万葉集巻第八1574‐1580番歌(雲の上に鳴くなる雁の)~アルケーを知りたい(1398)

▼雁の鳴き声、という文字を見ると、鳴き声は聞こえないんだけども、寒々とした情景のイメージが浮かんでくる。雁が鳴くと寒々しくて植物は紅葉する、という段取りになっているらしい。道にはみ出たススキをどかしながら道を進む。葉っぱに近づくと霜露が下りて、玉になっている。一人でもの思ったり、人に逢いたかったり。今回の7首もなかなかよ。

 右大臣橘家(橘諸兄)にして宴する歌七首
雲の上に鳴くなる雁の遠けども 君に逢はむとた廻り来つ 万1574
*雲の上で鳴く雁と同じくらい遠く離れていますけれども、貴方様に会うために長い道をやって参りました。

雲の上に鳴きつる雁の寒きなへ 萩の下葉はもみちぬるかも 万1575
 右の二首(高橋安麻呂の歌)
*雲の上の雁の鳴き声に寒さを感じます。萩の下葉が紅葉しました。

この岡に小鹿踏み起しうかねらひ かもかもすらく君故にこそ 万1576
 右の一首は長門守巨曾倍朝臣対馬
*この岡で皆が小鹿を追いかけるように生き生きと動き回るのも貴方様がいらっしゃるからこそ。

秋の野の尾花が末を押しなべて 来しくもしるく逢へる君かも 万1577
*秋の野の尾花を押し分けながらやってまいりました。貴方様にお目にかかるためです。

今朝鳴きて行きし雁が音寒みかも この野の浅茅色づきにける 万1578
 右の二首は安倍朝臣虫麻呂
*今朝、鳴きながら飛んで行った雁の寒々とした声のおかげで、この野の浅茅が紅葉しました。

朝戸開けて物思ふ時に白露の 置ける秋萩見えつつもとな 万1579
*朝、戸を開けて物を思っていると、白露を置いた秋萩が目にとまりました。

さお鹿の来立ち鳴く野の秋萩は 露霜負ひて散りにしものを 万1580
 右の二首は文忌寸馬養
 天平十年戊寅の秋の八月の二十日
*雄鹿がやって来て鳴いている野原。その秋萩は、露霜が降りて散り果てています。

【似顔絵サロン】橘 諸兄 たちばな の もろえ 684 - 757 奈良時代の皇族・公卿。吉備真備と玄昉が政治を補佐。















高橋 安麻呂 たかはし の やすまろ ? - ? 奈良時代の貴族。















巨曾倍 津嶋 こそべ の つしま ? - ? 奈良時代の貴族。738年、長門守。















阿倍 虫麻呂 あべ の むしまろ ? - 752 奈良時代の貴族・歌人。740年、藤原広嗣の乱を平定。















文 馬養 ふみ の うまかい ? - ? 奈良時代の貴族・歌人。672年、壬申の乱で大海人皇子方の将。















〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=8

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