大伴旅人の万葉集810-811番歌~アルケーを知りたい(1102)

▼旅人が729年に藤原四兄弟の房前に琴を贈ったときの和歌つきの手紙。
▼琴の材木に由来を語らせている。高い山で太陽の光を受けて育った材。木目が密と想像できる。それが自分で「質荒く音少なき」と言い、材質が荒く、音の出方も少ないと謙遜している。こうなると楽器に適した良い材に違いない。それが良匠の手によって小琴となった。
▼クレモナでバイオリン作りが始まる1000年前の話。
▼同年、長屋王の変が起きている。旅人が琴を贈った相手はこの変に関わる藤原四兄弟のひとり房前。

 大伴淡等謹状(おおとものたびときんじょう)
梧桐(ごとう)の日本琴(やまとこと)一面 対馬の結石の山の孫枝なり
この琴、夢に娘子に化りて曰はく、「余、根を遥島の崇巒(すうらん)に託せ、幹を九陽の休光にさらす。長く煙霞を帯びて、山川の阿に逍遥す、遠く風波を望みて、雁木の間に出入す。
ただに恐る、百年の後に、空しく溝壑(こうかく)に朽ちなむことのみを。
たまさかに良匠に遭ひ、斬られて小琴と為る。
質荒く音少なきことを顧みず、つねに君子の左琴を希ふ」といふ。
すなわち歌ひて曰はく、
いかにあらむ日の時にかも声知らむ 人の膝の上我が枕かむ 万810
*いつのときに私の響きを聞き分けてくださる方の膝の上で音を鳴らせるのでしょう。

僕、詩詠に報へて曰はく、
言とはぬ木にはありともうるはしき 君が手馴れの琴にしあるべし 万811
*木はものを言いませんが、あなた様であれば演奏上手な人の琴になるに違いありません。

 琴娘子、答へて曰はく、「敬しみて徳音を奉はる。幸甚々々」といふ。
片時ありて覚き、すなはち夢の言に感け、慨然止黙をること得ず。
故に公使に附けて、いささかに進御らくのみ。 謹状 不具
 天平元年十月七日 使いに附けて進上る
 謹状中衛高明閣下 謹空

【似顔絵サロン】阿倍 比羅夫(あべ の ひらふ) ? - ? 将軍。663年、白村江の戦いで敗北した日本軍の将軍。戦後は筑紫大宰帥。仲麻呂は孫。















〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集一』角川ソフィア文庫。
https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/tabito2.html
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%BC%B4%E6%97%85%E4%BA%BA

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