万葉集巻第九1740‐1741番歌(常世辺に住むべきものを)~アルケーを知りたい(1421)
▼今回は、おとぎ話の浦島太郎の万葉版。1740番の話から教訓を引き出すとすれば、過去に戻るな、かな。神も人も、見るな開けるなと言われると、必ず反対のことをする。そしてトラブルになる。そういうの行動を1741番で、おそやこの君(愚かな人だよ)と総括される。
水江の浦の島子を詠む一首 幷せて短歌
春の日の 霞める時に 住江の 岸に出で居て 釣舟の とをらふ見れば いにしへの ことぞ思ほゆる 水江の 浦の島子が 鰹釣り 鯛釣りほこり 七日まで 家にも来ずて 海境を 過ぎて漕ぎ行くに 海神の 神の女に たまさかに い漕ぎ向ひ 相とぶらひ 言成りしかば かき結び 常世に至り 海神の 神の宮の 内のへの 妙なる殿に たづさはり ふたり入り居て 老いもせずして 長き世に ありけるものを 世間の 愚か人の 我妹子に 告りて語らく しましくは 家に帰りて 父母に 事も告らひ 明日のごと 我れは来なむと 言ひければ 妹が言へらく 常世辺に また帰り来て 今のごと 逢はむとならば この櫛笥 開くなゆめと そこらくに 堅めし言を 住吉に 帰り来りて 家見れど 家も見かねて 里見れど 里も見かねて あやしみと そこに思はく 家ゆ出でて 三年の間に 垣もなく 家失せめやと この箱を 開きて見てば もとのごと 家はあらむと 玉櫛笥 少し開くに 白雲の 箱より出でて 常世辺に たなびきぬれば 立ち走り 叫び袖振り 臥いまろび 足ずりしつつ たちまちに 心消失せぬ 若くありし 肌も皺みね 黒くありし 髪も白けぬ ゆなゆなは 息さへ絶えて 後つひに 命死にける 水江の 浦の島子が 家ところ見ゆ 万1740
反歌
常世辺に住むべきものを剣太刀 汝が心からおそやこの君 万1741
*せっかく永遠に生きられる環境にいたのに、この人は自分の愚かさでこの結果。
【似顔絵サロン】水江の浦の島子
高橋 虫麻呂 たかはし の むしまろ ? - ? 奈良時代の歌人。高橋連は物部氏の一族。今回の1740番と1741番「水江の浦の島子を詠む一首 幷せて短歌」は高橋連虫麻呂歌集にあるそうな。
〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=9
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