万葉集巻第十九4256-4259番歌(手束弓手に取り持ちて)~アルケーを知りたい(1589)
▼4256番は、家持が上司の橘諸兄を祝福する歌。昔は三代の天皇に仕えた武内宿禰がいらっしゃるので、わが橘卿におかれましては七代の天皇にお仕えください、と祈る内容。実際、諸兄は四代の天皇に仕えた。
4257番から4259番は紀飯麻呂の邸宅で開いた宴会で出た歌。最初の二首は伝誦(昔からある歌を口頭で唱える)、三首目は家持のオリジナル。その場で作った歌。さすが家持。
左大臣橘卿を寿くために預め作る歌一首
いにしへに君の三代経て仕へけり 我が大主は七代申さね 万4256
*昔は三代の天皇にお仕えした大臣もいらしたそうです。わが大主も長きにわたってお仕えください。
十月の二十二日に、左大弁紀飯麻呂朝臣が家にして宴する歌三首。
手束弓手に取り持ちて朝猟に 君は立たしぬ棚倉の野に 万4257
右の一首は治部卿船王伝誦す。
久邇の京都の時の歌。
いまだ作主を詳らかにせず。
*手束弓をしっかりと手に持ち、朝の猟を行う棚倉の野にお立ちになっているわが君よ。
明日香川川門を清み後れ居て 恋ふれば都いや遠そきぬ 万4258
右の一首は、左中弁朝臣清麻呂伝誦す。
古京の時の歌。
*明日香川の渡し場の水が清らかなので、旧都に残って新都を思っているうちにますます遠のきました。
十月しぐれの常か我が背子がやどの 黄葉散りぬべく見ゆ 万4259
右の一首は、少納言大伴宿禰家持、時に当りて梨の黄葉を矚てこの歌を作る。
*十月の時雨の時期の常なのでしょう。貴方様のお屋敷の黄葉が今にも散りそうに見えます。
【似顔絵サロン】武内 宿禰 たけうちのすくね ? - ? 記紀に伝わる古代日本の忠臣。日本銀行券の肖像になった。
紀 飯麻呂 き の いいまろ 690 - 762 奈良時代の公卿。橘諸兄派。橘諸兄の葬儀では監護を務めた。
船王 ふねおう/ふねのおおきみ ? - ? 奈良時代の皇族。舎人親王の子。757年、橘奈良麻呂の乱では、謀反者の尋問を担当。764年、藤原仲麻呂の乱では隠岐国へ流罪。眉のごと雲居に見ゆる阿波の山かけて漕ぐ船泊知らずも 万998
大中臣 清麻呂 おおなかとみ の きよまろ 676 - 735 奈良時代の公卿・歌人。中臣意美麻呂の七男。
〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=19
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