大伴旅人の万葉集793番歌~アルケーを知りたい(1100)

▼今回の歌は、妻を亡くしたのに続いて妹の夫を亡くした旅人が悲しんで作った歌。
▼歌の後に山上憶良が文章を付した。

 大宰帥大伴卿、凶問に報ふる歌一首
 禍故重畳(かこんちょうじょう)し、凶問累集(るいじゅう)す。
永(ひたふる)に崩心の悲しびを懐(むだ)き、独(もは)ら断腸の泣(なみだ)を流す。
ただ、両君の大助(たいじょ)によりて、傾命をわづかに継ぐげらくのみ。
筆の言を尽さぬは、古今嘆くところ。
*不幸が重なり、悪い知らせが重なる。ひたすら心が砕かれるような悲しみに断腸の涙を流す。それでも身近な二人の者の助けのおかげでわが余命が続いている。筆では言い尽くせないのは古今から嘆くところ。

世の中は空しきものと知る時し いよよますます悲しかりけり 万793
*世の中は空しいものと知る時に、いよいよますます悲しくなるものだ。
 728神亀五年六月二十三日

 以下は山上憶良の後文
けだし聞く、四生(ししょう)の起滅は夢のみな空しきがごとく、三界の漂流は環の息(とど)まらぬがとごし。
このゆゑに、維摩大士も方丈に在りて染疾の患(うれへ)を懐くことあり、釈迦能仁も双林に坐して泥洹(ないをん)の苦しびを免れたまふことなし、と。
故に知りぬ、二聖の至極すらに力負(りきふ)の尋ね至ることを払ふことあたはず、三千世界に誰れかよく黒闇(こくあん)の捜(たづ)ね来ることを逃れむ、といふことを。
二鼠競ひ走りて、度目(ともく)の鳥旦(あした)に飛ぶ、四蛇(しだ)争ひ侵して、過隙の駒夕に走る。
ああ痛きかも。
紅顔は三従と共に長逝す、素質は四徳とともに永滅す。
何ぞ図りきや、偕老は要期に違い、独飛して半路に生かむとは。
蘭室には屏風(へいふう)いたづらに張り、断腸の悲しびいよいよ痛し、枕頭には明鏡空しく懸かり、染筠(ぜんゐん)の涙いよよ落つ。
泉門ひとたび掩ざされて、また見るに由なし。
ああ哀しきかも。
愛河の波浪はすでにして滅ぶ、苦海の煩悩もまた結ぼほるることなし。
従来よりこの穢土を厭離す、本願生をその浄刹に託せむ。

【似顔絵サロン】高宗 こうそう 628 - 683 55歳。663年、白村江の戦いで倭・百済遺民連合軍に勝った唐の皇帝。















〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集一』角川ソフィア文庫。
https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/tabito2.html
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%BC%B4%E6%97%85%E4%BA%BA

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