万葉集巻第二十4331-4333番歌(ますらをの靱取り負ひて)~アルケーを知りたい(1612)
▼今回は防人が招集され難波から筑紫に出発するプロセスを見ていた家持の歌三首。筑紫が防衛拠点であること、勇敢な兵士の駐留が必要であること、務めが終われば故郷に戻ること、が分かる。4331番の長歌では防人の意義や概要が詠われている。4332番は、夫が防人になって家を離れるので妻は寂しい思いをしているだろう、と詠う。4333番は、防人になった夫も寂しいことだろう、と詠う。家持良き人、良き人家持。
追ひて、防人が悲別の心を痛みて作る歌一首 幷せて短歌
大君の 遠の朝廷と
しらぬひ 筑紫の国は
敵まもる おさへの城ぞと
きこしをす 四方の国には
人さはに 満ちてはあれど
鶏が鳴く 東男は
出で向ひ かへり見せずて
勇みたる 猛き軍士と
ねぎたまひ 任けのまにまに
たらちねの 母が目離れて
若草の 妻をもまかず
あらたまの 月日数みつつ
葦が散る 難波の御津に
大船に ま櫂しじ貫き
朝なぎに 水手ととのへ
夕潮に 楫引き折り
率ひて 漕ぎ行く君は
波の間を い行きさぐくみ
ま幸くも 早く至りて
大君の 命のまにま
ますらをの 心を持ちて
あり廻り 事し終らば
つつまはず 帰り来ませと
斎瓮を 床辺に据ゑて
白栲の 袖折り返し
ぬばたまの 黒髪敷きて
長き日を 待ちかも恋ひむ
愛しき妻らは 万4331
*筑紫は防衛拠点なので、男たちは親元や妻と別れて防人の務めを果たす。妻は長い務めが終わって帰って来るのを待っている。
ますらをの靱(ゆき)取り負ひて出て行けば 別れを惜しみ嘆きけむ妻 万4332
*一家の主人が武具を背負って家を出て行くと、別れを惜しんで妻が嘆いていることでしょう。
鶏が鳴く東壮士の妻別れ 悲しくありけむ年の緒長み 万4333
右は、二月の八日、兵部少輔大伴宿禰家持。
*東国の男子が任地に赴くために妻と別れるのは悲しいことでしょう、別れの期間が長いだけに。
【似顔絵サロン】物部 古麻呂 もののべ の こまろ ? - ? 奈良時代の防人。遠江国長下郡の出身。755年、防人として筑紫に派遣。我が妻も絵に描き取らむ 暇もが旅行く我は見つつ偲はむ 万4327
〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20
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