万葉集巻第十七3976-3977番歌(咲けりとも知らずしあらば)~アルケーを知りたい(1509)

▼前回の池主から家持に贈った3974番と3975番に応えて、家持が詠い贈った短歌二首。短歌より多い文字数のイントロと漢詩がついている。「古人は言に酬いずといふことなし」が良い。だから「いささかに拙詠を栽り、敬みて解笑に擬ふらく」。そして短歌に出て来る山吹と葦垣が池主の歌に呼応する。よき。

 昨暮の来使は、幸しくも晩春遊覧の詩を垂れたまひ、今朝の累信は、辱くも相招望野の歌をたまふ。
一たび玉藻を看るに、やくやくに鬱結を写き、二たび秀句を吟ふに、すでに愁緒をのぞく。
この眺翫にあらずは、孰れか能く心を暢べむ。
ただし下僕、稟性彫ること難く、闇神螢こと靡し。
翰を握りて毫を腐し、研に対ひて渇くことを忘る。
終日目流すとも、これを綴ること能はず。
謂ふならく、文章は天骨にして、これを習ふこと得ずと。
あに字を探り韻を勒して、雅篇に叶和するに堪へめや。
はた、鄙里の少児に聞えむ。
古人は言に酬いずといふことなし。
いささかに拙詠を栽り、敬みて解笑に擬ふらくのみ。
<今し、言を賦し韻を勒し、この雅作の篇に同ず。
あに石をもちて瓊に問ふるに殊ならめや。
声に唱へて走が曲に遊ぶといふか。
はた、小児の、濫りに謡ふがごとし。
敬みて葉端に写し、もちて乱に擬へて曰はく、>
 七言一首
抄春の余日媚景麗しく、
初巳の和風払ひておのづからに軽し。
来燕は蘆を引きとほく瀛に赴く。
聞くならく君は侶に嘯き流曲を新たにし、
禊飲に爵を促して河清にうかぶと。
良きこの宴を追ひ尋ねまく欲りすれど、
なほし知る懊に染みて脚跉䟓することを。
*春の宴に参加したいのですが、病のために脚もふらふらなので・・・。
 
 短歌二首
咲けりとも知らずしあらば黙もあらむ この山吹を見せつつもとな 万3976
*咲いたことを知らなければ平静でおれたのに、この山吹を目にしたら、そうは言ってられません。

葦垣の外にも君が寄り立たし 恋ひけれこそば夢に見えけれ 万3977
 三月の五日に、大伴宿禰家持病に臥して作る。
*葦の垣根の外に貴方様が寄り掛かって立っておられる。お目にかかりたいと思っていたから夢でお姿を見られたのですね。

【似顔絵サロン】『万葉集』継承に貢献した『梨壺の五人』のひとり:紀 時文 き の ときぶみ 922 - 996 平安時代中期の貴族・歌人。紀貫之の子。能書家。梨壺の五人に入れたのは「親の七光り」と言われた。
















〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=17

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