万葉集巻第二十4398-4400番歌(海原に霞たなびき)~アルケーを知りたい(1645)
▼今回も家持の防人の歌のインテルメッツオ。防人の歌は全部で九十何首かある。4398番の長歌は防人の歌の全体の調子をうまくまとめているように思ふ。
・そもそもが大君の命で始まる話なので、畏まって従います、という姿勢。
・とはいえ家族との別れは辛く寂しい。
・だから益荒男の心を奮い起こして出発する。
・中継地の難波津までの道中、家を思い出すと背負う武具が鳴る。
続く4399番と4400番は長歌を要約した格好の反歌。
そもそもなぜ関東から筑紫まで防人になって数年を過ごさねばならないのか。それは防衛のため。おかげで今がある。
防人が情のために思ひを陳べて作る歌一首 幷せて短歌
大君の 命畏み
妻別れ 悲しくはあれど
ますらをの 心振り起し
取り装ひ 門出をすれば
たらちねの 母掻き撫で
若草の 妻取り付き
平らけく 我れは斎はむ
ま幸くて 早帰り来と
真袖もち 涙を拭ひ
むせひつつ 言どひすれば
群鳥の 出で立ちかてに
とどこほり かへり見しつつ
いや遠に 国を來離れ
いや高に 山を越え過ぎ
葦が散る 難波に来居て
夕潮に 船を浮けすゑ
朝なぎに 舳向け漕がむと
さもらふと 我が居る時に
春霞 島廻に立ちて
鶴が音の 悲しく聞けば
はろはろに 家を思ひ出
負ひ征矢の そよと鳴るまで
嘆きつるかも 万4398
*大君のご命令なので妻と別れるのは辛くはあるけれども益荒男の気持ちを奮い起こして武具を身に付けて家を出る。(中略)家を思い出しては背負った矢が音を立てるほど悲し身を嘆くのだ。
海原に霞たなびき鶴が音の 悲しき宵は国辺し思ほゆ 万4399
*海原に霞がたなびき、鶴の鳴き声が悲し気に聞こえる宵は、故郷を思い出します。
家思ふと寐を寝ず居れば鶴が鳴く 葦辺も見えず春の霞に 万4400
右は、十九日に兵部少輔大伴家持作る。
*家を恋しく思って寝るに寝られないいると鶴の鳴き声が聞こえてくる。春霞のために鶴がいる葦辺は見えないが。
【似顔絵サロン】大伴 家持 おおともの やかもち 718養老2年 - 785延暦4年10月5日 公卿・歌人。百人一首6:かささぎの渡せる橋に置く霜の 白きを見れば夜ぞふけにける
〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20
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