不均衡の人間関係はいつか破綻する(ハルバンさんとコワルスキーさん):アルケーを知りたい(358)

今回の話題は(C)マンハッタン計画。

▼前の2回で紹介したハルバンさんとコワルスキーさんのコンビネーションと決裂についての話。パイエルス本が詳しいのでそちらを先にした。フリッシュ本では30年後にコワルスキーさんと再開する話が出てきて人のご縁の面白さが伝わってくる。今回の似顔絵は二人の研究に協力したメンバーからN・フェザーさんにした。

パイエルス本:ハルバンさんとコワルスキーさんが重水の研究をしていたこと、それと、二人のチームにチャドウィックさんの共同研究者たちが協力していることが分かる部分:「ハルバンとコワルスキーは重水を使う研究が続けられるようにケンブリッジで実験設備を与えられた。二人の仕事は、チャドウィックの研究を助けたケンブリッジの物理学者たち、N・フェザー、イーゴン・ブレッチャー、そして理論家のN・ケマーらと密接な関係を保って進められた(p.242)」

コワルスキーさんの不満が分かる部分:「コワルスキーは議論の速さではハルバンにかなわず、当局との交渉は全てハルバンが行ったので、二人のグループは『ハルバンら』のグループと思われていた。しかし、共同研究におけるコワルスキーの役割は重要で本質的なものだったので、彼はこの点に腹を立てていた(p.243)」

二人がついに決裂する原因が分かる部分:「ハルバンはモントリオールで新しい研究所の組織作りに着手したが、コワルスキーはケンブリッジの仕事に留まったままだった。その研究所が竣工したとき、ハルバンはコワルスキーを招聘したが、大きな研究所でのコワルスキーの地位は満足できるものではなく、コワルスキーは着任を拒否した。いつも水面近くにあったコワルスキーの怒りはここで水面上に出て、コワルスキーとハルバンの仲はこれ以降完全に決裂した(p.263)」

▼WikipediaのTube Alloys を見ると Montreal Laboratoryの項にモントリオール研究所でのハルバンさんについての説明がある。それが次:Von Halban was the director of the laboratory, but he proved to be an unfortunate choice as he was a poor administrator, and did not work well with the National Research Council of Canada. The Americans saw him as a security risk,(以下略)

フリッシュ本:フリッシュさんが自分の人生を振り返ったときの話にコワルスキーさんが再び登場する。「幸運の最後の小片は、古い友達のレブ・コワルスキーの介在である。ジュネーブのCERN*では、コワルスキーの指導で全く異なった種類の飛跡測定機械が開発されていたが、コワルスキーは私の装置が気に入って、次の原子力計測技術の国際会議が1970年にケンブリッジで開かれるように手配してくれた。世界中から高エネルギー物理学者がケンブリッジにやって来て、私たちの機械に群がった(p.268)」 かくして機械の購入希望が出たので、フリッシュさんの仲間が会社を作り、フリッシュさんはその会社の会長に就任する。
*CERN(欧州原子核研究機構)で働いていたティム・バーナーズ=リーさんがWWWを発明した。

〔参考〕https://en.wikipedia.org/wiki/Hans_von_Halban
https://en.wikipedia.org/wiki/Lew_Kowarski
https://en.wikipedia.org/wiki/Tube_Alloys
オットー・フリッシュ著、松田文夫訳(2003)『何と少ししか覚えていないことだろう』吉岡書店。
Otto Robert Frisch (1979),  What little I remember. Cambridge University Press. 
ルドルフ・パイエルス著、松田文夫訳(2004)『渡り鳥ーパイエルスの物理学と家族の遍歴ー』吉岡書店。
Rudolf Peierls (1985), Bird of Passage --- Recollections of a Physicist. Princeton University Press.

ルドルフ・パイエルス Rudolf Ernst Peierls, 1907年6月5日 - 1995年9月19日
オットー・ロベルト・フリッシュ Otto Robert Frisch, 1904年10月1日 - 1979年9月22日
リーゼ・マイトナー Lise Meitner, 1878年11月7日 - 1968年10月27日 

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