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万葉集巻第1_2番歌(大和には)~アルケーを知りたい(1706)

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▼今回から万葉集巻1に戻ります。歌と歌人、その人に関係する人々を見てゆきます。寄り道が多くなりそうです。最初は2番歌から( 1番歌はその時が来てからやる予定。何しろ”濃い”ので)。2番歌は短めの長歌。 舒明天皇が香具山に登り、風景を眺めて大和がよい国だと褒める歌。「 うまし国ぞ 蜻蛉島 (あきづしま)   大和の国は」。口ずさむと心が落ち着く。   高市の岡本の宮に天の下知らしめす天皇の代 息長足日広額天皇   天皇、香具山に登りて国を望たまふ時の御製歌 大和には 群山あれど とりよろふ 天の香具山 登り立ち 国見をすれば 国原は  煙立ち立つ 海原は  鴎立ち立つ うまし国ぞ 蜻蛉島 大和の国は  万2 *よい国だ、大和の国は。 【似顔絵サロン】 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集一』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=1

万葉集巻第二十4516番歌(新しき年の初めの)~アルケーを知りたい(1705)

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▼今回は、万葉集4515首を締めくくる歌。雄略天皇の1番歌に始まり舒明天皇の時代の4516番で終わる。上の句は「新しき」「年の初め」「初春の」とパリっとしたおニュー感を打ち出して下の句は「いやしけ吉事」と良いことが次々と続くよう祈って締める。和歌はキレイな世界に咲く花・・・というより、厭離穢土に咲く花、であるかのよう。  三年の春の正月の一日に、因幡の国の庁にして、饗を国郡の司等に賜ふ宴の歌一首 新しき年の初めの初春の 今日降る雪のいやしけ吉事  万4516  右の一首は、守大伴宿禰家持作る。 *新年初春の今日、雪が降っています。よいことが重なる吉祥です。 【似顔絵サロン】 淳仁天皇  じゅんにんてんのう 733天平5年 - 765天平神護元年11月10日 第47代天皇。在位:758年9月7日 - 764年11月6日 天武天皇の皇子・舎人親王の七男。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4514-4515番歌(青海原風波靡き)~アルケーを知りたい(1704)

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▼4514番は、 内相・ 藤原仲麻呂内相の邸宅で渤海大使の小野田守を送る家持の歌。航路の安全を祈る内容。後書きの最後にいまだ 誦せずとあるのが気になる。4515番は因幡守として任地に出かける家持の送別会での本人の歌。会を開いた大原今城に向けた作品。寂しさが漂う。   二月の十日に、内相が宅にして渤海大使 小野田守 朝臣等を餞する宴の歌一首 青海原風波靡き行くさ来さ つつむことなく舟は早けむ  万4514   右の一首は右中弁大伴宿禰家持。いまだ誦せず *青海原の風と波が平穏で、往復には何も問題なく舟はすいすいと早く進むことでしょう。    七月の五日に、治部少輔大原今城真人が宅にして、因幡守大伴宿禰家持を餞する宴の歌一首 秋風の末吹き靡く萩の花 ともにかざさず相か別れむ  万4515   右の一首は、大伴宿禰家持作る。 *秋風が吹き抜け萩の花が靡いています。一緒にかざすことなしでお別れするのでしょうか。 【似顔絵サロン】 小野 田守 /淡理 おの の たもり ? - ? 奈良時代の貴族。730年、旅人の梅花の宴に参加。 霞立つ長き春日をかざせれどいやなつかしき梅の花かも  万846 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4511-4513番歌(池水に影さへ見えて)~アルケーを知りたい(1703)

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▼今回は家持の仲間が 山斎 (しま) という家持邸の庭を眺めて作った歌三首。4511番で三形王が馬酔木の花に着目した歌を詠う。続く4512番では家持が 池と水を加えて 馬酔木続きの歌、そして4512番で 伊香が、池と水に映える馬酔木の花が散るのが惜しい、と締める。  山斎 を属目 (しょくもく) して作る歌三首 鴛鳶 (をし) の棲む君がこの山斎 (しま)  今日見れば馬酔木の花も咲きにけるかも  万4511  右の一首は大監物 三形王 。 *鴛鳶が棲息するという貴方様のお館を今日拝見すると馬酔木の花が咲いています。 池水に影さへ見えて咲きにほふ 馬酔木の花を袖に扱入れな  万4512  右の一首は右中弁大伴宿禰家持。 *池の水に姿を映しながら咲き誇っている馬酔木の花を袖にこき入れましょう。 磯影の見ゆる池水照るまでに 咲ける馬酔木の散らまく惜しも  万4513  右の一首は大蔵大輔甘南備伊香真人。 *磯の影が見える池の水を輝かせるほど咲き誇っている馬酔木の花が散るのは惜しい。 【似顔絵サロン】 三方王 /御方王/三形王 みかたおう ? - ? 奈良時代の皇族。舎人親王の孫。大伴家持と親交。 み雪降る冬は今日のみうぐひすの鳴かむ春へは明日にしあるらし  万4488 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4509-4510番歌(延ぶ葛の絶えず偲はむ)~アルケーを知りたい(1702)

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▼聖武天皇の没後2年。大 中臣清麻呂の家に集まった大原今城、甘南備伊香、家持が聖武天皇を偲ぶ歌を詠んだ 五首のうちの最後の二首。4509番は、聖武天皇がよく眺めていた野辺には、ここだったと分かるように囲いをしたいと家持が詠う。ここを御覧になっていたのだ、と。次の4510番はこれを受けて、伊香が高円の野辺を見ると泣けてきます、と和して締めくくる。▼起承転結モデルでこの五首を見ると、 起承転 承 結になって収まっている。 4506番が起、4507番が承、4508番が転。4509番は前の歌の「 野辺延ふ葛」を借りた承、4510番が結。歌人たちは歌の進行状態を見ながら、自分の番でインプロビゼーションしている。 延ぶ葛の絶えず偲はむ大君の 見しし野辺には標結ふべし  万4509   右の一首は右中弁大伴宿禰家持。 *葛が広がるように絶えず偲びましょう。大君がご覧になっていた野辺には囲いをしておきましょう。 大君の継ぎて見すらし高円の 野辺見るごとに音のみし泣かゆ  万4510   右の一首は大蔵大輔 甘南備伊香 真人。 *大君がいつもご覧になっていた高円の野辺。見るたびに声を上げて泣きたくなります。 【似顔絵サロン】 甘南備 伊香  かんなび の いかご ? - ? 奈良時代の皇族・貴族・歌人。万葉歌人。大伴家持・市原王・大原今城らと親交。757年と758年の歌が万葉集に収録。 うちなびく春を近みかぬばたまの今夜の月夜霞みたるらむ  万4489 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4506-4508番歌(高円の野の上の宮は)~アルケーを知りたい(1701)

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▼今回は家持が仲間の今城ら と興に乗って作ったという五首のうち三首。詠っているのは聖武天皇のこと。聖武天皇の 崩御は756年6月。54歳で没。これらの歌は没後2年経ってからというから、ということは、家持40歳、今城?、清麻呂46歳。この年、天皇は7月終わりまで孝謙天皇、8月から淳仁天皇。  興に依りて、おのもおのも高円の離宮処を思ひて作る歌五首 (うち最初の三首 ) 高円の野の上の宮は荒れにけり 立たしし君の御代還そけば  万4506   右の一首は右中弁大伴宿禰家持。 *高円の野の宮は荒れてしまいました。お立ちなっていた君の時代から時間が経過しましたから。 高円の峰の上の宮は荒れぬとも 立たしし君の御名忘れめや  万4507   右の一首は治部少輔 大原今城 真人。 *高円の野の宮は荒れていますけれど、お立ちになっていた我らが君の御名を忘れることはありません。 高円の野辺延ふ葛の末つひに 千代に忘れむ我が大君かも  万4508   右の一首は主人中臣清麻呂朝臣。 *高円の野辺に広がる葛の末のように、これから先も我らが大君のことを忘れることはありません。 【似顔絵サロン】 聖武天皇  しょうむてんのう 701大宝元年9月18日 - 756天平勝宝8年6月4日 第45代天皇(在位:724年3月3日 - 749年8月19日)。父は文武天皇、母は藤原不比等の娘・宮子。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4504-4505番歌(うるはしと我が思ふ君は)~アルケーを知りたい(1700)

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▼4504番は、大中臣清麻呂が大原今城に、いつも会おうよ、と呼びかける歌。4505番はそれに応えて今城が「 オシドリ」と「惜し」を重ねる言葉遊びを入れて 応えた。こういうやりとりができる人間関係、よいなあ。 うるはしと我が思ふ君はいや日異に 来ませ我が背子絶ゆる日なしに  万4504  右の一首は主人 中臣清麻呂 朝臣。 * 私が 素晴らしいと思う貴方様は、毎日でもお越しください、途絶えることなく。 磯の裏に常呼び来棲むをし鳥の 惜しき我が身は君がまにまに  万4505  右の一首は治部少輔大原今城真人。 *磯の裏で鳴きび交わしながら来るオシドリのように、惜しき我が身は貴方様のお気持ち次第です。 【似顔絵サロン】 大中臣 清麻呂  おおなかとみ の きよまろ 676天武天皇5年 - 735天平7年12月2日 奈良時代の公卿・歌人。中臣意美麻呂の七男。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20