万葉集巻第九1690‐1695番歌(旅にあれば夜中をさして)~アルケーを知りたい(1411)

▼今回は6首。いずれも柿本人麻呂歌集にある旅先の心情を詠う歌。人麻呂歌集には、自作と人麻呂が良いなと思った歌と両方あるという。1690は騒々しさと寂しさの対比、1691は理想と現実の対比、コントラストの付け方が面白い。

 高島にして作る歌二首
高島の安曇川波は騒けども 我れは家思ふ宿り悲しみ 万1690
*滋賀県の高嶋の安曇川は波立って騒々しいけれど、私は旅の宿で家を思い出して悲しい気持ち。

旅にあれば夜中をさして照る月の 高島山に隠らく惜しも 万1691
*旅の途中、夜の月はありがたいのだけれど、今は残念ながら高島山に隠れている。

 紀伊の国にして作る歌二首
我が恋ふる妹は逢はさず玉の浦に 衣片敷きひとりかも寝む 万1692
*私の愛する妻と逢えないまま玉の浦で一人寝の寂しさよ。

玉櫛笥明けまく惜しきあたら夜を 衣手離れてひとりかも寝む 万1693
*明けるのが惜しい夜なのに、一人で寝ています。

 鷺坂にして作る歌一首
栲領巾の鷺坂山の白つつじ 我れににほほに妹に示さむ 万1694
*鷺坂山の白つつじよ、私をその色で染めてくれ。妻に見せようと思うから。

 泉川にして作る歌一首
妹が門入り泉川の常滑に み雪残れりいまだ冬かも 万1695
*泉川のつるつるした苔に雪が残っています。いまだに冬なのですね。

【似顔絵サロン】柿本 人麻呂 かきのもと ひとまろ 645 - 724 飛鳥時代の歌人。紀貫之は人麻呂を歌聖(うたのひじり)と呼ぶ。















〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=9

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