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万葉集巻第十2138‐2141番歌(このころの秋の朝明に)~アルケーを知りたい(1457)

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▼2140番は 雁が詠っている歌。 2139番の人に問いかけている。人と雁の問答になっていて面白い。 鶴がねの今朝鳴くなへに雁がねは いづくさしてか雲隠るらむ  万2138 *鶴が今朝鳴いている辺りで雁はどちらに向かって飛んでいるのだろう。雲に隠れて。 ぬばたまの夜渡る雁はおほほしく 幾夜を経てかおのが名を告る  万2139 *夜間飛行中の雁の声がうっすらと聞こえます。あと何日夜を過ごせば名前を名乗ってくれるのでしょうか。 あらたまの年の経ゆけば率ふと 夜渡る我を問ふ人や誰れ  万2140 *新年に仲間と夜間飛行している私に名を名乗れと仰るお方がいらっしゃいます。そっちこそ、どなたさんでしょう。  鹿鳴を詠む このころの秋の朝明に霧隠り 妻呼ぶ鹿の声のさやけさ  万2141 *秋の朝が明ける頃に、霧の中で妻を呼ぶ鹿の声がさわやかに聞こえます。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 伴 国道  とも の くにみち 768 - 828 平安時代初期の公卿。大伴継人の子。大伴宿禰姓から伴宿禰姓へ改姓。785年の藤原種継暗殺事件で父・継人が処刑(斬首)され、連座して佐渡国へ流罪。803年、恩赦により平安京に戻る。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2134‐2137番歌(つとに行く雁の鳴く音は)~アルケーを知りたい(1456)

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▼2134の「 秋風の吹き来るなへ 」の「なへ」が良い味を出している。周辺という意味らしい。2135の「おしてる」は難波にかかる枕詞というんだけど、おもしろい。おもしろいから例えば電通大の枕詞を考えてみた。電波を飛ばす、言葉を飛ばす、ことばす電通大なんてどうだろう。こうしてみると枕詞は現代はキャッチコピーなのか(笑)。2136を見ていると、羽毛服が強力に暖かい理由が分かる。霜が降る冷え込みでも雁は寝られるんだから。2137の「つとに行く」の「つと」は朝早くの意味。そういわれれば枕草子も「 冬はつとめて」と言ってた。 葦辺にある萩の葉さやぎ秋風の 吹き来るなへに雁鳴き渡る   一には「秋風に雁が音聞こゆ今し来らしも」といふ  万2134 *葦辺に生える萩の葉がさやいでいます。そのように秋風が吹きよせてくる周辺で雁が鳴きながら飛んでいます。 おしてる難波堀江の葦辺には 雁寝たるかも霜の降らくに  万2135 *難波堀江の葦辺で雁が寝ているのでしょう。霜が降りているだろうに。 秋風に山飛び越ゆる雁がねの 声遠ざかる雲隠るらし  万2136 *秋風に乗って山を飛び越えている雁の鳴き声が遠ざかっています。雲に入っていくのでしょう。 つとに行く雁の鳴く音は我がごとく 物思へれかも声の悲しき  万2137 *早朝に飛び行く雁の鳴き声は、私のようにものを思っての声だろうか。そう思うと悲しく聞こえます。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 大伴 永主  おおとも の ながぬし ? - ? 奈良時代後期の貴族。大伴家持の子。785年、藤原種継暗殺事件では、前月に没していた父・家持が首謀者とされ永主も連座して隠岐国へ流罪。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2130‐2133番歌(我がやどに鳴きし雁がね)~アルケーを知りたい(1455)

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▼今回は、雁、雲、鹿、月、田が効いて味を出している歌四首。漢字一文字の威力。「月をよむ」「はだれ霜」「冬かたまけて」は今は使わない言葉だけれど、何かが伝わってくる感じがする。春かたまけて、今日も落ち着いて過ごそう・・・ってこの使い方で合ってるのかな。 我がやどに鳴きし雁がね雲の上に 今夜鳴くなり国へかも行く  万2130 *私の家で鳴いていた雁が、今夜は雲の上で鳴いています。里に帰るのでしょう。 さを鹿の妻どふ時に月をよみ 雁が音聞こゆ今し来らしも  万2131 *雄鹿が妻を呼ぶときに月を見ると雁の鳴き声が聞こえてきます。今にもやって来そうです。 天雲の外に雁が音聞きしより はだれ霜降り寒しこの夜は   <一には「いやますますに恋こそまされ」といふ>  万2132 *天空の雲の上から雁の声が聞こえます。うっすらと霜が下りて寒い夜です。<ますます恋しい気分です> 秋の田の我が刈りばかの過ぎぬれば 雁が音聞こゆ冬かたまけて  万2133 *秋の田で私の分担する場所を刈り終えたとき、雁の鳴き声が聞こえてきました。冬が近づいたのですね。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 大伴 真麻呂  おおとも の ままろ ? - 785 奈良時代の貴族。藤原種継暗殺事件の翌日、捕縛され斬刑。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2126‐2129番歌(秋風に大和へ越ゆる)~アルケーを知りたい(1454)

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▼2126と2127はすれ違いの歌、そこはかとない悲しさを感じる。2128と2129も雁が出て来るけど、悲しさの味が前の二首とは少し違う。目の前の花か、遠い空を飛ぶ雁か、の違いからか。 秋萩は雁に逢はじと言へればか  <一には「 言へれかも 」といふ>  声を聞きては花に散りぬる  万2126 *秋萩は雁には逢わない、と言い伝えがあります。そのとおり、雁の声が聞こえる時期になると花が散ります。 秋さらば妹に見せむと植ゑし萩 露霜負ひて散りにけるかも  万2127 *秋になったら妻に見せよう植えていた萩。露霜がおりて花が散ってしまいました。  雁を詠む 秋風に大和へ越ゆる雁がねは いや遠ざかる雲隠りつつ  万2128 *秋風に乗って大和方面に飛んでいく雁の一隊がだんだんと遠ざかって雲に隠れています。 明け暮れの朝霧隠り鳴きて行く雁は 我が恋妹に告げこそ  万2129 *明け方まだ暗いうちに朝霧に隠れるようにして鳴きながら飛んでいく雁よ、私の思いを妻に伝えてくれ。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 大伴 竹良  おおとも の たけら ? - ? 奈良時代後期の貴族。大伴継人の弟。藤原種継暗殺事件で死罪(斬首)。矢を射った実行者。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2122‐2125番歌(ますらをの心はなしに)~アルケーを知りたい(1453)

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▼自分は男子なのに花にこんなに心を奪われて良いものか、と詠う2122番が面白い。時の流れを季節の象徴に託しているのだろうか。 ますらをの心はなしに秋萩の 恋のみにやもなづみてありなむ  万2122 *男子たる心意気を失って秋萩への執着ばかりに囚われていて良いものか。 我が待ちし秋は来りぬしかれども 萩の花ぞいまだ咲かずける  万2123 *私が待ち望んでいた秋が来ました。でも萩の花はいまだに咲いておりません 見まく欲り我が待ち恋ひし秋萩は 枝もしみみに花咲にけり  万2124 *見たくて待ち遠しかった秋萩の花。枝にみっちり咲いています。 春日野の萩は散りなば朝東風の 風にたぐひてここに散り来ね  万2125 *春日野の萩が散るのなら、朝吹く東風の風に乗ってここで散ってもらいたい。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 大伴 継人  おおとも の つぐひと ? - 785 奈良時代後期の貴族。父親は大伴古麻呂。藤原種継暗殺事件で死罪(斬首)。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2118‐2121番歌(恋しくは形見にせよと)~アルケーを知りたい(1452)

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▼和歌独自の言い回しがある。今回の歌はそれを持っているように思ふ。2118は「いまだ飽かなくに」、2120は「 またも逢はめやも 」、2121は「 散らまく惜しも 」。このフレーズを使うだけで表現が和歌っぽくなりそう。 朝霞のたなびく小野の萩の花 今か散るらむいまだ飽かなくに  万2118 *朝の霞がたなびく小野で咲いている萩の花が今にも散りそうです。まだ見飽きていないというのに。 恋しくは形見にせよと我が背子が 植ゑし秋萩花咲きにけり  万2119 *恋しくなったら思い出すよすがにしなさいと私の夫が植えてくれた秋萩の花が咲きました。 秋萩に恋尽さじと思へども しゑやあたらしまたも逢はめやも  万2120 *秋萩に気持ちを持っていかれないようにと思うのだけれど、いやはやこれは滅多にお目にかかれない見事な秋萩です。 秋風は日に異に吹きぬ高円の 野辺の秋萩散らまく惜しも  万2121 *秋風が日ごとに強く吹くようようになりました。高円の野原の秋萩が散ってしまうのが惜しいです。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 春原 五百枝  はるはら の いおえ 760 - 830 平安時代初期の公卿。市原王の子。志貴皇子の玄孫。藤原種継事件の後、伊予国へ流罪。805年、赦免され帰京。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2114‐2117番歌(手に取れば袖さへにほふ)~アルケーを知りたい(1451)

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▼秋の風景が目前に広がって来そうな歌4首。2115番の「にほふ」は今の匂うではなく、染まる、という意味で使われている。これもおもしろき。 我がやどに植ゑ生ほしたる初萩を 誰れか標刺す我れに知らえず  万2114 *我が家の庭に植えて育てていた初萩なのに、私が知らないうちにどこかの誰かが縄で囲っている。 手に取れば袖さへにほふをみなへし この白露に散らまく惜しも  万2115 *手に取って見ると袖まで染まりそうなおみなえしの花。この白露で散ってしまうのが惜しい。 白露に争ひかねて咲ける萩 散らば惜しけむ雨な降りそね  万2116 *白露に急かされるようにして咲いた萩の花。散るのが惜しいから雨よ降らないでおくれ。 娘子らに行き逢ひの早稲を刈る 時になりにけらしも萩の花咲く  万2117 *早稲を刈る時期になりました。萩の花が咲いています。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 早良親王  さわらしんのう 750 - 785 奈良時代の皇親、僧侶。光仁天皇の皇子。桓武天皇の皇太子なるも、藤原種継の暗殺に関与した罪により廃され、絶食して没した。石川垣守が発見。種継暗殺に実際に関与していたかどうか不明。大伴家持をはじめとする歌人たちと万葉集を企画。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10