山上憶良の万葉集3860-3869番歌の解説文~アルケーを知りたい(1155)

▼今回は憶良による「妻子が傷みに悲感しび、志を述べてこの歌を作る」の解説文。今回の解説文は、10個の和歌が続いて物語になった後に来るもの。最初に持ってきた理由は、物語の背景が分かるから。
▼あらすじはこうだ。船頭の荒雄が仲間の津麻呂から代わりに船頭をやってくれと頼まれた。危険な仕事だけど、荒雄は男気を出して引き受けた。しかし天候不順のため船は沈没。荒雄は帰らぬ人となり妻は悲しむ。そして作った歌が・・・というもの。

 右は、神亀の年の中に、大宰府筑前の国宗像の郡の百姓、宗像部津麻呂を差して、対馬送粮の船の柁帥に宛つ。
時に津麻呂、滓屋の郡志賀の村の白水郎荒雄が許に詣りて語りて曰はく、「①我れ小事あり。けだし許さじか」といふ。
荒雄答へて曰はく、「②我れ郡を異にすといへども、船を同じくすること日久し。
志は兄弟より篤し、殉死することありといへども、あにまた辞びめや」といふ。
津麻呂曰はく、「府の官、我を差して、対馬送粮の船の柁帥に宛つ。容歯衰老し、海路に甚へず。ことさらに来りて祇候す。願はくは相替ることを垂れよ」といふ。
ここに荒雄許諾し、つひにその事に従ふ。
肥前の国、③松浦の県の美禰良久の崎より船を発だし、ただに対馬をさして海を渡る
すなはち、④たちまちに天暗冥く、暴風は雨を交へ、つひに順風なく、海中に沈み没りぬ
これによりて、⑤妻子ども、犢慕に勝へずして、この歌を裁作る
或いは、筑前の国の守山上憶良臣、妻子が傷みに悲感しび、志を述べてこの歌を作るといふ。
*①津麻呂という男が荒雄に、津島に行く船の船頭を代わって欲しいと頼みごとをする。
②荒尾は津麻呂に「あなたとは長らく同じ船に乗って働いてきた仲です。殉死するかも知れませんがどうしてお断りできましょうか」と答える。
③荒尾は言葉通り松浦から対馬に向けて船を出す。
④しかし天気が急変し暴風雨となり荒尾の船は沈没する。
⑤残された荒尾の妻子は悲しんでこの歌を作った。

【似顔絵サロン】憶良(660-733)の同時代人。張 巡 ちょう じゅん 709年 - 757年11月24日 唐代の武将。














〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E4%B8%8A%E6%86%B6%E8%89%AF
https://art-tags.net/manyo/poet/okura.html

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