万葉集巻第九1717‐1719番歌(照る月を雲な隠しそ)~アルケーを知りたい(1416)
▼今回は、不在を詠った三首。川でしっかり仕事をした・・・けれども濡れた服を乾かしてくれる人がいない、と詠う1717番。寂しさが伝わる。声をかけあって舟を進めていた船頭たちの声が聞こえなくなった、どこかの港に着いた、と詠う1718番。ここにはもう船頭の声も舟の姿もない静けさが伝わる。照る月を雲よ隠さないで、と詠う1719番。月の光の足らなさが伝わる。
春日が歌一首
三川の淵瀬もおちず小網さすに 衣手濡れぬ干す子はなしに 万1717
*三川の淵にも瀬にもしっかり網を張ったので服の袖が濡れてしまった。けれど乾かしてくれる人はいない。
高市が歌一首
率ひて漕ぎ去にし船は高島の 安曇の港に泊てにけむかも 万1718
*声を掛け合って漕ぎ去っていった舟。今頃は高島の安曇港に停泊していることだろう。
春日蔵が歌一首
照る月を雲な隠しそ島蔭に 我が舟泊てむ泊り知らずも 万1719
右の一首は、或本には「小弁が作」といふ。
或いは姓氏を記せれど名字を記すことなく、或いは名号を稱へれど姓氏を稱はず。
しかれども、古記によりてすなはち次をもちて載す。
すべてかくのごとき類は、下みなこれに倣へ。
*雲よ、照っている月を隠さないでおくれ。私の舟が島のどこに泊まれば良いか分からないから。
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高市 黒人 たけち の くろひと ? - ? 持統・文武両朝の官人・歌人。
小弁 しょうべん ? - ? 万葉の歌人。万1719 太政官の左右小弁の職にあった者。
〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=9
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