山上憶良の万葉集3860-3869番歌~アルケーを知りたい(1156)

▼仲間に船頭の代役を頼まれ、男気を出して引き受けた荒雄。船出して嵐で遭難した男の姿を憶良が妻の立場で詠んだ歌。
▼妻にとっては「大君の遣はさなくに、さかしらに行きし荒雄」。だけど、そこは愛する夫のことだから、妻は「来むか来じかと飯盛りて、門に出で立ち待て」いた。しかし8年待っても音沙汰なし。もはや帰って来ることはないと悟るまでの心情を10首の歌で語る。

 筑前の国の志賀の白水郎の歌十首
大君の遣(つか)はさなくにさかしらに 行きし荒雄ら沖に袖振る 万3860
*大君が派遣したわけではないのに出しゃばって出かけて行った荒雄。その荒雄が私に向かって袖を振っていました。

荒雄らを来むか来じかと飯盛りて 門に出で立ち待てど来まさず 万3861
*荒雄が今来るかもう来るかと思って、食事の用意をして、門に出て待っているけれどお姿が見えません。

志賀の山いたくな伐りそ荒雄らが よすかの山と観つつ偲はむ 万3862
*志賀の山の木はあまり伐採しないでください。荒雄を思い出すよすがの山として眺めて偲びたいから。

荒雄らが行きにし日より志賀の海人の 大浦田沼はさぶしくもあるか 万3863
*荒雄が出かけてからこのかた、志賀の海人たちが働いているのだけれど大浦田沼は寂しくなった。

(つかさ)こそさしても遣らめさかしらに 行きし荒雄ら波に袖振る 万3864
*官が派遣したわけではないのに出しゃばって出かけて行った荒雄。その荒雄が別れを惜しんで波間で私に袖を振っています。

荒雄らは妻子が業(なり)をば思はずろ 年の八年を待てど来まさず 万3865
*荒雄は妻子の苦労を考えてないのだ。もう出かけて八年になるのにまだ帰ってこない。

沖つ鳥鴨といふ船の帰り来ば 也良(やら)の崎守早く告げこそ 万3866
*沖の鳥の鴨という名前の船が帰ってきたら、也良の崎の見張りにいち早く告げて欲しい。

沖つ鳥鴨といふ船は也良の崎 廻(た)みて漕ぎ来と聞こえ来ぬかも 万3867
*沖の鳥の鴨という船が也良の崎を回って漕ぎ来きたという知らせを聞きたいのに聞こえてきません。

沖行くや赤ら小舟をつと遣らば けだし人見て開き見むかも 万3868
*沖を行く赤色の小舟が見えます。荷物を預けたら荒雄に届いて開けて見てくれるでしょうか。

大船に小舟引き添へ潜くとも 志賀の荒雄に潜き逢はめやも 万3869
*大船に小舟を引き連れて海の底に潜ったとしても、志賀の荒雄に遭うことは叶わないのでしょう。

【似顔絵サロン】憶良(660-733)の同時代人。王 維 おう い 699 - 759 60歳。唐の官僚、詩人。詩仏。南画の祖。空山人を見ず 但だ人語の響きを聞く 返景深林に入り 復た青苔の上を照らす鹿柴














〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E4%B8%8A%E6%86%B6%E8%89%AF
https://art-tags.net/manyo/poet/okura.html

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