万葉集巻第十七3969番歌(この夜すがらに寐も寝ずに)~アルケーを知りたい(1505)

▼体調不良の家持と池主のやりとりの続き。今回は、家持が贈った長歌。漢詩文調のイントロに、山柿の門、という言葉がある。柿本人麻呂、山部赤人、山上憶良らの名前から一文字とって和歌の手本の方々としている。家持の時からもう山柿の門という表現で先達を敬っていた。
長歌は床に伏した身の家持の思いを綴った内容。「ここに思ひ出」「そこに思ひ出」とか「嘆くそら」「思ふそら」など対比の妙が良き。最後は、貴方様のご配慮がありがたく、一晩中お目にかかりたいと思い続けております、と結ぶ。この長歌の後に短歌が三つ続く。それは次回。

 さらに贈る歌一首
含弘の徳は、恩を蓬体に垂れ、不貲の思は、慰を陋心に報ふ。
来眷を載荷し、喩ふるところに堪ふるものなし。
但以、稚き時に遊芸の庭に渉らずして、横翰の藻、おのづからに彫虫に乏し。
幼き年に山柿の門に逕らずして、裁歌の趣、詞を聚林に失ふ。
ここに、藤をもちて錦に続く言を辱みし、さらに石をもちて瓊に間ふる詠を題す。
もとよりこれ俗愚にして癖を懐き、黙してやむこと能はず。
よりて、数行を捧げ、もちて嗤笑に酬いむ。その詞に曰はく、
大君の 任けのまにまに
世間の しなざかる
越を治めに 出でて来し
ますら我すら 世間の
常しなければ うち靡き
床に臥い伏し 痛けくの
日に異に増せば 悲しけく
ここに思ひ出 いらなけく
そこに思ひ出 嘆くそら
安けなくに 思ふそら
苦しきものを あしひきの
山さへなりて 玉桙の
道の遠けば 間使も
遣るよしもなみ 思ほしき
言も通はず たまきはる
命惜しけど せむすべの
たどきを知らに 隠り居て
思ひ嘆かひ 慰むる
心はなしに 春花の
咲ける盛りに 思ふどち
手折りかざさず 春の野の
茂み飛び潜く うぐひすの
声だに聞かず 娘子らが
春菜摘ますと 紅の
赤裳の裾の 春雨に
にほひひづちて 通ふらむ
時の盛りを いたづらに
過ぐし遣りつれ 偲はせる
君が心を うるはしみ
この夜すがらに 寐も寝ずに
今日もしめらに 恋ひつつぞ居る 万3969
*一晩中寝るに寝られず、昼になってもずっと貴方様にお目にかかりたいと思い続けております。

【似顔絵サロン】『万葉集』継承に貢献した『梨壺の五人』のひとり:大中臣 能宣 おおなかとみ の よしのぶ 921 - 991 平安時代中期の貴族・歌人。百人一首49:みかきもり衛士のたく火の夜は燃え 昼は消えつつものをこそ思へ
















〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=17

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