万葉集巻第十八4085-4088番歌(焼大刀を礪波の関に)~アルケーを知りたい(1539)
▼今回は、家持と客人の歌がいくつか。4085番は僧平栄に贈った「焼太刀」で始まるインパクトのある歌。贈られた平栄は嬉しかっただろうけど、返しの歌を作るのに難儀したに違いない。返歌が載ってない(笑)。続く4086番からの三首は三人が顔を合わせた風流な会で詠まれた歌。「主人、百合の花縵三枚を造りて、豆器に畳ね置き、賓客に捧げ贈る」という演出が心憎し。
天平感宝元年の五月の五日に、東大寺の占墾地使の僧平栄等に饗す。
時に、守大伴宿禰家持、酒を僧に送る歌一首
焼大刀を礪波の関に明日よりは 守部遣り添へ君を留めむ 万4085
*焼き鍛えた太刀を研ぐという礪波(となみ)の関所に明日から番人を増やして貴方様が帰らないようお引き留めしましょう。
同じき月の九日に、諸僚、少目秦伊美吉石竹が館に会ひて飲宴す。
時に、主人、百合の花縵三枚を造りて、豆器に畳ね置き、賓客に捧げ贈る。
おのおのもこの縵を賦して作る三首
油火の光りに見ゆる我がかづら さ百合の花の笑まはしきかも 万4086
右の一首は守大伴宿禰家持。
*灯火の明かりで見える我らの花縵 小さい百合の花の微笑ましいことといったらありません。
燈火の光りに見ゆるさ百合花 ゆりも逢はむと思ひそめて 万4087
右の一首は介内蔵伊美吉繩麻呂。
*灯火の明かりで見える小百合の花、後になっても逢いたいと思い始めました。
さ百合花ゆりも逢はむと思へこそ 今のまさかもうるはしみすれ 万4088
右の一首は大伴宿禰家持和ふ。
*小百合の花に後になっても逢いたいと思うからこそ、この今も親しんでおります。
【似顔絵サロン】平栄 へいえい ? - ? 奈良時代の僧。 東大寺の役僧。749年、東大寺占墾地使として越中(富山県)へ出張、家持に接待を受けた。
秦 伊美吉石竹 はた の いみきいはたけ ? - ? 奈良時代の役人。749年、館で飲宴を開き、百合の花縵三枚を造り、豆器に畳ね置いて、賓客に捧げ贈った。
内蔵 縄麻呂 くら の なわまろ/つなまろ ? - ? 奈良時代後期の官人。我が背子が国へましなばほととぎす 鳴かむ五月は寂しけむかも 万3996
〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=18
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