柿本人麻呂の万葉集196-198番歌~アルケーを知りたい(1169)

▼今回の挽歌は、明日香皇女(あすかのひめみこ)に捧げたもの。明日香皇女は天智天皇の娘。生前の明るい様子と心萎えた夫の様子の対比が悲しく美しい。

 明日香皇女の城上の殯宮の時に、柿本朝臣人麻呂が作る歌一首 幷せて短歌
飛ぶ鳥 明日香の川の 
上つ瀬に 石橋渡す<一には「石並といふ」> 
下つ瀬に 打橋渡す 
石橋に<一には「石並に」といふ> 生ひ靡ける 
玉藻ぞ 絶ゆれば生ふる 
打橋に 生ひををれる 
川藻もぞ 枯るれば生ゆる 
なにしかも 我が大君の 
立たせば 玉藻のもころ 
臥やせば 川藻のとごく 
靡かひし 宜しき君が 
朝宮を 忘れたまふや 
夕宮を 背きたまるや 
うつそみと 思ひし時に 
春へは 花折りかざし 
秋立てば 黄葉かざし 
敷栲の 袖たづさはり 
鏡なす 見れども飽かず 
望月の いや愛づらしみ 
思ほしし 君と時時 
出でまして 遊びたまひし 
御食向ふ 城上の宮を 
常宮と 定めたまひて 
あぢさはふ 目言も絶えぬ 
しかれかも<一には「そこをしも」といふ> あやに悲しみ 
ぬえ鳥の 片恋づま<一には「しつつ」といふ> 
朝鳥の<一には「朝露の」といふ> 通はす君が 
夏草の 思ひ萎えて 
夕星の か行きかく行き 
大宮の たゆたふ見れば 
慰もる 心もあらず 
そこ故に 為むすべ知れや 
音のみも 名のみも絶えず 
天地の いや遠長く 
偲ひ行かむ 御名に懸かせる 
明日香川 万代までに 
はしきやし 我が大君の 
形見にここを 万196

 短歌二首
飛鳥川しがらみ渡し塞かませば 流るる水ものどかにあらまし<一には「水の淀にかあらまし」といふ> 万197
*飛鳥川に柵を渡してせき止めれば、流れる水もおだやかになるでしょう。

明日香川明日だに<一には「さへ」といふ>見むと思へやも<一には「思へかも」といふ> 我が大君の御名忘れせぬ<一には「御名忘らえぬ」といふ> 万198 
*飛鳥川の名前のように明日はお目にかかりたいと思っているせいか、我が大君である明日香皇女のお名前を忘れることができない。

【似顔絵サロン】柿本人麻呂(660-724)の同時代人。称徳天皇 しょうとくてんのう 718 - 770 第48代天皇。第46代の孝謙天皇と同一人物。道鏡を法王にした。反抗した者に卑しい名前をつけた。例えば、道祖王に麻度比(まどひ=惑い者)、黄文王に久奈多夫禮(くなたぶれ=愚か者)、賀茂角足に乃呂志(のろし=鈍い者)、和気清麻呂に別部穢麻呂(わけべのきたなまろ)














〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集一』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetailLink?cls=d_utabito&dataId=201
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%BF%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E9%BA%BB%E5%91%82
https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/hitomaro2_t.html

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