万葉集巻第十七3973番歌(心ぐしいざ見にいかな)~アルケーを知りたい(1507)
▼家持と池主の和歌の贈答の続き。今回は、池主から家持への長歌。ちょっと長めのイントロつき。二行目に死罪死罪と、ちょっとドキッとする言葉がある。これは、ご無礼申し上げて死罪に相当する、という意味で、今だと、すまんすまん、くらいの調子。文中の「山柿の歌泉は、これに比ぶれば蔑きがごとく」を見た家持はにんまりしたに違いない。長歌の結びに出てくる「ことはなたゆひ」は指切りげんまんの意味。
昨日短懐を述べ、今朝耳目を汗す。
さらに賜書を承り、また不次を奉る。死罪死罪。
下賤を遺れず、頻りに徳音を恵みたまふ。
英霊星気あり、逸調人に過ぐ。
智水仁山、すでに琳瑯の光彩をつつみ、潘江陸海、おのづからに詩書の廊廟に坐す。
思を非常に騁せ、情を有理に託す。
七歩にして章を成し、数篇紙に満つ。
巧く愁人の重患を遣り、能く恋者の積思を除く。
山柿の歌泉は、これに比ぶれば蔑きがごとく、彫竜の筆海は、燦然として看ること得たり。
まさに知りぬ、僕が幸あることを。
敬みて和ふる歌、その詞に云はく、
大君の 命畏み
あしひきの 山野さはらず
天離る 鄙も治むる
ますらをや なにか物思ふ
あをによし 奈良道来通ふ
玉梓の 使絶えめや
隠り恋ひ 息づきわたり
下思ひ 嘆かふ我が背
いにしへゆ 言ひ継ぎくらし
世間は 数なきものぞ
慰むる こともあらむと
里人の 我れに告ぐらく
山びには 桜花散り
かほ鳥の 間なくしば鳴く
春の野に すみれを摘むと
白栲の 袖折り返し
紅の 赤裳裾引き
娘子らは 思ひ乱れて
君待つと うら恋すなり
心ぐし いざ見にいかな
ことはたなゆひ
*大君のミッションを立派に遂行なさっている貴方様が物思いして嘆いておられる。昔からこの世は定めなきものと言われてきました。里人が言うには、山には春が訪れていると。桜が咲き、鳥が鳴いていると。娘子たちも貴方様のお出ましを待ち焦がれています。一緒に参りましょう。ことはたなゆひ=事は・たな(しっかりと)結ひ(約束)~ゆびきりげんまん。
【似顔絵サロン】『万葉集』継承に貢献した『梨壺の五人』のひとり:清原 元輔 きよはら の もとすけ 908 - 990 平安時代中期の貴族・歌人。契りきなかたみに袖をしぼりつつ 末の松山波こさじとは(百人一首42)
〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=17
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