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万葉集巻第十1874‐1877番歌(春されば木の暗多み夕月夜)~アルケーを知りたい(1442)

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▼春の月を詠んだ3つの歌と雨を詠んだ歌ひとつ。言葉は万葉時代の言葉なので古いのはもちろんだけど、詠ってる対象や心情は今も同じだなーと思ふ。1877番とか、仕事帰りにすぐどこかにひっかかって帰りが遅くなる男の言い訳のようで親しみが湧く。  月を詠む 春霞たなびく今日の夕月夜 清く照るらむ高松の野に  万1874 *春霞がたなびく今日の夕月夜。高松の野に清く照ることでしょう。 春されば木の暗多み夕月夜 おほつかなしも山蔭にして   一には「 春されば木蔭を多み夕月夜 」といふ  万1875 *春になったので木の葉が茂って夕月夜でも見通しがきき難い山蔭です。 朝霞春日の暮は木の間より 移ろふ月をいつとか待たむ  万1876 *朝霞が漂う春の日の夕方。木の間を動く月がいつごろ現れるのか待つことにしましょう。  雨を詠む 春の雨にありけるものを立ち隠り 妹が家道にこの日暮らしつ  万1877 *春雨だから濡れても良いのに、妻が待つ家にすぐ帰らずに、ちょっと雨宿りしたつもりが一日を過ごしてしまいました。 【似顔絵サロン】740年、ポスト藤原広嗣の乱の人々: 淳仁天皇  じゅんにんてんのう 733 - 765 第47代天皇。天武天皇の孫。藤原 仲麻呂  ふじわら の なかまろ / 恵美押勝 706 - 764 奈良時代の公卿。藤原武智麻呂の次男。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1870‐1873番歌(春雨はいたくな降りそ)~アルケーを知りたい(1441)

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▼ 春雨よ降れ と思ふ。 山火事には春雨でも雪でも降って鎮火すると良いと願う。 春雨はいたくな降りそ桜花 いまだ見なくに散らまく惜しも  万1870 *春雨よ、あまり降らないでもらえないか。桜の花が見ないうちに散ってしまうのが惜しいから。 春されば散らまく惜しき梅の花 しましは咲かずふふみてもがも  万1871 *春になると散るのが惜しい梅の花。しばらく咲かずに蕾のままであってよいのに。 見わたせば春日の野辺に霞立ち 咲ききほへるは桜花かも  万1872 *春日の野原を見わたすと、霞が立っています、その中で花を咲かせているのは桜のようですね。 いつしかもこの夜の明けむうぐひすの 木伝ひ散らす梅の花見む  万1873 *いつになったらこの夜が明けるのでしょう。ウグイスが木を伝うときに散る梅の花を見たいのに。 【似顔絵サロン】740年、ポスト藤原広嗣の乱の人々: 孝謙天皇  こうけんてんのう 718 - 770 父親である聖武天皇の譲位で749年、第46代天皇に即位。藤原仲麻呂が勢力を伸ばす。758年、淳仁天皇に譲位し太上天皇。道鏡に肩入れ。764年、淳仁天皇を島流しに処し藤原仲麻呂を処刑し、第48代天皇として重祚。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1866‐1869番歌(かはづ鳴く吉野の川の)~アルケーを知りたい(1440)

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▼今回も春の花の歌四首。うち二つには音響効果がある。ひとつは雉、もうひとつはカエル。花が咲いている風景に鳴き声が聞こえると感興がいっそう刺激されることでしょう。わかる気がするわー。 雉鳴く高円の辺に桜花 散りて流らふ見む人もがも  万1866 *雉の鳴き声が聞こえる高円のあたり。桜の花が散って流れています。一緒に眺める人がいたら良いのに。 阿保山の桜の花は今日もかも 散り乱ふらむ見る人なしに  万1867 *阿保山の桜の花は今日も散り乱れているのでしょう、見る人もいないというのに。 かはづ鳴く吉野の川の滝の上の 馬酔木の花ぞはしに置くなゆめ  万1868 *カエルが鳴く吉野川の滝の上の馬酔木の花です、これは。粗末にしないでくださいね、けっして。 春雨に争ひかねて我がやどの 桜の花は咲きそめにけり  万1869 *春の雨と争っていたようだけど、私の家の桜の花が咲き始めました。 【似顔絵サロン】740年、ポスト藤原広嗣の乱の人々: 鑑真  がんじん 688 - 763 奈良時代の僧人。754年、来日し、平城京に到着。広嗣の乱の後、民心安定のため仏教に力を入れていた聖武上皇が歓迎。東大寺に住み、唐招提寺を建立。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1862‐1865番歌(雪見ればいまだ冬なり)~アルケーを知りたい(1439)

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▼今回の1862番は、冬と春が同居している風景の歌。1864番は春雨の歌。今日は天気が良いけど、来週は雨になりそうなので、この歌の風景になるのだろう。で、1865番のように、春になったなあ、という季節感を感じるのだろう・・・今月の終わりくらいだろうか。 雪見ればいまだ冬なりしかすがに 春霞立ち梅は散りつつ  万1862 *雪を見るとまだ冬だなと思うけれども、春霞が立って梅の花は散っています。 昨年咲きし久木今咲くいたづらに 地にか落ちむ見む人なしに  万1863 *昨年花を咲かせた久木が今頃花を咲かせて散っています。見る人もいないというのに。 あしひきの山の際照らす桜花 この春雨に散りゆかむかも  万1864 *山の際を照らすように咲いている桜の花。この春雨で散ってしまうのでしょう。 うち靡く春さり来らし山の際の 遠き木末の咲きゆく見れば  万1865 *草が風に靡く春の季節がやって来たようです。遠くの山際の木末に花が咲き始めているのを見ると。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 玄昉  げんぼう ? - 746 奈良時代の僧。717年、阿倍仲麻呂、吉備真備らと遣唐使に同行して長安に留学した学問僧。735年に帰国、吉備真備と共に橘諸兄を補佐。この体制に反発した藤原広嗣が乱を起こした。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1858‐1861番歌(馬並めて多賀の山辺を)~アルケーを知りたい(1438)

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▼花をめでる歌四首。1859番は大好きなフレーズ「馬並めて」があるので、それだけで嬉しくなる。1861番は、山の花の輝きが川の水底まで照らし出す、と詠う。言葉で風景を描けるものなのだなあ。 うつたへに鳥は食まねど繩延へて 守らまく欲しき梅の花かも  万1858 *鳥が食べちゃうわけではないけど、繩を張って守りたくなる梅の花です。 馬並めて多賀の山辺を白栲に にほほしたるは梅の花かも  万1859 *馬を並べて多賀の山辺に出かけると、梅の花が山を白く染めています。 花咲きて実はならねども長き日に 思ほゆるかも山吹の花  万1860 *花は咲くけど実は生らない山吹の花。咲くまでにかかる日数は長い。 能登川の水底さへに照るまでに 御笠の山は咲きにけるかも  万1861 *能登川の水底まで明るく照らし出すように御笠山の花が咲き誇っています。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 吉備 真備  きび の まきび 695 - 775 奈良時代の公卿・学者。717年から阿倍仲麻呂、玄昉ら遣唐使に同行して唐の長安に留学。735年に帰国、玄昉と共に橘諸兄を補佐。この体制に反発した藤原広嗣が乱を起こした。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1854‐1857番歌(うぐひすの木伝ふ梅の)~アルケーを知りたい(1437)

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▼今回の4首の並びを見ると、なんだかうまいこと起承転結になっている印象。和歌を並べるとストーリーになる発見!  花を詠む うぐひすの木伝ふ梅のうつろへば 桜の花の時かたまけぬ  万1854 *ウグイスが枝を伝う梅の花が終わると、桜の花の出番です。 桜花時は過ぎねど見る人の 恋ふる盛りと今は散るらむ  万1855 *桜の花はまだ満開ではないけれど、見る人のために今が盛りというように散ってくれるのだ。 我がかざす柳の糸を吹き乱る 風にか妹が梅の散るらむ  万1856 *私が簪にしている柳の葉が風でひらひらするように、妻の梅の花も散るのだろう。 年のはに梅は咲けどもうつせみの 世の人我れし春なかりけり  万1857 *毎年、梅は咲く。けれども、この世で生きる私に花が咲く春はない。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 聖武天皇  しょうむてんのう 701 - 756 第45代天皇。父親は文武天皇、母親は藤原不比等の娘・宮子。藤原広嗣が、政権を批判して乱を起こすも取り合わず。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1850‐1853番歌(朝な朝な我が見る柳)~アルケーを知りたい(1436)

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▼1850番は作者が柳に呼びかけている歌なので、考えて見ると変なのだが、気持ちは分かる。人以外のものにも声をかけてコミュニケーションを取りたくなるのは今も昔も変わらないのだ。 朝な朝な我が見る柳うぐひすの 来居て鳴くべく茂に早なれ  万1850 *毎朝眺めている柳よ、ウグイスが来て鳴くよう早く茂ってくれ。 青柳の糸のくはしき春風に 乱れぬい間に見せむ子もがも  万1851 *青柳の細い枝が糸のよう。春の風で乱れてしまう前に一緒に見る人がいたら良いのにな。 ももしきの大宮人のかづらける しだり柳は見れど飽かぬかも  万1852 *大宮人が髪飾りにするしだれ柳は、いくら見ても飽きません。 梅の花取り持ち見れば我がやどの 柳の眉し思ほゆるかも  万1853 *梅の花を折り取ってしげしげと眺めると、我が家の柳の眉のような葉っぱを連想しました。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 橘 諸兄  たちばな の もろえ 684 - 757 奈良時代の皇族・公卿。大伴家持と親交、『万葉集』に8首。藤原四兄弟死去の後、吉備真備と玄昉が補佐。反発した藤原広嗣が乱を起こした。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10