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大伴家持の万葉集3965-3966番歌~アルケーを知りたい(1226)

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▼体調不良から立ち直ったもののまだ本調子ではない家持が、友人の池主に贈った歌。長めの前書きのおかげで家持がどういう状況なのかが伝わる。 ▼梅の花が咲いている枝を手折って頭につけるのは、植物の生命エネルギーに預かりたいことから、という。手折る力がない、取り戻したい、と詠う家持。  守大伴宿禰家持、掾大伴宿禰池主に贈る悲歌二首 たちまちに枉疾に沈み、累旬痛み苦しむ。 百神を禱ひ恃み、かつ消損すること得たり。 しかれども、なほし身体疼羸、筋力怯軟なり。 いまだ展謝に堪へず、係恋いよいよ深し。 今し、春朝の春花、馥ひを春苑に流し、春暮の春鶯、声を春林に囀る。 この節候に対ひ、琴罇翫ぶべし。 興に乗る感ありといへども、杖を策く労に耐へず。 独り帷幄の裏に臥して、いささかに寸分の歌を作る。 軽しく机下に奉り、玉頤を解かむことを犯す。 その詞に曰はく、 春の花今は盛りににほふらむ 折りてかざさむ手力もがも  万3965 *春の花が今は盛りと匂っています。手折ってかんざしにできる力が残っていればなあ・・・と思います。 うぐひすの鳴き散らすらむ春の花 いつしか君と手折りかざさむ  万3966 *ウグイスが鳴いては花を散らす春の季節、いつかあなた様と枝を手折りかんざしにしたいものです。  二月の二十九日、大伴宿禰家持。 【似顔絵サロン】大伴家持(718-785)の同時代人。10歳年上。 李 光弼  り こうひつ 708年 - 764年8月15日 唐代の部将。安禄山の乱の鎮圧に貢献。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_utabito&dataId=174 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%BC%B4%E5%AE%B6%E6%8C%81 https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/yakamot2.html

大伴家持の万葉集3960-3961番歌~アルケーを知りたい(1225)

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▼家持が友達の 大伴池主との再会を喜ぶ歌。庭に雪が降りはじめどんどん積もる。宿からは海が見えて、漁夫の舟が浮かんでいる様子が眺められる。お酒、詩作、琴の用意も整っている。詩酒の宴、弾糸飲楽。最高のシチュエーション。 ▼11年後の757年、藤原仲麻呂の打倒を目指す 橘奈良麻呂の乱が起る。このとき打倒側に加わった池主は捉えられ獄死。  相歓ぶる歌二首 越中守大伴宿禰家持作る 庭に降る雪は千重敷くしかのみに 思ひて君を我が待たなくに  万3960 *庭に降る雪が千重にも積もっています。それ以上に私はあなた様をお待ちしていました。 白波の寄する磯廻を漕ぐ舟の 楫取る間なく思ほえし君  万3961 *白波が立つ磯のあたりを漕ぎ進む舟の楫取りと同じくあなた様をしょっちゅう思い出しておりました。  右は、天平十八年の八月をもちて掾大伴宿禰 池主 、大帳使に付きて、京師に赴き向ふ。 しかして同じ年の十一月に、本任に還り至りぬ。 よりて、詩酒の宴を設け、弾糸飲楽す。 この日、白雪たちまちに降り、地に積むこと尺余。 この時に、また漁夫の舟、海に入り、瀾に浮けり。 ここに、守大伴宿禰家持、情を二眺に寄せ、いささかに所心を裁る。 【似顔絵サロン】大伴家持(718-785)の同時代人。9歳年上。 光仁天皇  こうにんてんのう 709 - 782 第49代天皇。天智天皇の孫。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_utabito&dataId=174 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%BC%B4%E5%AE%B6%E6%8C%81 https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/yakamot2.html

大伴家持の万葉集3957-3959番歌~アルケーを知りたい(1224)

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▼家持が弟の書持の逝去を悲しむ歌。遠方に出かける自分を見送ってくれた元気な弟。その弟の 使者が来たので、どんなニュースが届いたのかなと喜んでいると、内容は出まかせの嘘か 「 およづれの たはこと 」 と思わせるもの 。一転して悲しみに。その心情を詠う。短歌では、弟は今は雲になってたなびいているのか、とか、弟に荒磯の波を見せてやりたかったと詠う。  長逝せる弟を哀傷しぶる歌一首  幷せて短歌 天離る 鄙治めにと  大君の 任けのまにまに  出でて来し 我れを送ると  あをによし 奈良山過ぎて  泉川 清き河原に  馬留め 別れし時に  ま幸くて 我れ帰り来む  平らけく 斎ひて待てと  語らひて 来し日の極み  玉桙の 道をた遠み  山川の へなりてあれば  恋しけく 日長きものを  見まく欲り 思ふ間に  玉梓の 使の来れば  嬉しみと 我が待ち問ふに  およづれの たはこととかも   はしきよし 汝弟の命  なにしかも 時しはあらむを  はだすすき 穂に出づる秋の  萩の花 にほへるやどを <言ふこころは、この人ひととなり、花草花樹を好愛(め)でて多(さは)に寝院の庭に植ゑたり。ゆゑに「花にほへる庭(やど)」といふ> 朝庭に 出て立ち平し  夕庭に 踏み平げず  佐保の内の 里を行き過ぎ  あしひきの 山の木末に  白雲に 立ちたなびくと  我れにつげつる <佐保山に火葬す。ゆゑに「佐保の内の里を行き過ぎ」といふ>  万3957 ま幸くと言ひしものを白雲に 立ちたなびくと聞けば悲しも  万3958 *無事に過ごしなさいよと言っていたのに、白雲になってたなびいていると聞く。何と悲しいことか。 かからむとかねて知りせば越の海の 荒磯の波も見せましものを  万3959 *こんなことになると分かっていたら、越中の海の荒磯の波を見せてやったのに。  右は、天平十八年の秋の九月の二十五日に、越中守大伴宿禰家持、遥かに弟の喪を聞き、感傷しびて作る。 【似顔絵サロン】大伴家持(718-785)の同時代人。9歳年上。 顔 真卿  がん しんけい 709 - 785 唐代の政治家・書家。中国史で屈指の忠臣。唐代随一の学者・芸術家。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?c

大伴家持の万葉集3922-3926番歌~アルケーを知りたい(1223)

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▼今回は746年の正月、雪が降る日に橘諸兄ら朝廷の重鎮が 太上天皇 ( 元正天皇 ) の邸宅に雪を掃きに集合する。そのとき、酒が供され、一同で宴会を開き、参加者が次々に歌を詠んだ。トップバッターが橘諸兄、8番が家持。 ▼二次会もあって、そのときの歌は記録がないけれど、トップバッターは藤原豊成。  天平十八年の正月に、白雪多に零り、地に積むこと数寸なり。 時に、左大臣 橘 (諸兄) 卿、大納言 藤原豊成 朝臣また諸王諸臣たちを率て、太上天皇の御在所 <中宮の西院> に参入り、仕へまつりて雪を掃く。 ここに詔を降し、大臣参議幷せて諸王は、大殿の上に侍はしめ、諸卿大夫は、南の細殿に侍はしめて、すなはち酒を賜ひ肆宴 (とよのあかり) したまふ。 勅して曰はく、「 汝ら諸王卿たち、いささかにこの雪を賦して、おのおのもその歌を奏せ 」とのりたまふ。  左大臣 橘 宿禰、詔に応ふる歌一首 降る雪の白髪までに大君に 仕へまつれば貴くもあるか  万3922 *ここ降る雪のような白髪になるまで大君に使えることができれば貴いことであります。  紀朝臣清人、詔に応ふる歌一首 天の下すでに覆ひて降る雪の 光りを見れば貴くもあるか  万3923 *天の下を覆いつくして降る雪の輝きを見ることができるのは貴いことであります。  紀朝臣男梶、詔に応ふる歌一首 山の峡そことも見えず一昨日も 昨日も今日も雪の降れれば  万3924 *一昨日も昨日も今日も雪が降っていますので、山峡が見えないほどです。  葛井連諸会詔に応ふる歌一首 新しき年の初めに豊の年 しるすとならし雪の降れるは  万3925 *新しい年の初めに雪が降るのは、今年が豊年の印となるでしょう。  大伴宿禰家持、詔に応ふる歌一首 大宮の内にも外にも光るまで 降らす白雪見れど飽かぬかも  万3926 *大宮の内も外も輝くばかりに明るく照らす白雪はいくら見ても飽きません。   藤原豊成 朝臣、巨勢奈弖麻呂朝臣、大伴牛養宿禰、藤原仲麻呂朝臣、三原王、智奴王、船王、邑知王、小田王、林王、穂積朝臣老、小田朝臣諸人、小野朝臣綱手、高橋朝臣国足、太朝臣徳太理、高丘連 河内、秦忌寸朝元、楢原造東人  右の件の王卿等、詔に応へて歌を作り、次によりて奏す。 その時に記さずして、その歌漏り失せたり。 ただし、秦忌寸朝元は、左大臣橘卿謔れて云はく、「歌を賦するに堪へ

大伴家持の万葉集3916-3921番歌~アルケーを知りたい(1222)

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▼家持はホトトギスの歌をたくさん作っている。読むと、へえ、ホトトギスかあ、と思う。思ったとたん、ホトトギスを介して 家持 と 読者 のコミュニケーションが成り立つ。すごいね。  十六年の四月の五日に、独り平城の故宅に居りて作る歌六首 橘のにほへる香かもほととぎす 鳴く夜の雨にうつろひぬらむ  万1916 *橘の花の香りがホトトギスが鳴く夜の雨のせいで薄らいでいくようだ。 ほととぎす夜声なつかし網ささば 花は過ぐとも離れずか鳴かむ  万3917 *ホトトギスが夜に鳴く声が惜しいので、網でとらえておけば花の時期が過ぎても鳴いてくれるだろうか。 橘のにほへる園にほととぎす 鳴くと人告ぐ網ささましを  万3918 *橘の花が香る庭でホトトギスが鳴いていると人が知らせてくれた。網で捕らえておくのだった。 あをによし奈良の都は古りぬれど もとほととぎす鳴かずあらなくに  万3919 *奈良の都は古びているけれど、昔から馴染みのホトトギスが鳴かないってことは決してない。 鶉鳴く古しと人は思へれど 花橘のにほふこのやど  万3920 *ウズラが鳴くこの家は古びていると人は思うかも知れないけれど、橘の花は香っています。 かきつはた衣に摺り付けますらをの 着襲ひ猟する月は来にけり  万3921  右の六首の歌は、天平十六年の四月の五日に、独り平城故郷の旧宅に居りて、大伴宿禰家持作る。 *カキツバタで染めた衣を身に付けた男たちが狩りをする月がやって来た。 【似顔絵サロン】大伴家持(718-785)の同時代人。6歳年上。 アル=マンスール  al-Mansur 712 - 775 アッバース朝の第2代カリフ。アル=マンスールは勝利者の意。バグダッドの建設者。  〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_utabito&dataId=174 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%BC%B4%E5%AE%B6%E6%8C%81 https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/yakamot2.html

大伴家持の万葉集3900、1649番歌~アルケーを知りたい(1221)

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▼3900番は、七夕の日、織女が舟に乗ったという見立ての歌。1649番は、雪降る日の梅の歌。  十年の七月の七日の夜に、独り天漢を仰ぎて、いささかに懐を述ぶる一首 織女し舟乗りすらしまそ鏡 清き月夜に雲立ちわたる  万3900   右の一首は、大伴宿禰家持作る。 *織女が舟に乗ったようです。鏡のように清い月夜に雲が湧いたところをみると。  大伴宿禰家持が雪梅の歌一首 今日降りし雪に競ひて我がやどの 冬木の梅は花咲きにけり  万1649 *今日降った雪と競うようにして私の家の冬木の梅に花が咲きました。 【似顔絵サロン】大伴家持(718-785)の同時代人。6歳年上。 杜甫  とほ 712 - 770 唐の詩人。國破れて山河在り 城春にして草木深し 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_utabito&dataId=174 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%BC%B4%E5%AE%B6%E6%8C%81 https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/yakamot2.html

大伴家持の万葉集3853-3854番歌~アルケーを知りたい(1220)

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▼ 痩せの大食いの石麻呂を 家持が からかっている歌。二人は仲が良いので、石麻呂は家持にうるさいよなどと返したのではないかと想像すると楽しい。  痩人を嗤咲ふ歌二首 石麻呂に我れ物申す夏痩せに よしといふものぞ鰻捕り喫せ  「めせ」の反なり   万3853 *石麻呂どのに私が助言しましょう。夏痩せ対策に鰻を召しあがれ。 痩す痩すも生けばあらむをはたやはた 鰻を捕ると川に流るな  万3854 *痩せてもこけても生きていれば良い。鰻を捕ろうとして川で流されないように(笑)。  右は、吉田連老、字は石麻呂といふものあり。 いはゆる仁敬が子なり。 その老、人となりて身体いたく痩せたり。 多く喫ひ飲めども、形飢饉に似たり。 これによりて、大伴宿禰家持、いささかにこの歌を作りて、もちて戯咲を為す。 【似顔絵サロン】大伴家持(718-785)の同時代人。4歳年上。 大伴 熊凝  おおとも の くまごり 714 - 731 奈良時代の地方官吏。731年に国司の従人として肥後国益城郡から上京する途上で病死。万886-891 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二、三』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_utabito&dataId=174 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%BC%B4%E5%AE%B6%E6%8C%81 https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/yakamot2.html