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万葉集巻第二十4502-4503番歌(梅の花咲き散る春の)~アルケーを知りたい(1699)

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▼ 大中臣清麻呂の家で宴を開いたときの歌シリーズ最後の二首。 4502番で出た「見れども飽かぬ」を4503番で家持は主人に向けて「 見とも飽かぬ君かも」と詠んで作品を捧げた。対面で会う喜びが伝わる。 梅の花咲き散る春の長き日を 見れども飽かぬ磯にもあるかも  万4502  右の一首は大蔵大輔 甘南備伊香 真人。 *梅の花が咲いては散る春の長い一日。いくら見ても飽きることのない磯です。 君が家の池の白波磯に寄せ しばしば見とも飽かむ君かも  万4503  右の一首は右中弁大伴宿禰家持。 *貴方様の家にある池で白波が磯に寄せるように、何度拝見しても見飽きることのない貴方様です。 【似顔絵サロン】 甘南備 伊香  かんなび の いかご ? - ? 奈良時代の皇族・貴族・歌人。万葉歌人。大伴家持・市原王・大原今城らと親交。757年と758年の歌が万葉集に収録。 磯影の見ゆる池水照るまでに咲けるあしびの散らまく惜しも  万4513 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4500-4501番歌(梅の花香をかぐはしみ)~アルケーを知りたい(1698)

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▼今回も大中臣清麻呂の家で宴を開いたときの歌。梅の花がテーマになって歌が続いている。4500番は市原王が梅の花の香りをネタにして清麻呂に捧げた歌。続く4501番は家持が花のうつろいと松の永続を対比させた前向きな歌。 梅の花香をかぐはしみ遠けれど 心もしのに君をしぞ思ふ  万4500  右の一首は治部大輔 市原王 。 *梅の花が香るように、距離は遠いですが、いつも貴方様のことを思っています。 八千種の花はうつろふときはなる 松のさ枝を我れは結ばな  万4501  右の一首は右中弁大伴宿禰家持。 *花はうつろうものです。しかし私たちは常に変わらない松の枝でご縁を結ぶのです。 【似顔絵サロン】 市原王  いちはらおう 719養老3年 - ? 奈良時代の皇族。志貴皇子または川島皇子の曾孫。安貴王の子。大伴家持と交流。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4498-4499番歌(はしきよし今日の主人は)~アルケーを知りたい(1697)

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▼今回は大中臣清麻呂の長寿を祈る家持の歌とそれに応えた歌。 4498番の 「はしきよし」 は、いとおしい・なつかしいという意味。でもこの歌では、いとおしいでも、なつかしいでもしっくり来ない。やはり、はしきよしでなければならん。4498番は、我が友のそのような言葉を聞けば自分も長生きしたいと思います、と応じる。清麻呂と家持の年齢差は16歳。清麻呂が年上。 はしきよし今日の主人は磯松の 常にいまさね今も見るごと  万4498  右の一首は右中弁大伴宿禰家持。 *今日の宴会のご主人様は、磯の松のようにいつまでも今のまま変わらないでいてください。 我が背子しかくし聞こさば天地の 神を祈ひ禱み長くとぞ思ふ  万4499  右の一首は主人 中臣清麻呂 朝臣。 *貴方様がそう仰ってくださるのでしたら、神に祈って長らえたいと思います。 【似顔絵サロン】 大中臣 清麻呂  おおなかとみ の きよまろ 702大宝2年 - 788延暦7年 奈良時代の公卿・歌人。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4496-4497番歌(恨めしく君はもあるか)~アルケーを知りたい(1696)

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▼今回は、大原今城と 大中臣清麻呂 が梅の花をネタに遊ぶ二首。4496番は咲き終わった梅の花で攻め、4497番はそれを切り返している。頭の回転の速い人たち。  二月に式部 大輔中臣清麻呂 朝臣が宅にして宴する歌十首 恨めしく君はもあるかやどの梅の 散り過ぐまで見しめずありける  万4496  右の一首は治部少輔大原今城真人。 *貴方様が恨めしい。庭の梅が散るまで見せてくださらないとは。 見むと言はばいなと言はめや梅の花 散り過ぐるまで君が来まさぬ  万4497  右の一首は主人中臣清麻呂朝臣。 *見たいと仰れば嫌と言うものですか、梅の花が散り終わるまで貴方様がいらっしゃらなかっただけでしょうに。 【似顔絵サロン】 大中臣 清麻呂  おおなかとみ の きよまろ 702大宝2年 - 788延暦7年9月6日 奈良時代の公卿・歌人。子が宿奈麻呂、子老、継麻呂、諸魚、老人、今麻呂。国家の昔のことをよく知っている老臣、朝廷の儀式について多くを諳んじかつ熟練していた。高位の官職にあって政務を見るにあたって、年老いても精勤で怠ることがなかった 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4494-4495番歌(水鳥の鴨の羽色の青馬を)~アルケーを知りたい(1695)

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▼今回の二首は家持が晴れやかな宴会のためにあらかじめ作っておいた歌だけど、事情で発表しなかった作品。七日は青馬の節会の日なので4484番で馬を詠ったが、会が前日に変更になったため、お蔵入りとなった。4495番は宴会の時にウグイスを詠った作品。けど、これは奏上していない。で、馬とウグイスの歌がここに来ることになった。   水鳥の鴨の羽色の青馬を 今日見る人は限りなしといふ  万4494   右の一首は、七月の侍宴のために、右中弁大伴宿禰家持、預めこの歌を作る。 ただし、仁王会の事によりて、かへりて六日をもちて内裏に諸王卿等を召して酒を賜ひ、肆宴して禄を給ふ。これによりて奏せず。 *水鳥の鴨の羽の色をした青馬を今日見る人は限りなく寿命が延びると言います。   六日に、内庭にかりに樹木を植ゑて以ちて林帷と作して、肆宴を為したまふ歌一首 うち靡く春ともしるくうぐひすは 植木の木間を鳴きわたらなむ  万4495   右の一首は右中弁 大伴宿禰家持 。不奏。 *草木が靡く春になった印にウグイスよ、幕に見立てた木々の間を鳴きながら渡っておくれ。 【似顔絵サロン】 大伴 家持  おおともの やかもち 718養老2年 - 785延暦4年10月5日 公卿・歌人。百人一首6: かささぎの 渡せる橋に置く霜の 白きを見れば 夜ぞふけにける   〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4493番歌(初春の初子の今日の)~アルケーを知りたい(1694)

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▼今回は4493番。758年の歌。長めの前書きの最初の文に主語がない。次の文の主語は内相藤原朝臣。だから、こういうことではないか:あえて名前を記さない高貴な方(この年に天皇になる 淳仁天皇 )が身近なスタッフを集めて小宴を催した。このとき藤原仲麻呂が、歌を作り詩を賦せ、という 「勅」を伝える。そこでみなさんが勅に応えた、という話。 奇妙なのは、そのときに奏上された歌はひとつも載ってなくて、4493番は「このときには仕事に追われて奏上できなかった」という断りつきの家持の歌。丁寧な前書き、ほかの人の歌はない、載っているのは奏上しなかった家持の歌・・・。   二年の春の正月の三日に、侍従、竪子、王臣等を召し、内裏の東の屋の垣下に侍はしめ、すなはち玉箒を賜ひて肆宴したまふ。 時に内相 藤原朝臣 、勅を奉じ宣りたまはく、「諸王卿等、堪のまにま意のまにまに歌を作り、幷せて詩を賦せ」とのりたまふ。 よりて、詔旨に応へ、おのもおのも心緒を陳べ、歌を作り詩を賦す。  いまだ諸人の賦したる詩、幷せて作れる歌を得ず 初春の初子の今日の玉箒 (たまばはき)   手に取るからに揺らく玉の緒  万4493   右の一首は、右中弁大伴宿禰家持作る。 ただし、大蔵の政によりて、奏し勘へず。 *初春、初子の今日の玉のようなありがたい箒、手に取るだけで玉の緒からゆらゆらと音が聞こえます。 【似顔絵サロン】 藤原 仲麻呂  ふじわら の なかまろ 恵美押勝 706慶雲3年 - 764天平宝字年10月17日 奈良時代の公卿。757年の橘奈良麻呂の乱に勝って力を得、764年の 藤原仲麻呂の乱で負けて斬首。 天雲の去き還りなむもの故に思ひそ我がする別れ悲しみ  万4242 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4492番歌(月数めばいまだ冬なり)~アルケーを知りたい(1693)

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▼4492番は、暦上の季節と実際の風景のギャップを詠った作品。暦の上では冬。 「しかすがに」 霞がたなびくから春。両者のギャップを「しかすがに」という言葉で表す。時計を見ればいまだ午前しかすがに 腹が鳴るから午後の訪れ、とか。  二十三日に、治部少輔 大原今城真人 が宅にして宴する歌 月数 (す) めばいまだ冬なりしかすがに 霞たなびく春立ちぬとか  万4492   右の一首は、右中弁大伴宿禰家持作る。 *暦の上ではまだ冬です。けれども、霞がたなびいていますから春が来てます。 【似顔絵サロン】 大原 今城  おおはら の いまき 705年 - ? 奈良時代の皇族・貴族・万葉歌人。764年、藤原仲麻呂の乱に連座。771年、赦免。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20