見せかけだけの機密保護を全く信用しない(ジェームズ・チャドウィックさん):アルケーを知りたい(384)

今回の話題は(C)マンハッタン計画。

チャドウィックさんはこれまで何度もこのブログに登場した人物。想像を絶する世界を経験した人。生き方の軌跡が味わい深い。フリッシュさんとパイエルスさんの本に出てくるチャドウィックさんの描き方が味わい深い。

ジェームズ・チャドウィック James Chadwick, 1891年10月20日、イングランドのチェシャー州生まれ - 1974年7月24日、イングランドのケンブリッジで死去。ラザフォードさんの弟子。英国の物理学者。1932(41)中性子を発見。1935(44)ノーベル物理学賞受賞(中性子の発見)。MAUD報告の最終案の執筆者。マンハッタン計画のイギリス代表。

フリッシュ本:フリッシュさんが初めてチャドウィックさんと会う場面。最初にここを読んだときは、チャドウィックさんが奇妙な人物に思えた。「(サー)ジェームズ・チャドウィック(中性子の発見者)の招きで、初めてリバプールを訪問した時、私はパイエルスと一緒だった。(中略)大学の物理学部で私たちはチャドウィックの部屋に案内された。しばらくするとチャドウィックが入ってきて、自分の机に座り、鳥のように頭を両側に揺らしながら、私たちをじろじろと詮索しはじめた。ちょっと当惑したが、私たちはじっと待っていた。三十秒後に、チャドウィックは「どれくらいヘックスがいるんだね」と言った。形式的ではなく直接に要点を突くのが彼のやり方だった(pp.164-165)」

WWIIの時期、イギリスにいたフリッシュさんが見たチャドウィックさん。「チャドウィックは、何回も、別の場所の研究者仲間と、物事を議論する機会を与えてくれた。チャドウィックは、個々の研究者に必要なことしか知らせない、知識の分断化に頼るような見せかけだけの機密保護を全く信用していなかった。彼は、そのような種類の機密保護は仕事を非効率に導くだけであると考えていた(p.177)」

マンハッタン計画のメンバーにフリッシュさんを選んだチャドウィックさんの語り口が面白い。フリッシュさんの返事も面白い。「ある日、チャドウィックがやって来て、いつもの直接的なマナーで「君はアメリカで働く気はないか」と聞いた。私はすぐに、「せひそうしたいと思います」と言った。「しかし、それならイギリス市民にならないといけないんだが」とチャドウィックは言った。「それこそもっと望むところです」と私は言った。その後、物事は目の回るほどの早さで進み始めた(pp.181-182)」

フリッシュさんがケンブリッジ大学の教授職に就く前「私が助言を求めたチャドウィックは『拒むのは馬鹿だけだ』と言ったので、私は受諾することにした(p.251)」

パイエルス本:パイエルスさんが見たチャドウィックさんの人物評が次。「ラザフォードに次ぐキャベンディッシュでの重要人物は多年にわたるラザフォードの協力者で、中性子を発見したジェームズ・チャドウィックだった。一回会っただけでは、彼は人生や仲間たちに偏見を持っている人物という印象を与えるが、よく知ってみると、その外見の裏には限りない温かさと進んで人を助ける意思があることに気がつく(p.182)」

チャドウィックさんのマネジメントが伝わってくる描写が次。「私はトムソン委員会の長老格の委員であり、私たちとは別に高速中性子の使用を研究すべきだと主張したチャドウィックに会いに行った。彼はいつものように相手を少し当惑させるやり方で私を出迎え、ときどき私の話に関連する手紙を調べようとして机の引き出しを開け、きちんと封筒に入った手紙の山から目当てのものを探し出した。チャドウィックはその場で私に同意し、サイモンの登用をトムソンに説得してくれた(pp.239-240)

〔参考〕https://en.wikipedia.org/wiki/James_Chadwick
オットー・フリッシュ著、松田文夫訳(2003)『何と少ししか覚えていないことだろう』吉岡書店。
Otto Robert Frisch (1979),  What little I remember. Cambridge University Press. 
ルドルフ・パイエルス著、松田文夫訳(2004)『渡り鳥ーパイエルスの物理学と家族の遍歴ー』吉岡書店。
Rudolf Peierls (1985), Bird of Passage --- Recollections of a Physicist. Princeton University Press.
ルドルフ・パイエルス Rudolf Ernst Peierls, 1907年6月5日 - 1995年9月19日
オットー・ロベルト・フリッシュ Otto Robert Frisch, 1904年10月1日 - 1979年9月22日
リーゼ・マイトナー Lise Meitner, 1878年11月7日 - 1968年10月27日

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