柿本人麻呂の万葉集213-216番歌~アルケーを知りたい(1174)

▼今回の挽歌は、前回210-212番の元歌。同じ言い回しがある。印象的なのは我妹子が形見に置けるみどり子の 乞ひ泣くごとに取り委する(210番では与ふる物しなければ 男じもの脇ばさみ持ち」の句。泣く子を抱えて右往左往している様子が悲しい。

 或る本の歌に曰はく
うつそみと 思ひし時に 
たづさはり 我がふたり見し 
出立の 百枝槻の木 
こちごちに 枝させるごと 
春の葉の 茂きがごとく 
思へりし 妹にはあれど 
頼めりし 妹にはあれど 
世間を 背きしえねば 
かぎるひの 燃ゆる荒野に 
白栲の 天領巾隠り 
鳥じもの 朝立ちい行きて 
入日なす 隠りにしかば 
我が妹子が 形見に置ける 
みどり子の 乞ひ泣くごとに 
取り委する 物しなければ 
男じもの 脇ばさみ持ち 
我妹子と 二人我が寝し 
枕付く 妻屋のうちに 
昼は うらさび暮らし 
夜は 息づき明かし 
嘆けども 為むすべ知らに 
恋ふれども 逢ふよしをなみ 
大鳥の 羽がひの山に 
汝が恋ふる 妹はいますと 
人の言へば 岩根さくみて 
なづみ来し よけくもぞなき 
うつそみと 思ひし妹が 
灰にていませば 万213

 短歌三首
去年見てし秋の月夜は渡れども 相見し妹はいや年離る 万214
*昨年見た秋の月夜は今年も同じだが、一緒に見た妻とは年が隔たるばかりだ。

衾道を引手の山に妹を置きて 山道思ふに生けるともなし 万215
*衾道の引手山に妻を置いて帰る山道を思うと生きる気力が失せる。

家に来て我が屋を見れば玉床の 外に向きけり妹が木枕 万216
*家に戻って寝室を見ると妻の床の上の木枕はあらぬ方を向いていた。

【似顔絵サロン】柿本人麻呂(660-724)の先代人。舒明天皇 じょめいてんのう 593 - 641 第34代天皇。蘇我蝦夷が立てた天皇。皇后は皇極天皇。息子は中大兄皇子。














〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集一』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetailLink?cls=d_utabito&dataId=201
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%BF%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E9%BA%BB%E5%91%82
https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/hitomaro2_t.html

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