万葉集巻第十九4289-4292番歌(青柳のほつ枝攀ぢ取り)~アルケーを知りたい(1600)
▼昔の人は枝を切り取っては頭に差していたけど、その理由は、祈りであった。4289番に解説がある。頭に青柳の枝を差すのは、末長く栄えるようにと祈ってのことだと。
4290番は春の野の夕方の舞台でウグイスの声が聞こえる、うら悲しい、という。
4291番も音を詠った作品。竹林を吹き抜ける風の音。
4292番は空にヒバリが舞い上がって鳴く風景を見て、孤独感に悲しみを感じる歌。
こうやってみると今回の四首はみな内省的だ。
二月の十九日に、左大臣橘家の宴にして、攀ぢ折れる柳の条を見る歌一首
青柳のほつ枝攀ぢ取りかづらくは 君がやどにし千年寿くとぞ 万4289
*青柳の枝を攀じ取って頭につけるのは、貴方様のお宅が末永く栄えるようにと祈ってのことです。
二十三日に、興に依りて作る歌二首
春の野に霞たなびきうら悲し この夕影にうぐひす鳴くも 万4290
*春の野に霞がたなびいてうら悲しい風景です。そんな夕方にウグイスが鳴いています。
我がやどのい笹群竹吹く風の 音のかそけきこの夕かも 万4291
*私の家の笹竹の群を吹き抜ける風の音がかすかに聞こえるこの夕方です。
二十五日に作る歌一首
うらうらに照れる春日にひばり上がり 心悲しもひとりし思へば 万4292
春日遅々にして、鶬鶊正に啼く。
悽惆の意、歌にあらずしては撥ひかたきのみ。
よりて、この歌を作り、もちて締緒を展ぶ。
ただし、この巻の中に作者の名字を稱はずして、ただ、年月、所処、縁起のみを録せるは、皆大伴宿禰家持が裁作る歌詞なり。
*うらうらと照る春の日にひばりが空に飛んでいく。ひとりでもの思いしていると心悲しくなる。
【似顔絵サロン】今回の歌の時期に大納言を務めた人物二人。
巨勢 奈弖麻呂 こせ の なでまろ 670 - 753 奈良時代の公卿。父は巨勢人。万葉歌人。天地と相栄えむと大宮を仕へ奉れば貴く嬉しき 万4273。
藤原 仲麻呂 ふじわら の なかまろ 恵美押勝 706 - 76 奈良時代の公卿。藤原武智麻呂の次男。天雲の去き還りなむもの故に思ひそ我がする別れ悲しみ 万4242
〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=19
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