柿本人麻呂の万葉集3602-3611番歌~アルケーを知りたい(1192)

▼3602番は人麻呂が奈良の空雲を飽かず眺める歌。この歌を見ると、自分にはいくら見ても見飽きない風景があっただろうか、とか、風景を長い時間見るような余裕があっただろうか、とか思ふ。そして人麻呂の時間の流れ方をうらやましく思ふ。人麻呂時間の歌。

 所に当りて誦詠する古歌
あをによし奈良の都にたなびける 天の白雲見れど飽かぬかも 万3602
 右の一首は雲を詠む。
*奈良の都にたなびく空の白雲はいくら見ても飽きない。

妹が袖別れて久になりぬれど 一日も妹を忘れて思へや 万3604
*妻が袖を振って分かれてからだいぶ日が経ちましたけど、一日たりとも忘れたことはありません。

わたつみの海に出でたる飾麿川 絶えむ日にこそ我が恋やまめ 万3605
 右の三首(ここでは一つ略したので二首)は恋の歌。
*海に流れ込む飾麿川(しかまがわ)が干上がる日があるとしたら、その日こそ私の思いが途切れる時です(そんな日はないので、思いが途切れることはありません)。

玉藻刈る処女を過ぎて夏草の 野島が先に廬りす我れは 万3606
 柿本朝臣人麻呂が歌には「駿馬(みぬめ)を過ぎて」といふ。また「船近づきぬ」といふ。
*処女(をとめ)を通り過ぎ、夏草が生える野島の少し先で我われは野宿します。

白栲の藤江の浦に漁りする 海人とや見らむ旅行く我れを 万3607
 柿本朝臣人麻呂が歌には「荒栲の」といふ。また「鱸釣る海人とか見らむ」おいふ。
*知らない人が見ると、旅行中の我われは藤江の浦で魚を獲っている漁師に見えるかも、ですね。

天離る鄙の道を恋ひ来れば 明石の門より家のあたり見ゆ 万3608
 柿本朝臣人麻呂が歌には「大和島見ゆ」といふ。
*田舎の道を都を思いながら旅するうちに、明石の門から我が家のあたりが見えてきます。

武庫の海の庭よくあらし漁りする 海人の釣舟波の上ゆ見ゆ 万3609
 柿本朝臣人麻呂が歌には「笥飯の海の」といふ。また「刈り薦の乱れて出づ見ゆ海人の釣舟」といふ。
*武庫の海は良い漁場らしい。漁師たちの釣り舟が波の上に見えます。

安胡の浦に舟乗りすらむ娘子らが 赤裳の裾に潮満つらむか 万3610
 柿本朝臣人麻呂が歌には「嗚呼見の浦」といふ。また「玉裳の裾に」といふ。
*安胡の浦で舟に乗っている娘子たち。赤い裾まで潮が満ちていることでしょう。

 七夕の歌一首
大船に真楫しじ貫き海原を 漕ぎ出て渡る月人壮士 万3611
 右は柿本朝臣人麻呂が歌。
*大型船が楫をつき出して海原に漕ぎ出ようとする月の男たち。

【似顔絵サロン】柿本人麻呂(660-724)の先代人。孝文帝 こうぶんてい 467 - 499 北朝北魏の第6代皇帝。














〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集三』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetailLink?cls=d_utabito&dataId=201
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%BF%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E9%BA%BB%E5%91%82
https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/hitomaro2_t.html

コメント

このブログの人気の投稿

万葉集巻第二147‐149番歌(天の原振り放け見れば大君の)~アルケーを知りたい(1266)

万葉集巻22番歌(常にもがもな常処女)~アルケーを知りたい(1242)

万葉集巻第二143‐144番歌(岩代の崖の松が枝結びけむ人は)~アルケーを知りたい(1264)