万葉集巻第十七4011番歌(狂れたる醜つ翁の)~アルケーを知りたい(1520)
▼家持は鷹狩りが好きで、「これをおきて またはありがたし」と惚れ込んだ自慢の鷹を飼っていた。ところが鷹の担当者が家持に無断で野に持ち出して放った揚げ句、見失ってしまう。報告を聞いた家持は、言葉を失い「心には 火さへ燃えつつ」探しに探すがどこにいるか分からない。神頼みまでしたが見つからない。すると夢に出て来た娘が「見つかります」と言った。そんな内容の歌。鷹を失った人間を「狂れたる 醜つ翁」と罵っている家持がよき。この歌、傑作。
放逸れたる鷹を思ひて夢見、感悦びて作る歌一首 幷せて短歌
大君の 遠の朝廷ぞ
み雪降る 越と名に負へる
天離る 鄙にしあれば
山高み 川とほしろし
野を広み 草こそ茂き
鮎走る 夏の盛りと
島つ鳥 鵜養がともは
行く川の 清き瀬ごとに
篝さし なづさひ上る
露霜の 秋に至れば
野も多に 鳥すだけりと
ますらをの 友誘ひて
鷹はしも あまたあれども
矢形尾の 我が大黒に 大黒といふは蒼鷹の名なり
白塗の 鈴取り付けて
朝猟に 五百つ鳥立て
夕猟に 千鳥踏み立て
追ふ毎に 許すことなく
手放れも をちもかやすき
これをおきて またはありがたし
さ慣らへる 鷹はなけむと
心には 思ひほこりて
笑まひつつ 渡る間に
狂れたる 醜つ翁の
言だにも 我れには告げず
との曇り 雨の降る日を
鳥猟すと 名のみを告りて
三島野を そがひに見つつ
二上の 山飛び越えて
雲隠り 翔り去にきと
帰り来て しはぶれ告ぐれ
招くよしの そこになければ
言ふすべの たどきを知らに
心には 火さへ燃えつつ
思ひ恋ひ 息づきあまり
けだしくも 逢ふことありやと
あしひきの をてもこのもに
鳥網張り 守部を据ゑて
ちはやぶる 神の杜に
照る鏡 倭文に取り添へ
祈ひ禱みて 我が待つ時に
娘子らが 夢に告ぐらく
汝が恋ふる その秀つ鷹は
麻都太江の 浜行き暮らし
つなし捕る 氷見の江過ぎて
多祜の島 飛びた廻り
葦鴨の すだく古江に
一昨日も 昨日もありつ
近くあらば いま二日だみ
遠くあらば 七日のをちは
過ぎめやも 来なむ我が背子
ねもころに な恋ひそよとぞ
いまに告げつる 万4011
*家持が特別大切にしていた鷹を間抜けなろくでなしの爺が逃がしてしまう。手を尽くして探すが何の手がかりも得られず途方に暮れていた。しかし夢に娘子が現れ「きっと帰って来るから心配しないで良い」と告げてくれた。
【似顔絵サロン】山田 君麿/君麻呂 やまだの きみまろ ? - ? 家持に「狂れたる醜つ翁」と言われた鷹師。
〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=17
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