万葉集巻第十八4032-4035番歌(奈呉の海に舟しまし貸せ)~アルケーを知りたい(1526)

▼今回の三首は、Whenが天平20年=748年、Whereが大伴宿禰家持の越中の館、Whoが造酒司令史の田辺史福麻呂、が分かっている。面白いのは造酒司という役所があったこと。朝廷が酒造りを大切にしていたのだ。歌の詠み手は百済からの帰化した氏族の人で、橘諸兄の使者という役を担っていたこと。宴会では古い歌を味わいながら、新しい歌を作った、というから、日ごろから和歌の勉強をしていたのだろう。和歌を詠むとその人物の賢愚が分かったというから、何かと大変だ。

 天平二十年の春の三月の二十三日に、左大臣橘家の使者、造酒司令史田辺史福麻呂に、守大伴宿禰家持が館にして饗す。
ここに新しき歌を作り、幷せてすなはち古き詠を誦ひ、おのおのも心緒を述ぶ。
奈呉の海に舟しまし貸せ沖に 出でて波立ち来やと見て帰り来む 万4032
*奈呉の海でどなたか舟を貸してくれないか。沖に出て波が立ち来るのを見て帰りたいから。

波立てば奈呉の浦廻に寄る貝の 間なき恋にぞ年は経にける 万4033
*奈呉の浦で波が立つと現れる貝のように絶えず恋しいと思いながら年が経ちました。

奈呉の海に潮の早干ばあさりしに 出でむと鶴は今ぞ鳴くなる 万4034
*奈呉の海が干潮になったら餌を獲りに行こうと鶴が今から鳴いています。

ほととぎすいとふ時なしあやめぐさ かづらにせむ日こゆ鳴き渡れ 万4035
 右の四首は田辺史福麻呂
*ホトトギスの声が煩わしい時などありませんから、あやめぐさをかずらにする日にはきっとやって来て鳴いて欲しい。

【似顔絵サロン】田辺 福麻呂 たなべ の さきまろ ? - ? 奈良時代の官人。百済帰化の日系氏族帰国者。万葉歌人。748年、造酒司の令史のとき、橘諸兄の使者として越中守・大伴家持を訪れ歌を詠む。
















〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=18

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