山上憶良の万葉集794-799番歌~アルケーを知りたい(1131)

▼今回の歌は、大伴旅人が大宰帥の時、妹の夫が死去し、続いて妻を亡くしたときの心情を山上憶良が歌ったもの。最後の憶良の署名がなければ、旅人の歌と見まがう。
▼時期は神亀五年=728年とあるから、660年生まれの憶良は68歳。旅人は665年生まれだから63歳。

 大宰帥大伴卿、凶問に報ふる歌一首
世の中は空しきものと知る時し いよよますます悲しかりけり 万793

 日本挽歌一首
大君の 遠の朝廷と しらぬひ 筑紫の国に 泣く子なす 慕い来まして 息だにも いまだ休めず 年月も いまだあらねば 心ゆも 思はぬ間に うち靡き 臥やしぬれ 言はむすべ 為むすべ知らに 石木をも 問ひ放け知らず 家ならば かたちはあらむを 恨めしき 妹の命の 我れをばも いかにせよとか にほ鳥の ふたり並び居 語らひし 心背きて 家離りいます 万794

 反歌
家に行きていかにか我がせむ枕付く 妻屋寂しく思ほゆべしも 万795
*奈良の自宅に帰って妻と二人で過ごした部屋を見れば寂しさがこみ上げることだろう。

はしきよしかくのみからに慕ひ来し 妹が心のすべもすべなき 万796
*筑紫に転勤になる私を慕って付いてきてくれた妻の気持ちを思うとやりきれない。

悔しかもかく知らませばあをによし 国内ことごと見せましものを 万797
*こうなることが分かっていたら、奈良の都のあちらこちらをもっともっと見せてやれば良かった・・・悔いが残る。

妹が見し楝(あふち)の花は散りぬべし 我が泣く涙いまだ干なくに 万798
*妻が奈良で見ていた楝の花は散ってしまったに違いない。私が泣く涙はいまだ止まらない。

大野山霧立ちわたる我が嘆く おきその風に霧立ちわたる 万799
*大野山には霧が立ち込めている。私の嘆きが風に乗って霧が立ちこめている。

 神亀五年七月二十一日 筑前国守山上憶良 上

【似顔絵サロン】憶良(660-733)の同時代人。陳 子昂 ちん すごう 661 - 702 唐の詩人。前不見古人 後不見来者 念天地之悠悠 独愴然而涕下















〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集一』角川ソフィア文庫。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E4%B8%8A%E6%86%B6%E8%89%AF
https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/okura2.html

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