万葉集巻第八1642‐1645番歌(引き攀ぢて折らば散るべみ)~アルケーを知りたい(1402)
▼今回は雪を梅の花に見立てる趣向の歌。ふと雪の結晶を研究した中谷宇吉郎「雪は天から送られた手紙である」を思い出しました。1644は梅の枝の切り取り方が分かる歌。引き攀ぢて折る、というから刃物を使ってないことが分かる。そんな乱暴な取り方だと花が散る、と思っていたら、それは承知の上だったことも分かる。この歌の作者は大伴旅人の従者。
安倍朝臣奥道が雪の歌一首
たな霧らひ雪も降らぬか梅の花 咲かぬが代にそへてだに見む 万1642
*空に霧が出て雪が降らないかな。雪を梅の花に見立てたいから。
若桜部朝臣君足が雪の歌一首
天霧らし雪も降らぬかいちしろく このいつ柴に降らまくを見む 万1643
*天に霧が出て雪でも降らないものか。このいつ柴に白く降り積もるところをみたいから。
三野連石守が梅の歌一首
引き攀ぢて折らば散るべみ梅の花 袖に扱入れつ染まば染むとも 万1644
*引きちぎって折り取ろうとすると散ってしまう梅の花を袖に押し込みました。袖が梅の色に染まるなら染まっても良いと思って。
巨勢朝臣宿奈麻呂が雪の歌一首
我がやどの冬木の上に降る雪を 梅の花かとうち見つるかも 万1645
*わが家の冬木の上に降る雪を梅の花に見立てて眺めています。
【似顔絵サロン】安倍 奥道 あべ の おきみち ? - 774 奈良時代の貴族。764年の藤原仲麻呂の乱で、孝謙上皇側に付いて3階級昇進。
若桜部 君足 わかさくらべ の きみたり ? - ? 奈良時代の歌人。天皇に酒を献じたとき、盃に季節外れの桜の花びらが紛れ込んだのを機に稚桜部臣と改姓。
三野 石守 みの の いしもり ? - ? 奈良時代の人物。大伴旅人の従者。
巨勢 宿奈麻呂 こせ の すくなまろ ? - ? 奈良時代の貴族。長屋王の変のさい、邸で罪の糾問にあたる。
〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=8
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