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万葉集巻第七1282‐1287番歌(春日すら田に立ち疲れ)~アルケーを知りたい(1360)

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▼今回の歌も雲や橋や草など自然を詠んだもの。でも表現に何かこう、別のメッセージが詠い込まれているような・・・。 はしたての倉橋山に立てる白雲 見まく欲り我がするなへに立てる白雲  万1282 *倉橋山に立つ白雲を見たいと思っていました。あのお方を偲ばせる白雲です。 はしたての倉橋川の石の橋はも 男盛りに我が渡してし石の橋はも  万1283 *倉橋川の石の橋はいまどうなっているだろうか。若い時に私が渡したあの石の橋は。 はしたての倉橋川の川のしづ菅 我が刈りて笠も編まなく川のしづ菅  万1284 *倉橋川のしず菅よ。私が刈ったものの編んで笠にしたわけでもなかった川のしづ菅。 春日すら田に立ち疲れ君は悲しも 若草の妻なき君し田に立ち疲る  万1285 *春の休みの日にも貴方様は田に出て作業にお疲れです。妻がなく独り身だから田に出て疲れるくらいしかすることがなくて 悲しいです 。 山背の久世の社の草な手折りそ 我が時と立ち栄ゆとも草な手折りそ  万1286 *山背の久世の杜の草を手折らないように。自分の勢いが良いときでも杜の草は手折らないように。 青みづら依綱の原に人も逢はぬかも 石走る近江県の物語りせむ  万1287 *依綱の原で誰か人と出会わないものか。近江の県について話をしたいのだけど。 【似顔絵サロン】同時代の乱、672年の壬申の乱の関係者: 身毛 広  むげつ の ひろ ? - ? 飛鳥時代の人物。壬申の乱で大海人皇子方のオリジナルメンバー。功臣。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7

万葉集巻第七1276‐1281番歌(君がため手力疲れ)~アルケーを知りたい(1359)

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▼今回の6首はいずれも人との関係を詠った歌。1281は、糸から布を織ってどんな色に染めようか、という内容。万葉の人は自分で布を織っていたんだ、それを染めていたんだ、と改めて思い知る。布屋とか染屋もあっただろうけど、自分でやれていたのだ。すごい。 池の辺の小槻の下の小竹な刈りそね それをだに君が形見に見つつ偲はむ  万1276 *池の岸辺の小槻の下の小竹は刈ら取らないでください。なぜなら、わが君の形見として見て偲びたいから。 天にある日売菅原の草な刈りそね 蜷の腸か黒き髪にあくたし付くも  万1277 *日売菅原の草を刈らないでください。黒い髪にホコリが付くから。 夏蔭の妻屋の下に衣裁つ我妹 うら設けて我がため裁たばやや大に裁て  万1278 *夏の日陰、妻屋で布を裁断しているわが妻よ、私のために大きめに裁断してくれ。 梓弓引津の辺にあるなのりその花 摘むまでに逢はずあらめやもなのりその花  万1279 *引津の辺りにあるなのりその花。誰か摘むまでに逢わすにおくものか、なのりその花。 うちひさす宮道を行くに我が裳は破れぬ 玉の緒の思ひ乱れて家にあらましを  万1280 *宮への道を歩いていると服の裾が破れてしまいました。こんなことなら大人しく家に居て思い乱れているほうが良かった。 君がため手力疲れ織れる衣ぞ 春さらばいかなる色に摺りてばよけむ  万1281 *貴方様のために一所懸命に織った布です。春になったらどんな色で染めましょうか。 【似顔絵サロン】同時代の乱、672年の壬申の乱の関係者: 和珥部 君手  わにべ の きみて ? - 697 飛鳥時代の人物。壬申の乱で、中大兄皇子の命を受け、村国男依、身毛広と共に美濃に先行、当地の多品治と連携し兵3千で不破道を塞いだ。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7

万葉集巻第七1270‐1275番歌(泊瀬の山に照る月は)~アルケーを知りたい(1358)

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▼1270の 寄物発思 (きぶつはつし) とは「景物に寄せて、人生全般に関する感慨を述べた歌 ( 伊藤博訳注『新版 万葉集二』p.153脚注 ) 」。 ▼ChatGPTに聞いてみると、 具体例 を二つあげた後、その心も教えてくれました。 「 ・秋の紅葉を見て、人の移り変わりや儚さを感じ、それを詩にする。 ・花の美しさや散る様子を観察し、人生の喜びと無常を表現する。 「寄物発思」は、物事を単なる存在として見るだけではなく、その中にある深い意味や象徴を感じ取ろうとする態度を反映しています。」  寄物発思 こもりくの泊瀬の山に照る月は 満ち欠けしけり人の常なき  万1270  右の一首は、古歌集に出づ。 *泊瀬山で照る月は満ち欠けして、まるで人の無常と似ています。  行路 遠くありて雲居に見ゆる妹が家 早く至らむ歩め黒駒  万1271  右の一首は、柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ。 *遠くの雲の先に見える妻の家。早く着きたいからずんずん進め、黒駒よ。  旋頭歌 太刀の後鞘に入野に葛引く我妹 真袖に着せてむとかも夏草刈るも  万1272 *入野で葛を引っ張っている我が妻よ。袖つきの服を私に着せるため勢いよく夏草を刈っているのかい。 住吉の波豆麻の君が馬乗衣 さひづらふ漢女を据ゑて縫へる衣ぞ  万1273 *住吉にいらっしゃる波豆麻の君が身に着けておられる乗馬服。これはきっと中国語を喋る女に縫製させたものでしょう。 住吉の出見の浜の柴な刈りそね 娘子らが赤裳の裾の濡れて行かむを見む  万1274 *住吉の出見の浜の柴は刈らないでおいてください。娘子らが通る時に赤裳の裾を濡らして行くのを見たいから。 住吉の小田を刈らす子奴かもなき 奴あれど妹がみために私田刈る  万1275 *草刈りのアルバイトはいないのかい? いや、いるんだけど、 妻のためだからと思って 私が自分の手で 私田を刈っているのです。 【似顔絵サロン】同時代の乱、672年の壬申の乱の関係者: 村国 志我麻呂  むらくに の しがまろ ? - ? 奈良時代の貴族。村国男依の子。壬申の乱の功臣の子息に賜田が行われた際、男依の子息として名を連ねた。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&a

万葉集巻第七1264‐1269番歌(西の市にただひとり)~アルケーを知りたい(1357)

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▼今回の6首の歌は、教訓、共感同感、心惹かれるのばかり。今も昔も同じかよ。 西の市にただひとり出でて目並べず 買ひてし絹の商じこりかも  万1264 *西の市に独りで出かけて他の商品と比べもせずに買った絹。こいつは買いそこないでしたよ。 今年行く新島守が麻衣 肩のまよひは誰か取り見む  万1265 *今年派遣される新島守が着用する麻衣。肩がほつれたら誰が繕うのでしょうね。 大船を荒海に漕ぎ出や船たけ 我が見し子らがまみはしるしも  万1266 *大型船を荒れている海に漕ぎ出しているところだけど、私が見た娘子の目もとが目に浮かびます。  就所発思 旋頭歌 ももしきの大宮人の踏みし跡ところ 沖つ波来寄らずありせば失せずあらましを  万1267  右の十七首は、古歌集に出づ。 *大宮人が砂浜に残した足跡。沖から波が寄せて来なければずっと消えないのだけれど。 子らが手を巻向山は常にあれど 過ぎにし人に行きまかめやも  万1268 *巻向山はいつもそこにあるけれど、故人のところへは尋ねて行くことはできません。 巻向の山辺響みて行く水の 水沫のごとし世の人我れは  万1269  右の二首は、柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ。 *巻向山で音を響かせて流れる川の水。その水の沫のようです、現世にいる私は。 【似顔絵サロン】同時代の乱、 壬申の乱 (672年に起きた日本最大の内乱。天智天皇の後継をめぐって天智天皇の弟・大海人皇子と天智天皇の息子・大友皇子の争い) の関係者: 村国 男依  むらくに の おより ? - 676 飛鳥時代の人物。大海人皇子側。近江国方面の諸将の筆頭として連戦連勝し、最大の功を立てた。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7

万葉集巻第七1256‐1263番歌(暁と夜烏鳴けど)~アルケーを知りたい(1356)

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▼1258番は吉田兼好が言いそうなことだなと思ふ。1263番は音を聞いて静けさを知る、みたいな感じになる。この二つの間の歌たちはつっこみどころがあって楽しめる。 黙あらじと言のなぐさに言ふことを 聞き知れらくは悪しくはありけり  万1258 *沈黙が嫌なだけで何か喋っていること、そんな人の話を耳にするのは面白くない気分です。 佐伯山卯の花持ちし愛しきが 手をし取りてば花は散るとも  万1259 *花束を持つあの可愛い娘子の手を握りたい。花が散っても。 時ならぬ斑の衣着欲しきか 島の榛原時にあらねども  万1260 *時期ではないけれど斑模様の服を着たくなりました。染料の元になる「はしばみ」が実をつける時期ではないけれど。 山守が里へ通ひし山道ぞ 茂くなりける忘れけらしも  万1261 *山守が里へ通ったという山道なんだけど、草が茂っているところを見ると忘れられた道なのかな。 あしひきの山椿咲く八つ峰越え 鹿待つ君が斎ひ妻かも  万1262 *山椿が咲く八峰を越えて鹿狩りに励む貴方様のお帰りを家でお待ちする妻でございます、私は。 暁と夜烏鳴けどこの森の 木末の上はいまだ静けし  万1263 *朝だよーと夜鳥が鳴いている。しかしこの森の木の梢はまだしんとしています。 【似顔絵サロン】同時代の乱、藤原広嗣の乱の関係者: 安倍 黒麻呂  あべ の くろまろ ? - ? 奈良時代中期の官人。阿倍虫麻呂と同族の武人。740年、藤原広嗣の乱を平定する志願兵。潜伏中の広嗣を捕縛。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7

万葉集巻第七1251‐1257番歌(月草に衣ぞ染むる)~アルケーを知りたい(1355)

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▼問答という小題がついた歌の数々。面白いものや何を言ってんだか分からんものまであって、脱力系和歌だと思ふ。最後に「ゆめ」をつけるスタイルも良いなあと思ふ。これを忘れちゃならんよゆめ、みたいな使い方。  問答 佐保川に鳴くなる千鳥何しかも 川原を偲ひいや川上る  万1251 *佐保川で鳴いている千鳥よ。何でそう嬉しそうに 川原を 上ってるのかい。 人こそばおほにも言はめ我がここだ 偲ふ川原を標結ふなゆめ  万1252  右の二首は、鳥を詠む。 *人はここを何でもない場所のように言うでしょう。でも私はここが気に入っているのです。決して縄を張って立ち入り禁止にしないでください。 楽浪の志賀津の海人は我れなしに 潜きはなせそ波立たずとも  万1253 *楽浪の志賀津の漁師よ、私がいないときには波のないコンディションの良い日でも潜らないでください、見られないと残念だから。 大船に楫しもあらなむ君なしに 潜きせめやも波立たずとも  万1254  右の二首は、海人を詠む。 *大きな船と楫があれば良いのに、と思います。でも貴方様のいらっしゃらないときには波が静かなときでも潜ったりしません。  臨時 月草に衣ぞ染むる君がため 斑の衣摺らむと思ひて  万1255 *ツユクサで衣を染める貴方様のため、斑の衣を仕立てようと思います。 春霞井の上ゆ直に道はあれど 君に逢はむとた廻り来も  万1256 *井戸までの道はまっすぐなんですけど、貴方様に逢えるかもと思って回り道しています。 道の辺の草深百合の花笑みに 笑みしがからに妻と言ふべしや  万1257 *道端の草むらで百合の蕾を見て気に入ったからといって、自分のものだと言うのはどうかと思います。 【似顔絵サロン】同時代の乱、藤原広嗣の乱の関係者: 阿倍 虫麻呂  あべ の むしまろ ? - 752年 奈良時代の貴族・歌人。740年、藤原広嗣の乱を鎮圧する官軍のリーダーの一人。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7

万葉集巻第七1244‐1250番歌(娘子らが放りの髪を)~アルケーを知りたい(1354)

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▼1244番の油布の山とは、大分県別府温泉から西方面にある、由布岳のことです。歌のとおり、麓には家屋がありまして、金鱗湖という池も、そこから流れる川もそして温泉もあります。別府に戻ると別府湾という海と海岸とヨットハーバーがあります。というわけで、同地は、今回の7首全部に因む土地・・・と見立ててもフィットするロケーションです。 娘子らが放りの髪を油布の山 雲なたなびき家のあたり見む  万1244 *娘子らの髪を結うという油布山には雲がたなびいています。麓に家屋が見えます。 志賀の海人の釣り舟の綱堪へかてに 心思ひて出でて来にけり  万1245 *志賀の漁師の釣り舟の係留ロープが波に揉まれるかのように私は後ろ髪を引かれる思いで家を出てきました。 志賀の海人の塩焼く煙風をいたみ 立ちは上らず山にたなびく  万1246  右の件の歌は、古集の中に出づ。 *志賀の漁師の塩焼きの煙が風が激しいので上に昇らず山の方へたなびいています。 大汝少御神の作らしし 妹背の山を見らくしよしも  万1247 *大汝と少御神がお作りになった妹背山を見るのは良きことかぎりない。 我妹子と見つつ偲はむ沖つ藻の 花咲きたれば我れに告げこそ  万1248 *沖の藻をわが妻と見立てて思い出しましょう。藻の花が咲いたら私にお知らせください。 君がため浮沼の池の菱摘むと 我が染めし袖濡れにけるかも  万1249 *貴方様のためにと思い浮沼池の菱を摘むと、私が自分で染めた袖が濡れてしまいました。 妹がため菅の実摘みに行きし我れ 山道に惑ひこの日暮らしつ  万1250  右の四首は、柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ。 *妻のために菅の実を摘みに山に入った私。山道に迷ってしまい、一日中過ご山で過ごしました。 【似顔絵サロン】同時代の乱、藤原広嗣の乱の関係者: 佐伯 常人  さえき の つねひと ? - ? 奈良時代の貴族。安倍虫麻呂と共に藤原広嗣の乱を鎮圧する官軍のリーダー。広嗣に10回呼びかけ降伏を説得。乱鎮圧後、昇進。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=7