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万葉集巻第十2170‐2173番歌(白露を取らば消ぬべし)~アルケーを知りたい(1465)

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▼季節は秋、時間はかなり早い朝方。萩があって、露が下りている。その風景を詠んだ歌。空気も透き通っていそう。和歌は風景画でもあります。 秋萩の枝もとををに露霜置き 寒くも時はなりにうけるかも  万2170 *秋萩の枝の元にまんべんなく露霜が降りています。寒い時期になったものです。 白露と秋の萩とは恋ひ乱れ 別くことかたき我が心かも  万2171 *白露と秋の萩はどちらも相性抜群なので分けるなんてムリ。 我がやどの尾花押しなべ置く露に 手触れ我妹子散らまくも見む  万2172 *我が家の尾花にびっしりと降りた露に妻が手を触れて散るところ見たい。 白露を取らば消ぬべしいざ子ども 露に競ひて萩の遊びせむ  万2173 *白露は取れば消えます。さあみなさん、露と競って萩で遊びましょう。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 大伴 是成  おおとも の これなり ? - ? 奈良時代から平安時代初期の貴族。799年、桓武天皇の詔で淡路国へ派遣され、早良親王の霊に謝罪した。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2166‐2169番歌(夕立の雨降るごとに)~アルケーを知りたい(1464)

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▼鳥の鳴き声が今までと違って聞こえるから季節が変わったらしいと詠う2166番。今でも、日が長くなったとか、服装が変わったとか言うけど、万葉時代は鳥の鳴き声が変わったと言っていたのだろうか。変化に敏感ですごいな。2168と2169は露の歌。露の残る草むらをズボンを濡らしながら歩いてみたくなる。  鳥を詠む 妹が手を取石の池の波の間ゆ鳥が 音異に鳴く秋過ぎぬらし  万2166 *妻の手を取るという取石の池の波間で鳴く鳥の声がこれまでと違って聞こえます。秋が過ぎたのでしょう。 秋の野の尾花が末に鳴くもずの 声聞きけむか片聞け我妹  万2167 *秋の野の尾花の末で鳴くモズの声。聞こえますか、耳を傾けてください、私の妻よ。  露を詠む 秋萩に置ける白露朝な朝な 玉としぞ見る置ける白露  万2168 *秋萩の上に降りた白露を毎朝、玉として見ていますよ、白露を。 夕立の雨降るごとに  一には「うち降れば」といふ  春日野の尾花が上の白露思ほゆ  万2169 *夕立の雨が降るごとに春日野の尾花の上の白露を思い出します。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 石川 垣守  いしかわ の かきもり ? - 786 奈良時代の貴族。長岡京造営を担当。785年、藤原種継暗殺事件に連座した早良親王を淡路国へ配流するために派遣された。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2162‐2165番歌(神なびの山下響み)~アルケーを知りたい(1463)

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▼蛙の歌4首。2163番は物思いをしているとカエルの声が聞こえて、気づくと夕方、という歌。ここはカエルじゃなくてヒグラシでも雁がねでも置き換えできそう。すると歌の風情がちょっと変わる。作者の物思いの内容が、カエルだと妻の事を考えてるんじゃないか、と思う。ヒグラシだと、これからの人生 (?) についてとか。雁がねだと、職場の人間関係(?)についてとか。知らんけど。 神なびの山下響み行く水に かはづ鳴くなり秋と言はむとや  万2162 *神奈備山のふもとで音を響かせながら流れる水と一緒にカエルが鳴いています。秋ですね。 草枕旅に物思ひ我が聞けば 夕かたまけて鳴くかはづかも  万2163 *旅に出て物思いしているとき聞こえてくるのは、夕方になったよと言わんばかりに鳴くカエルの声です。 瀬を早み落ちたぎちたる白波に かはづ鳴くなり朝夕ごとに  万2164 *瀬を勢いよく流れ落ちる白波を浴びながらカエルが朝に夕に鳴いています。 上つ瀬にかはづ妻呼ぶ夕されば 衣手寒み妻まかむとか  万2165 *川の上流の瀬でカエルが妻を呼んで鳴いています。夕方は冷えるから身を寄せ合おうと言うように。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 藤原 園人  ふじわら の そのひと 756 - 819 奈良時代末期~平安時代初期の公卿。事件への関与を疑われ事件直後に地方官に左遷。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2158‐2161番歌(蔭草の生ひたるやどの)~アルケーを知りたい(1462)

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▼今回はコオロギの歌が3首、カエルの歌が1首。コオロギの漢字は 蟋。この漢字、なかなか読めません、書けません。じゃあカエルは書けるかというと、こちらも書けません、読めません。 蝦。歌になると風情があって可愛い。  蟋を詠む 秋風の寒く吹くなへ我がやどの 浅茅が本にこほろぎ鳴くも  万2158 *秋風が吹いて寒々しい季節。我が家の浅茅の根元でコオロギが鳴いています。 蔭草の生ひたるやどの夕影に 鳴くこほろぎは聞けど飽かぬかも  万2159 *蔭草が生えている家の夕刻時に鳴いているコオロギの声はいくら聞いても飽きません。 庭草に村雨降りてこほろぎの 鳴く声聞けば秋づきにけり  万2160 *庭の草に村雨が降るとき、コオロギの鳴く声を聞くと、いよいよ秋だなあと感じます。  蝦を詠む み吉野の岩もとさらず鳴くかはづ うべも鳴きけり川をさやけみ  万2161 *吉野の岩の間から動かずに鳴くカエル。そうやって鳴くのももっともだ、川が澄んでいるからなあ。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 吉備 泉  きび の いずみ 743 - 814 奈良時代から平安時代初期の公卿。吉備真備の子。795年、藤原種継事件の関与が疑われ備中国に左遷。幼い頃より学才が評判。性格はかたくなで短気、物事に逆らうこと多。政務を行うにあたり原則を踏まえず処置するなど、強情で心がねじけていた。老いても変わることがなかった・・・ 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2154‐2157番歌(夕影に来鳴くひぐらし)~アルケーを知りたい(1461)

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▼今回は鹿の歌3首とヒグラシの歌一首。いずれも秋の歌。鹿の声を人の心に寂しさを思い起こさせ、ヒグラシの鳴き声は心地よいBGMのようだ。 なぞ鹿のわび鳴きすなるけだしくも 秋野の萩や繁く散るらむ  万2154 *なぜ鹿が侘し気に鳴くのでしょうか。もしかしたら秋の野で萩がどんどん散っているからでしょうか。 秋萩の咲きたる野辺にさを鹿は 散らまく惜しみ鳴き行くものを  万2155 *秋萩が咲いている野原で雄鹿は、散るのを惜しんで鳴いているのでしょう。 あしひきの山の常蔭に鳴く鹿の 声聞かすやも山田守らす子  万2156 *山で一日太陽の当たらない場所で鳴く鹿の声を聞いていますか。山の田を守る貴方様は。  蝉を詠む 夕影に来鳴くひぐらしここだくも 日ごとに聞けど飽かぬ声かも  万2157 *夕方の影に乗って来て鳴くヒグラシ。毎日聞いているけどいっこうに飽かない鳴き声です。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 和気 広世  わけ の ひろよ ? - ? 奈良時代末期~平安時代初期の貴族・学者。和気清麻呂の長男。785年、藤原種継暗殺事件に連座して禁錮。特別の恩赦で復帰。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2150‐2153番歌(山遠き都にしあれば)~アルケーを知りたい(1460)

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▼今回は萩と鹿を組み合わせで秋の情緒がしみる4首。それぞれの歌に特徴のある言葉がある。2150は「おほほしみ」、2151は「乏しくもあるか」、2152は「ともしみ」、2153は「露を別けつつ」。これらと萩と鹿が結合すると、あら不思議、秋の風情がしみる歌になる。 秋萩の散りゆく見ればおほほしみ 妻恋すらしさを鹿鳴くも  万2150 *秋萩が散るのを見ると気持ちが萎えるので、雄鹿は雌鹿に逢いたくて鳴くのです。 山遠き都にしあればさを鹿の 妻呼ぶ声は乏しくもあるか  万2151 *山から遠く離れた都にいるので、雄鹿が雌鹿に呼びかける声は聞こえませんね。 秋萩の散り過ぎゆかばさを鹿は わび鳴きせむな見ずはともしみ  万2152 *秋萩が散ってしまうと雄鹿はわびしく鳴くのだが、萩の花が見られないといって。 秋萩の咲きたる野辺はさを鹿ぞ 露を別けつつ妻どひしける  万2153 *秋萩が咲いた野原では雄鹿が、露を払いのけながら雌鹿のところに通っています。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 林 稲麻呂  はやし の いなまろ ? - ? 奈良時代の官人。785年、藤原種継暗殺事件で早良親王が春宮を廃されると、東宮学士として仕えていた稲麻呂も連座して伊豆国へ流罪。806年、恩赦。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十2146‐2149番歌(山の辺にい行くさつ男は)~アルケーを知りたい(1459)

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▼鹿の声がうるさいから山の近くに住むのはお勧めしない、という 2146番 。鹿狩り行く猟師が多いというのに山でも野でも鹿が鳴いている、という2147番。そんな鹿の鳴き声を人に聞かせたい気持ちを詠う2148番。猟師に狙われるリスクを冒してまで鹿が鳴く理由を解く2149番。鹿はどんな鳴き声か気になってくる。猫の鳴き声がうるさかったのが懐かしく思える。今回の4首は、見ているうちに笑顔になる歌。 山近く家や居るべきさを鹿の 声を聞きつつ寐寝かてぬかも  万2146 *山の近くの家に住むのはやめたほうがいい。雄鹿の鳴き声がうるさくて寝るに寝られませんから。 山の辺にい行くさつ男は多かれど 山にも野にもさを鹿鳴くも  万2147 *山に狩りに行く猟師が多いというのに、山でも野でも雄鹿が出て鳴いています。 あしひきの山より来せばさを鹿の 妻呼ぶ声を聞かましものを  万2148 *山を通ってきたならば、雄鹿が雌鹿を呼ぶ鳴き声が聞けたことでしょうに。 山辺にはさつ男のねらひ畏けど を鹿鳴くなり妻が目を欲り  万2149 *山には猟師に狙われるのが怖いけれど、それでも雄鹿は雌鹿に逢いたくて鳴くのです。 【似顔絵サロン】785年、藤原種継暗殺事件の関係者: 藤原 雄依/小依  ふじわら の おより ? - ? 奈良時代から平安時代初期の貴族。藤原永手の次男。785年、藤原種継暗殺事件に連座して隠岐国へ流罪。805年、流罪となっていた五百枝王らと共に赦されて帰京。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10