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万葉集巻第十2210-2214番歌(このころの暁露にわがやどの)~アルケーを知りたい(1475)

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▼秋を詠うのに大事な要素は、場所と固有名詞と動詞ではなかろうか、と思わせる四首。場所は、川・山。固有名詞は、明日香川、葛城山、三笠山、竜田山。ここに(木の葉が)散る、(山や萩原が)色づく、と来る。これらの役者が5-7-5-7-7のリズムで並んで完成。 明日香川黄葉流る葛城の 山の木の葉は今し散るらし  万2210 *明日香川に黄葉が流れています。葛城山の木の葉が散っているのでしょう。 雁がねの寒く鳴きしゆ春日なる 御笠の山は色づきにけり  万2212 *雁が寒々と鳴いています。春日の御笠山が色づきました。 このころの暁露にわがやどの 秋の萩原色づきにけり  万2213 *この頃の暁の露のおかげで我が家の秋の萩原が色づきました。 夕されば雁の越え行く竜田山 しぐれに競ひ色づきにけり  万214 *夕方に雁が越えている竜田山は時雨と競うように色づきました。 【似顔絵サロン】万葉集の編集人、大伴家持(718-785)の人脈: 孝謙天皇  こうけんてんのう 718 - 770 第46代天皇(749 - 758)、重祚して称徳天皇 しょうとくてんのう 第48代天皇(764 - 770) 道鏡を法王にした。755年、家持(37)は、兵部省の次官として難波で防人と出会う。『万葉集』の防人の歌を集めるきっかけになる。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2206-2209番歌(我がやどの浅茅色づく)~アルケーを知りたい(1474)

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▼今回の四首のうち三首は地名が詠みこまれている。2206番の 南淵山は 奈良県の明日香村にある山の名前、2207番の 吉隠の 夏身は 奈良県の桜井市にある場所の名前、2208番の 水茎の丘は高知県と滋賀県にある場所の名前。四首とも季節は秋。 まそ鏡南淵山は今日もかも 白露置きて黄葉散るらむ  万2206 *南淵山は今日あたり白露が降りて黄葉が散っているでしょう。 我がやどの浅茅色づく吉隠の 夏身の上にしぐれ降るらし  万2207 *我が家の浅茅が色づきました。吉隠の夏身の上にも時雨が降っているらしい。 雁がねの寒く鳴きしゆ水茎の 岡の葛葉は色づきにけり  万2208 *雁が寒々と鳴いています。水茎の岡の葛葉が色づいています。 秋萩の下葉の黄葉花に継ぎ 時過ぎ行かば後恋ひむかも  万2209 *花に続いて秋萩の下葉が色づいています。これもまた後から恋しくなるのでしょう。 【似顔絵サロン】万葉集の編集人、大伴家持(718-785)の人脈: 聖武天皇  しょうむてんのう 701 - 756 第45代天皇(724-749)。父親は文武天皇、母親は藤原不比等の娘・宮子。740年、藤原広嗣の乱の平定を祈願する 聖武天皇の 伊勢行幸に家持(22)が随行。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2202-2205番歌(秋風の日に異に吹けば)~アルケーを知りたい(1473)

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▼万葉時代の人は、霜や露に秋を感じ、風にそよぐ葉や紅葉で秋の深まりを見ていたって感じ。季節の変化を味わっていた感度の高さが勉強になります。 黄葉する時になるらし月人の 桂の枝の色づく見れば  万2202 *黄葉の時期になるらしい。お月様の桂の木が色づくのを見ると。 里ゆ異に霜は置くらし高松の 野山づかさの色づく見れば  万2203 *里と違って霜がよく降りるらしい。高松の野山の色づきぶりを見ると。 秋風の日に異に吹けば露を重み 萩の下葉は色づきにけり  万2204 *秋風がいつもより強く吹いています。露をたっぷり浴びた萩の下葉が色づいています。 秋萩の下葉もみちぬあらたまの 月の経ぬれば風をいたみかも  万2205 *秋萩の下葉が色づきました。月が改まって風が強くなってきたからでしょう。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の間接的な関係者: 大伴 古麻呂  おおとも の こまろ ? - 757 奈良時代の貴族。大伴継人の父。橘奈良麻呂の乱に連座。杖で打たれる拷問で刑死。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2198-2201番歌(物思ふと隠らひ居りて)~アルケーを知りたい(1472)

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▼2199番は孤独の時間の後、外を見ると紅葉している、という歌。どれくらいの時間を経たのかは分からない。けれど、外を見ると山が色づいているのに気が付く。物思いの時間の後で頭が静かになったのだろう。良き。 風吹けば黄葉散りつつすくなくも 吾の松原清くあらなくに  万2198 *風が吹くと黄葉が散ります。吾の松原の風景の清らかさと言ったら・・・ 物思ふと隠らひ居りて今日見れば 春日の山は色づきにけり  万2199 *物思いに耽るため一人になっています。今日外を見ると春日山が色づいています。 九月の白露負ひてあしひきの 山のもみたむ見まくしもよし  万2200 *九月の白露が降りて山が色づく様子が見られるのは結構なこと。 妹がりと馬に鞍置きて生駒山 うち越え来れば黄葉散りつつ  万2201 *妻の待つ家に帰ろうと馬に乗って生駒山を越えていると黄葉が散っています。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の間接的な関係者: 審祥  しんじょう ? - ? 奈良時代の華厳宗の僧。良弁とともに華厳宗の基礎を築いた。740年、良弁が金鐘寺で始めた華厳経の講説で3年間講師を務めた。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2194 - 2197番歌(しぐれの雨間なくし降れば)~アルケーを知りたい(1471)

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▼紅葉の歌4首。若葉の薄緑、太陽を浴びるうちに濃い緑、そして秋の紅葉、落葉。若葉の季節の今、紅葉の歌を眺めるのも味わいあり。 雁がねの来鳴きしなへに韓衣 竜田の山はもみちそめたり  万2194 *雁が来て鳴くタイミングで竜田山が紅葉しています。 雁がねの声聞くなへに明日よりは 春日の山はもみちそめなむ  万2195 *雁の鳴き声を聞いたので明日からは春日山は紅葉ですね。 しぐれの雨間なくし降れば 真木の葉も争ひかねて色づきにけり  万2196 *時雨が降り続けるので、真木の葉も我慢しきれず色づいています。 いちしろくしぐれの雨は降らなくに 大城の山は色づきにけり   「大城」といふは筑前の国の御笠の都の大野山の頂にあり、号けて「大城」といふ  万2197 *時雨がそれほど降ったわけでもないのに大城山は色づいています。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の間接的な関係者: 良弁  りょうべん 689 - 774 奈良時代の華厳宗の僧。東大寺の初代別当。聖武天皇の看病禅師。死去前、親王禅師(早良親王)に後事を託した。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2190‐2193番歌(秋風の日に異に吹けば)~アルケーを知りたい(1470)

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▼2190番は、身近な変化から、遠隔地の様子を想像する歌。2191番は、鳥の鳴き声から季節の変化を感じている歌。2192番は、布地の白さと紅葉を対比させている歌。2193番は、風の吹き方と季節の変化をつないだ歌。いずれも 作者が 何かと何かを結合させて世界観を表現している。これもひとつの新結合、イノベーションだ。 我が門の浅茅色づく吉隠の 浪柴の野の黄葉散るらし  万2190 *我が家の浅茅が色づいたので、吉隠の浪柴の野では黄葉が散っているでしょう。 雁が音を聞きつるなへに高松の 野の上の草ぞ色づきにける  万2191 *雁の鳴き声を聞きました。高松の野原の草が色づいています。 我が背子が白栲衣行き触れば にほひぬべくももみつ山かも  万2192 *私の夫が白栲の服で行って触れただけで色移りしそうに紅葉した山です。 秋風の日に異に吹けば 水茎の岡の木の葉も色づきにけり  万2193 *秋風が日に日に強まるので、水茎岡の木の葉も紅葉しました。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の間接的な関係者: 善珠  ぜんじゅ 723 - 797 奈良時代から平安時代前期の僧。事件後、早良親王の使者に「前世の残業が災いを齎しているので、此生は怨みを抱かぬように」と諭した。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2186‐2189番歌(秋されば置く白露に)~アルケーを知りたい(1469)

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▼万葉時代の人はすぐ枝を折ってはかんざしにしていた。当時も樹木を育てる人からは困ったものだと思われていたようだ。今は折り取らず、目出度い意匠の缶バッチを付ければよい。この雨で にほふ桜花の散らまく惜しも と思ふ。 秋されば置く白露に我が門の 浅茅が末葉色づきにけり  万2186 *秋になり白露が降りるようになりました。我が家の門の浅茅の葉っぱも色づきました。 妹が袖巻来の山の朝露に にほふ黄葉の散らまく惜しも  万2187 *巻来山の朝露で色づいた黄葉が散るのが惜しい。 黄葉のにほひは繁ししかれども 妻梨の木を手折りかざさむ  万2188 *黄葉は色とりどりだ。でも妻のない私は妻梨の木を手折ってかんざしにします。 露霜の寒き夕の秋風に もみちにけらし妻梨の木は  万2189 *露霜が降りる寒い夕方の秋風に紅葉したらしい妻梨の木は。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の間接的な関係者: 小野 竹良 /都久良 おの の つくら ? - 769 奈良時代の貴族。764年の藤原仲麻呂の乱では孝謙上皇側。藤原家依と同じ時期に昇叙。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10