山上憶良の万葉集804-805番歌~アルケーを知りたい(1134)

▼憶良流、齢を取るのは嫌だね節。嘆きの中におかしみの味あり。悲しうて、すこし可笑しくて、やがてまた悲しくての繰り返し。

 世間の住みかたきことを哀しぶる歌一首 幷せて序
集まりやすく排ひかたきものは八大の辛苦なり、遂げかたく尽しやすきものは百年の賞楽なり。
古人の嘆くところ、今にも及ぶ。
このゆゑに、一章の歌を作り、もちて二毛の嘆を撥ふ。
その歌に曰はく、

世の中の すべなきものは 年月は 流るるごとし とり続き 追ひ来るものは 百種に 迫め寄り来る

 娘子らが 娘子さびすと 韓玉を 手本に巻かし <或いはこの句有り、曰はく「白栲(しろたへ)の 袖振り交し 紅の 赤裳裾引き」といふ> よち子らと 手たづさはりて 遊びけむ 時の盛りを 留みかね 過しやりつれ 蜷の腸 か黒き髪に いつの間か 霜の降りけむ 紅の <一には「丹のほなす」といふ> 面の上に いづくゆか 皺が来りし <一には「常なりし 笑まひ目引き 咲く花の うつろひにけり 世間は かくのみならし」といふ>

 ますらをの 男さびすと 剣太刀 腰に取り佩き さつ弓を 手握り持ちて 赤駒に 倭文鞍うち置き 這ひ乗りて 遊び歩きし 世の中や 常にありける 娘子らが さ寝す板戸を 押し開き い辿り寄りて 真玉手の 玉手さし交へ さ寝し夜の いくだもあらねば 手束杖 腰にたがねて か行けば 人に厭はえ かく行けば 人に憎まえ 老よし男は かくのみならし たまきはる 命惜しけど 為むすべもなし 万804
*杖をついてこちらに行けば人に嫌がられ、あちらに行けば人に嫌われる。年老いた男というものは、こんなものであるらしい。命は惜しいけれども寄る年波に為すすべもない。

 反歌
常盤なすかくしもがもと思へども 世の事理なれば留みかねつも 万805
*岩のようにいつまでも変わらずにいたいと思うけれども、世の理なので、同じ年齢のままに留まっておくこともできない。

 神亀五年七月二十一日 嘉摩の郡にして撰定す。
 筑前国守山上憶良

【似顔絵サロン】憶良(660-733)の同時代人。藤原 興風 ふじわら の おきかぜ ? - ? 平安時代前期 歌人・官人。誰をかも知る人にせむ高砂の 松も昔の友ならなくに 百人一首34















〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集一』角川ソフィア文庫。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E4%B8%8A%E6%86%B6%E8%89%AF
https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/okura2.html

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