山上憶良の万葉集800-801番歌~アルケーを知りたい(1132)

▼山上憶良が家族を放り出そうとする身勝手な者を説諭する歌。
▼「あなたのやっていることは、いかがなものでしょう。筋が違うのではないか」と長歌で説得し、短歌で家に帰りて業を為まさに」とその人が何をするべきかを示している。
▼憶良の丁寧な仕事ぶりが伝わってくる。
▼この姿勢、見習うべし、とぞ思ふ。道に迷った人を正すには長歌で説き短歌で命ずるのがよろしきかも

 惑情を反さしむる歌一首 幷せて序
或人、父母を敬うことを知りて侍養を忘れ、妻子を顧みずして脱屣(だつし)よりも軽みす。
自ら倍俗先生と称(なの)る。
意気は青雲の上に揚るといへども、身体はなほ塵俗の中に在り。
いまだ修行得道の聖に験あらず。
けだしこれ山沢に亡命する民ならむか。
*(大意)ある人が自分を倍俗先生(脱俗を気取る人)と名乗って、家族を顧みず大言壮語ばかりしている。これは戸籍を抜けようとする輩である。

このゆゑに、三綱を指し示し、五経を更(あらた)め開(と)き、遣るに歌をもちてし、その惑ひを反さしむ。
*だから、この者に、君臣・父子・夫婦の道(三綱)を示し、父に義・母に慈・兄に友・弟に恭・子に孝(五経)をあらためて説く。これを歌をもって行い、この者の迷いを直す。

歌に曰はく、
父母を 見れば貴し 妻子見れば めぐし愛し 世の中は かくそことわり もち鳥の かからはしもよ ゆくへ知らねば 穿沓(うけぐつ)を 脱き棄るごとく 踏み脱きて 行くちふ人は 石木より なり出し人か 汝が名告らさね 天へ行かば 汝がままに 地ならば 大君います この照らす 日月の下は 天雲の 向伏す極み たにぐくの さ渡る極み きこしをす 国のまほらぞ かにかくに 欲しきまにまに しかにはあらじか 万800
*万800の説得の仕方を順に見て行く。
①世の中とはこういうものではないか、と憶良が考える標準(ことわり)を示す。
憶良から相手の行動がどのように見えているかを説明。
③標準に対する相手の行動の問題を示し、お前はいったい何者か?と問いかける。
④天にいるのであれば好きにやるが良い、しかしここは大君が隅々まで治める国である。
⑤思いのままにやるのは良いが、道理は私の言うとおりではないか、と投げかける。

 反歌
ひさかたの天道は遠しなほなほに 家に帰りて業を為まさに 万801
*天への道は遠いのだから、家に帰ってするべき仕事をしなさい。

【似顔絵サロン】憶良(660-733)の同時代人。太 安万侶 おお の やすまろ ? - 723 飛鳥時代~奈良時代の貴族・武人。712年に『古事記』を編纂した人物。















〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集一』角川ソフィア文庫。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E4%B8%8A%E6%86%B6%E8%89%AF
https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/okura2.html

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