柿本人麻呂の万葉集171-182番歌~アルケーを知りたい(1166)

▼前回に続き今回も689年に逝去した日並皇子を悲しんで舎人(とねり。皇族に仕える人)たちが詠った歌23首。以下は23首のうちの前半の12首。

 皇子尊の宮の舎人等、慟傷しびて作る歌二十三首
高光る我が日の御子の万代に 国知らさまし島の宮はも 万171
*我われの皇子が万代に渡って国を治めようとなさる島の宮でしたのに、残念です。

島の宮上の池なる放ち鳥 荒びな行きそ君座さずとも 万172
*島の宮の池にいる放ち鳥よ、ご主人がいなくなっても、池からいなくならないでもらいたい。

高照らす我が日の御子のいましせば 島の御門は荒れずあらましを 万173
*私たちの皇子がいらっしゃいましたら、島の邸宅は荒れずにあったものを。

外に見し真弓の岡も君座せば 常つ御門と侍宿するかも 万174
*関係ないと見ていた真弓の岡も、皇子がいらっしゃるとしたら、我われはお仕えするものを。

夢にだに見ずありしものをおほほしく 宮出もするかさ檜の隈みを 万175
*思ってもみなかった(皇子の逝去)ことで、これからぼんやりとした気持ちで殯宮でお仕えするのでしょう。

天地とともに終へむと思ひつつ 仕へまつりし心違ひぬ 万176
*皇子に末永くお仕えしようと思っておりましたのに、その志が閉ざされました。

朝日照る佐田の岡辺に群れ居つつ 我が泣く涙やむ時もなし 万177
*佐田の岡辺に集った我われは泣いて涙がやむ時もない。

み立たしの島を見る時には たづみ流るる涙とめぞかねつる 万178
*皇子がお立ちになった庭を見ると、池を流れる水のように涙が止まらない。

橘の島の宮には飽かねかも 佐田の岡辺に侍宿しに行く 万179
*橘島の宮は物足らないので、佐田の岡辺にお仕えするために参ります。

み立たしの島をも家と棲む鳥も 荒びな行きそ年かはるまで 万180
*皇子がお立ちになった庭を自分の家として住む鳥よ、ばたばた飛び立たないでおくれ、せめて年が変わるまで。

み立たしの島の荒磯を今見れば 生ひずありし草生ひにけるかも 万181
*皇子がお立ちになった庭の荒磯を今見ると、昔はなかった草が生えています。

鳥座立て飼ひし雁の子巣立ちなば 真弓の岡に飛び帰り来ね 万182
*鳥小屋を建てて飼育していた雁の子が巣立ちしたなら、真弓の岡に飛び帰って欲しい。

【似顔絵サロン】柿本人麻呂(660-724)の同時代人。橘 諸兄 たちばな の もろえ 684 - 757 奈良時代の皇族・公卿。降る雪の白髪までに大君に 仕へまつれば貴くもあるか 万3922














〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集一』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetailLink?cls=d_utabito&dataId=201
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%BF%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E9%BA%BB%E5%91%82
https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/hitomaro2_t.html

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