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万葉集巻第十2190‐2193番歌(秋風の日に異に吹けば)~アルケーを知りたい(1470)

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▼2190番は、身近な変化から、遠隔地の様子を想像する歌。2191番は、鳥の鳴き声から季節の変化を感じている歌。2192番は、布地の白さと紅葉を対比させている歌。2193番は、風の吹き方と季節の変化をつないだ歌。いずれも 作者が 何かと何かを結合させて世界観を表現している。これもひとつの新結合、イノベーションだ。 我が門の浅茅色づく吉隠の 浪柴の野の黄葉散るらし  万2190 *我が家の浅茅が色づいたので、吉隠の浪柴の野では黄葉が散っているでしょう。 雁が音を聞きつるなへに高松の 野の上の草ぞ色づきにける  万2191 *雁の鳴き声を聞きました。高松の野原の草が色づいています。 我が背子が白栲衣行き触れば にほひぬべくももみつ山かも  万2192 *私の夫が白栲の服で行って触れただけで色移りしそうに紅葉した山です。 秋風の日に異に吹けば 水茎の岡の木の葉も色づきにけり  万2193 *秋風が日に日に強まるので、水茎岡の木の葉も紅葉しました。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の間接的な関係者: 善珠  ぜんじゅ 723 - 797 奈良時代から平安時代前期の僧。事件後、早良親王の使者に「前世の残業が災いを齎しているので、此生は怨みを抱かぬように」と諭した。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2186‐2189番歌(秋されば置く白露に)~アルケーを知りたい(1469)

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▼万葉時代の人はすぐ枝を折ってはかんざしにしていた。当時も樹木を育てる人からは困ったものだと思われていたようだ。今は折り取らず、目出度い意匠の缶バッチを付ければよい。この雨で にほふ桜花の散らまく惜しも と思ふ。 秋されば置く白露に我が門の 浅茅が末葉色づきにけり  万2186 *秋になり白露が降りるようになりました。我が家の門の浅茅の葉っぱも色づきました。 妹が袖巻来の山の朝露に にほふ黄葉の散らまく惜しも  万2187 *巻来山の朝露で色づいた黄葉が散るのが惜しい。 黄葉のにほひは繁ししかれども 妻梨の木を手折りかざさむ  万2188 *黄葉は色とりどりだ。でも妻のない私は妻梨の木を手折ってかんざしにします。 露霜の寒き夕の秋風に もみちにけらし妻梨の木は  万2189 *露霜が降りる寒い夕方の秋風に紅葉したらしい妻梨の木は。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の間接的な関係者: 小野 竹良 /都久良 おの の つくら ? - 769 奈良時代の貴族。764年の藤原仲麻呂の乱では孝謙上皇側。藤原家依と同じ時期に昇叙。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2182‐2185番歌(大坂を我が越え来れば)~アルケーを知りたい(1468)

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▼秋を感じさせるもの、露、萩、黄葉、雁の声。時雨で流れる山の黄葉。ただの風景、音じゃなくて、風情として受け取れる感性の豊かさ。勉強になります。 このころの暁露に我がやどの 萩の下葉は色づきにけり  万2182 *このごろ明け方に露が降りるようになりました。我が家の萩の葉が色づいてきました。 雁がねは今は来鳴きぬ我が待ちし 黄葉早継げ待たば苦しも  万2183 *雁が今飛んできて鳴いています。私が待っている黄葉よ、続いて早く色付け。待つのは辛いから。 秋山をゆめ人懸くな忘れにし その黄葉の思ほゆらくに  万2184 *秋山のことをくれぐれも口にしないでください。忘れている黄葉を思い出してしまうから。 大坂を我が越え来れば二上に 黄葉流るしぐれ降りつつ  万2185 *大坂を越えて私がやって来ると、時雨と一緒に二上山の黄葉が流れています。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の間接的な関係者: 藤原 家依  ふじわら の いえより 743 - 785 奈良時代の公卿。藤原永手の長男。桓武朝では、大伴家持・藤原小黒麻呂・藤原種継らが次々と中納言に任ぜられる傍らで昇進できないまま。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2178‐2181番歌(九月のしぐれの雨に)~アルケーを知りたい(1467)

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▼2178と2179番は、秋の歌。2180番は歌に九月と詠みこまれている。2181番は「 寒き朝明 」と寒さが詠われている。この歌を見ると万葉の時代は家の中にいても外の天気や物音が今よりもよく伝わってきたのだろう、と今昔の違いが分かる。分かるとよりいっそう時々聞こえる鳥の音がありがたいと思ふ。  黄葉を詠む 妻ごもる矢野の神山露霜に にほひそめたり散らまく惜しも  万2178 *矢野の神山が露霜のために見事に色づいた黄葉が散るのが惜しいです。 朝露ににほひそめたる秋山に しぐれな降りそありわたるがね  万2179  右の二首は、柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ。 *朝露に染まったような秋山に時雨よ降らないでおくれよ。 九月のしぐれの雨に濡れ通り 春日の山は色づきにけり  万2180 *九月の時雨の雨ですっかり濡れた春日山が色づいています。 雁が音の寒き朝明の露ならし 春日の山をもみたすものは  万2181 *雁の鳴き声が寒々と聞こえる明け方。春日山を色づかせるのは朝の露だろう。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の間接的な関係者: 神王  みわおう 737 -  志貴皇子の孫。榎井王の子。右大臣。桓武天皇の近親として桓武朝後半の治世を支え全うした。礼儀正しく慎み深い性格、飾ることなく、物事にも執着せずあっさりしていた。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2174‐2177番歌(春は萌え夏は緑に)~アルケーを知りたい(1466)

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▼秋の風情を詠った作品四首。2174番の作者は農家か、農家に雇われた人の作と思ふ。稲刈りは一気に済ませたいので田んぼの近くにテント(仮廬)を作って寝泊まりしていたようだ。冷え込む夜はさぞ寒かったことだろう。その寒さを強調した歌が2175番。露が降りると萩の花の時期も終わり、という。2176番は稲刈りが進むと露が下りる穂や葉がなくなる、露の立場で詠う。2177番は春から秋までの山の色の変化を詠う歌。作者は、秋が最高、と思っているようだが、どうだろう。 秋田刈る仮廬を作り我が居れば 衣手寒く露ぞ置きにける  万2174 *秋、稲刈り用の仮小屋を作って入っていると、袖口は寒く露までおりたよ。 このころの秋風寒し萩の花 散らす白露置きにけらしも  万2175 *この頃は秋風が寒くなってきました。萩の花を散らす露も降り始めています。 秋田刈る苫手動くなり白露し 置く穂田なしと告げに来ぬらし   一には「告げに来らしも」といふ  万2176 *秋の稲刈りをする小屋の苫が風で動きます。白露が下りる稲穂がありませんと言いに来ているようです。  山を詠む 春は萌え夏は緑に紅の まだらに見ゆる秋の山かも  万2177 *春は萌え、夏は緑一色、いまは紅葉がまだらに見える 秋の 山です。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 桓武 天皇  かんむてんのう 737 - 806 第50代天皇。平城京から長岡京および平安京への遷都を行った。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2170‐2173番歌(白露を取らば消ぬべし)~アルケーを知りたい(1465)

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▼季節は秋、時間はかなり早い朝方。萩があって、露が下りている。その風景を詠んだ歌。空気も透き通っていそう。和歌は風景画でもあります。 秋萩の枝もとををに露霜置き 寒くも時はなりにうけるかも  万2170 *秋萩の枝の元にまんべんなく露霜が降りています。寒い時期になったものです。 白露と秋の萩とは恋ひ乱れ 別くことかたき我が心かも  万2171 *白露と秋の萩はどちらも相性抜群なので分けるなんてムリ。 我がやどの尾花押しなべ置く露に 手触れ我妹子散らまくも見む  万2172 *我が家の尾花にびっしりと降りた露に妻が手を触れて散るところ見たい。 白露を取らば消ぬべしいざ子ども 露に競ひて萩の遊びせむ  万2173 *白露は取れば消えます。さあみなさん、露と競って萩で遊びましょう。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 大伴 是成  おおとも の これなり ? - ? 奈良時代から平安時代初期の貴族。799年、桓武天皇の詔で淡路国へ派遣され、早良親王の霊に謝罪した。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2166‐2169番歌(夕立の雨降るごとに)~アルケーを知りたい(1464)

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▼鳥の鳴き声が今までと違って聞こえるから季節が変わったらしいと詠う2166番。今でも、日が長くなったとか、服装が変わったとか言うけど、万葉時代は鳥の鳴き声が変わったと言っていたのだろうか。変化に敏感ですごいな。2168と2169は露の歌。露の残る草むらをズボンを濡らしながら歩いてみたくなる。  鳥を詠む 妹が手を取石の池の波の間ゆ鳥が 音異に鳴く秋過ぎぬらし  万2166 *妻の手を取るという取石の池の波間で鳴く鳥の声がこれまでと違って聞こえます。秋が過ぎたのでしょう。 秋の野の尾花が末に鳴くもずの 声聞きけむか片聞け我妹  万2167 *秋の野の尾花の末で鳴くモズの声。聞こえますか、耳を傾けてください、私の妻よ。  露を詠む 秋萩に置ける白露朝な朝な 玉としぞ見る置ける白露  万2168 *秋萩の上に降りた白露を毎朝、玉として見ていますよ、白露を。 夕立の雨降るごとに  一には「うち降れば」といふ  春日野の尾花が上の白露思ほゆ  万2169 *夕立の雨が降るごとに春日野の尾花の上の白露を思い出します。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 石川 垣守  いしかわ の かきもり ? - 786 奈良時代の貴族。長岡京造営を担当。785年、藤原種継暗殺事件に連座した早良親王を淡路国へ配流するために派遣された。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10