万葉集巻第十八4106-4110番歌(紅はうつろふものぞ)~アルケーを知りたい(1544)

▼家持が部下の尾張少咋(をはりのおくひ)を「教え諭す」歌。そんなことであらあら、その姿は私まで恥ずかしくなる、さあどうなることか、という家持の合いの手が可笑しい。

【似顔絵サロン】尾張 少咋 おわり の おくい ? - ? 奈良時代の官吏。 越中の史生。大伴家持の部下。妻を顧みず遊行女婦の左夫流子に入れ上げた。家持が諭す歌を作った。万4106~4110















 史生尾張少咋を教え喩す歌一首 幷せて短歌
七出例に云はく、
「ただし、一条を犯さば、すなはち出だすべし。
七出なくして輙く棄つる者は、徒一年半」といふ。
「七出を犯すとも、棄つべくあらず。
違ふ者は杖一百。
ただし奸を犯したると悪疾とは棄つること得」といふ。
両妻例に云はく、
「妻有りてさらに娶る者は徒一年、女家は杖一百にして離て」といふ。
詔書に云はく、
「義夫節婦を愍み賜ふ」とのりたまふ。
謹みて案ふるに、先の件の数条は、法を建つる基にして、道を化ふる源なり。
しかればすなはち、義夫の道は情存して別なく、一家財を同じくす。
あに旧きを忘れ新しきを愛しぶる志あらめや。
ゆゑに数行の歌を綴り作し、旧きを棄つる惑ひを悔いしむ。
その詞に曰はく
大汝少彦名の 神代より
言ひ継ぎけらく 父母を
見れば貴く 妻子見れば
愛しくめぐし うつせみの
世のことわりと かくさまに
言ひけるものを 世の人の
立つる言立て ちさの花
咲ける盛りに はしきよし
その妻の子と 朝夕に
笑みみ笑まずも うち嘆き
神言寄せて 春花の
盛りもあらむと 待たしけむ
時の盛りぞ 離れ居て
嘆かす妹が いつしかも
使の来むと 待たすらむ
心寂しく 南風吹き
雪消溢りて 射水川
流る水沫の 寄るへなみ
左夫流その子に 紐の緒の
いつがり合ひて にほ鳥の
ふたり並ぎ居 奈呉の海の
奥を深めて さどはせる
君が心の すべもすべなさ 左夫流と言ふは遊行女婦が字なり 万4106
血迷ったのだろう、、、貴方の心はどうしようもないなあ。

 反歌三首
あをによし奈良にある妹が高々に 待つらむ心しかにはあらじか 万4107
*奈良にいる妻がつま先で立って遠くを見て夫の帰りを待つ、そんないじらしい気持ちが妻の心である。

里人の見る目恥づかし左夫流子に さどはす君が宮出後姿 万4108
*世間の見る目が恥ずかしくないのか。左夫流子に逢うため役所をいそいそと出る貴方の後ろ姿を見る世間の目が。

紅はうつろふものぞ橡の なれにし衣になほしかめやも 万4109
 右は、五月の十五日に、守大伴宿禰家持作る。
*盛りの紅は移ろって褪せるものなのだよ、橡の着慣れた服に及ぶものではないのだ。

 先妻、夫君の喚ぶ使を待たずして自ら来る時に、作る歌一首。
左夫流子が斎きし殿に鈴懸けぬ 駅馬下れり里もとどろに 万4110
 同じき月の十七日に、大伴宿禰家持作る。
*左夫流子がいる屋敷に妻が馬で駆けつけてきたぞ、そりゃもう町中大騒ぎ。

〔参考〕
伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。
https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=18

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