万葉集巻第三257‐260番歌(楫棹もなくてさぶしも)~アルケーを知りたい(1274)

▼高市皇子が逝去した後、香具山の宮が荒れている様子を鴨君足人が詠った歌。「遊ぶ船には 楫棹もなくてさぶしも 漕ぐ人なしに」。

 鴨君足人が香具山の歌一首 幷せて短歌
天降りつく 天の香具山 
霞立つ 春に至れば 
松風に 池波立ちて 
桜花 木の暗茂に 
沖辺には 鴨妻呼ばひ 
辺つ辺に あぢ群騒き 
ももしきの 大宮人の 
退り出て 遊ぶ船には 
楫棹も なくてさぶしも 
漕ぐ人なしに 万257
*華やいだ時期には大宮人が船遊びしていたものだ。しかし、今や楫や棹もなくて寂しい。船を漕ぐ人もいない。

 反歌二首
人漕かずあらくもしるし潜きする 鴛鴦とたかべと船の上に棲む 万258
*人々が船を使わなくなったのは明らかだ。オシドリと鴨が船の上に棲んでいるから。

いつの間も神さびけるか香具山の 桙杉の本にて苔生すまでに 万259
*いつの間にこれほど神さびたのだろうか。香具山の杉の根本には苔が生している。

 或本の歌に曰はく
天降りつく 神の香具山 
うち靡く 春さり来れば 
桜花 木の暗茂に 
松風に 池波立ち 
辺つ辺には あぢ群騒ぎ 
沖辺には 鴨妻呼ばひ 
ももしきの 大宮人の 
退り出て 漕ぎける船は 
棹楫も なくてさぶしも 
漕がむと思へど 万260
 右は、今案ふるに、寧楽に遷都したる後に、旧を怜びてこの歌を作るか。

【似顔絵サロン】鴨君足人 かものきみのたりひと ? - ? 藤原宮の大極殿にの祭祀氏。














〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集一』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=3

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