む。 今たまさかに貴客に相遭ひ、感応に勝へず、すなはち款曲を陳ぶ。 今より後に、あに偕老にあらざるべけむ」といふ。 下官、対へて「唯々、敬みて芳命を奉はらむ」といふ。 時に、日は山の西に落ち、驪馬去なむとす。 つひに懐抱を申べ、よりて詠歌を贈りて曰はく、 あさりする海人の子どもと人は言へど 見るに知らえぬ貴人の子と  万853 *漁をする海人の子だと人は言うのだけれど、身分を隠した貴人のお子とお見受けしました。  答ふる詩に曰はく、 玉島のこの川上に家はあれど 君を恥しみあらはさずありき  万854 *家は玉島のこの川上にございますけれど、貴方様を見て恥ずかしいので黙っておりました。 【似顔絵サロン】 旅人の 43歳年下のドイツの 人。 カール・マルテル  Karl Martell 688 - 741 53歳 フランク王国の宮宰。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集一』角川ソフィア文庫。 https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/tabito2.html https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%BC%B4%E6%97%85%E4%BA%BA

大伴旅人の万葉集849-852番歌~アルケーを知りたい(1109)

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▼梅花の宴の歌の数々と員外の2首に続いて旅人が追和した4首。 ▼4首の中の2首の下の句に「 見む人もがも 」という言葉が入っている。亡くした妻と一緒に見られたら良かったのに、という思いが伝わる。 ▼最後の1首は酒が出てくるので旅人っぽくて嬉しい。  後に梅の歌に追和する四首 残りたる雪に交れる梅の花 早くな散りそ雪は消すとも  万849 *溶けずに残った雪と梅の花よ、すぐに散らないでね、雪は消えても。 雪の色を奪ひて咲ける梅の花 今盛りなり見む人もがも  万850 *雪の色を奪い取ったように咲いている梅の花は今が盛り。一緒に見てくれる人がいれば良いのに。 我がやどに盛りに咲ける梅の花 散るべくなりぬ見む人もがも  万851 *我が家に咲き誇る梅の花が散る時がきました。一緒に見てくれる人がいれば良いのに。 梅の花夢に語らくみやびたる 花と我れ思ふ酒に浮かべこそ  一には「 いたづらに我れを散らすな酒に浮かべこそ 」といふ 万852 *夢で梅の花が語るには「雅な花と思いますので、酒に浮かべてください」。別バージョンとして「いたづらに私を散らさないでください、酒に浮かべてください」がある。 【似顔絵サロン】旅人のほぼ同時代人(30歳年上)でドイツの人。 ピピン2世  Pippin der Mittlere 635 - 714 79歳 フランク王国の宮宰。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集一』角川ソフィア文庫。 https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/tabito2.html https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%BC%B4%E6%97%85%E4%BA%BA

大伴旅人の万葉集847-848番歌~アルケーを知りたい(1108)

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▼梅花の歌三十二首の後に続く旅人の歌二首。 ▼初めが元気が出ないと嘆く歌、後が都に戻れば元気になるという望郷の歌。  員外、故郷を思ふ歌両首 我が盛りいたくくたちぬ雲に飛ぶ 薬食むともまたをちめやも  万847 *私の盛んだった時期は過ぎてしまった。飲めば雲にまで飛べるという薬を飲んでも無駄のようだ。 雲に飛ぶ薬食むよは都見ば いやしき我が身またをちぬべし  万848 *雲にまで飛べる薬を飲むより、都を見るほうが、卑しいわが身も元気になる。 【似顔絵サロン】 天武天皇  622 - 686 64歳。中大兄皇子の弟。持統天皇の夫。「日本」を国号とした天皇。「政の要は軍事である」と語った天皇。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集一』角川ソフィア文庫。 https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/tabito2.html https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%BC%B4%E6%97%85%E4%BA%BA

大伴旅人の万葉集838-846番歌~アルケーを知りたい(1107)

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▼梅花の歌三十二首その4 ▼梅の花、柳、かんざし、うぐいす、雪、酒。これらの言葉が梅花の宴のキーワードやなと思ふ(思わんでもキーワードやがな)。 梅の花散り乱ひたる岡びには うごひす鳴くも春かたまけて  大隅目榎氏鉢麻呂 万838 *梅の花が咲き乱れているこの岡では、鶯も鳴いています。まさに春たけなわです。 春の野に霧立ちわたり降る雪と 人の見るまで梅の花散る  筑前目田氏氏真上 万839 *春の野に霧が立ち雪が降っているのかと見まがうほどに梅の花が散っています。 春柳かづらに折りし梅の花 誰か浮かべし酒坏の上に  壱岐目村氏彼方 万840 *春の柳を折り取ってかづらにし、梅の花を酒の上に浮かべていらっしゃる人びと。 うぐひすの音聞くなへに梅の花 我家の園に咲きて散る見ゆ  対馬目高氏老 万841 *鶯の鳴き声を聞くたびにこの庭の梅の花が咲いては散るのが見えます。 我がやどの梅の下枝に遊びつつ うぐひす鳴くも散らまく惜しみ  薩摩目高氏海人 万842 *この庭園の梅の枝を飛び移りながら鶯が花が散るのを惜しんで鳴いています。 梅の花折りかざしつつ諸人の 遊ぶを見れば都しぞ思ふ  土師氏御道 万843 *梅の花を折ってかざしにして遊ぶ皆さまを見ていると都を思い出します。 妹が家に雪かも降ると見るまでに ここだもまがふ梅の花かも  小野氏国堅 万844 *妻の家に雪が降ったのかと思うほどにここでは梅の花が咲き乱れています。 うぐひすの待ちかてにせし梅が花 散らずありこそ思ふ子がため  筑前掾門氏石足 万845 *鶯ちゃんが待ちかねていた梅の花よ、散らずにいてね、梅の花を思い慕う子のために。 霞立つ長き春日をかざせれど いやなつかしき梅の花かも  小野氏淡理 万846 *霞立つ長い春の一日、梅の花をかんざしにしているけど、ますます心惹かれるものですな。 【似顔絵サロン】 持統天皇  645 - 703 58歳。中大兄皇子(天智天皇)の娘。天武天皇の皇后。百人一首2: 春すぎて夏来にけらし白妙の 衣ほすてふ天の香具山 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集一』角川ソフィア文庫。 https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/tabito2.html https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5