万葉集巻第三443‐445番歌(昨日こそ君はありしか)~アルケーを知りたい(1301)

729年、摂津の国の役所で班田関係の仕事をしていた丈部竜麻呂が自殺した。なぜこういうことになったのかと詠う上司の大伴三中による長歌と反歌。戸惑う気持ちが伝わる挽歌。

 天平元年己巳に、摂津の国の班田の史生丈部竜麻呂自ら経きて死にし時に、判官大伴宿禰三中が作る歌一首 幷せて短歌
天雲の 向伏す国の 
ますらをと 言はるる人は 
天皇の 神の御門に 
外の重に 立ち侍ひ 
内の重に 仕へ奉りて 
玉葛 いや遠長く 
祖の名も 継ぎ行くものと 
母父に 妻に子どもに 
語らひて 立ちにし日より 
たらちねの 母の命は 
斎瓮を 前に据ゑ置きて 
片手には 木綿取り持ち 
片手には 和栲奉り 
平けく ま幸くませと 
天地の 神を祈ひ祷み 
いかにあらむ 年月日にか 
つつじ花 にほへる君が 
にほ鳥の なづさむ来むと 
立ちて居て 待ちけむ人は 
大君の 命畏み
おしてる 難波の国に 
あらたまの 年経るまでに
白栲の 衣も干さず 
朝夕に ありつる君は 
いかさまに 思ひいませか 
うつせみの 惜しきこの世を 
露霜の 置きて去にけむ 
時にあらずして 万443
*何を思ってこの世を去ってしまったのでしょうか。その時でもないというのに。

 反歌
昨日こそ君はありしか 思はぬに浜松の上に雲にたなびく 万444
*昨日までいつものようにしていらした貴方様。今は思いもよらないことに浜松の上でたなびく雲になってしまった。

いつしかと待つらむ妹に玉梓の 言だに告げず去にし君かも 万445
*お帰りを待っている妻に、ひとこと言うことなくこの世を去った貴方様です。

【似顔絵サロン】大伴 三中 おおとも の みなか ? - ? 奈良時代の貴族。大納言・大伴御行の子。















丈部 竜麻呂 はせつかべ の たつまろ ? - 729年 奈良時代の官人。摂津国の班田の書記。















〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集一』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=3

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