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万葉集巻第十九4148-4153番歌(今日のためと思ひて標めし)~アルケーを知りたい(1556)

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▼今回はまず、明け方、雉の鳴き声を聞いた家持の感想二首。雉も鳴かずば撃たれまい、という、あの雉。姿は鶏にとても似ているが鳴き声は異なる。 家持は雉の鳴き声の感慨を詠った。動画で雉の鳴き声を聞くと、この二首に共感。 雉の鳴き声には 鶏にはない悲しい響きが感じられる。 続く一首は、船頭の歌。船頭は歌うのが好きなのだろう。でもヴェニスの船頭の歌い方のイメージとはだいぶ違う印象。 最後の三首は、家持が館で宴を開いたときの歌。騒がしい宴会ではなく、しっとりとした感じがする。  暁に鳴く雉を聞く歌二首 杉の野にさ躍る雉いちしろく 音にも泣かむ隠り妻かも  万4148 *杉の野原に騒がしい雉がいます。これは我慢できずに泣いている隠れ妻なのかも。 あしひきの八つ峰の雉鳴き響む 朝明の霞見れば悲しも  万4149 *あちらこちらの峰から雉の鳴き声が響いて来ます。朝明の霧を見ると悲しい気持ちになります。  遥かに、江を泝る舟人の唱ふを聞く歌一首 朝床に聞けば遥けし射水川 朝漕ぎしつつ唱ふ舟人  万4150 *朝、寝床の中で聞こえてくるのは遥か遠くの射水川で早朝から舟を漕ぎながら歌っている舟人の声。  三日に、守大伴宿禰家持が館にして宴する歌三首 今日のためと思ひて標めしあしひきの 峰の上の桜かく咲きにけり  万4151 *今日のためにと思って囲っておいた峰の上の桜。このように見事に咲いています。 奥山の八つ峰の椿つばらかに 今日は暮らさねますらをの伴  万4152 *あの遠い峰々の椿もよく咲いています。今日はますらをのみなさんと心行くまで楽しく過ごしましょう。 漢人も筏浮べて遊ぶといふ 今日ぞ我が背子花かづらせな  万4153 *漢の国の粋人は筏を浮かべて遊んだと言います。皆さん、今日は花かづらを付けましょうよ。 【似顔絵サロン】藤原仲麻呂の乱に関係した人々: 藤原 辛加知  ふじわら の からかち/しかち ? - 764 奈良時代の貴族。藤原仲麻呂の八男。764年、藤原仲麻呂の乱で孝謙上皇方の佐伯伊多智から斬殺。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=19

万葉集巻第十九4154-4155番歌(矢形尾の真白の鷹を)~アルケーを知りたい(1557)

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▼都から遠く離れた越中の国で毎年過ごしているうちに鬱屈する気持ちが溜まる。そんなとき、山野を馬で駆け巡り、大切に育てた真白斑の鷹を飛ばす。その眺めを見る喜びの歌。  八日に、白き大鷹を詠む歌一首  幷せて短歌 あしひきの 山坂越えて 行きかはる 年の緒長く しなざかる 越にし住めば 大君の 敷きます国は 都をも ここも同じと 心には 思ふものから 語り放け 見放くる人目 乏しみと 思ひし繁し そこゆゑに 心なぐやと 秋づけば 萩咲きにほふ 石瀬野に 馬だき行きて をちこちに 鳥踏み立て 白塗の 小鈴もゆらに あはせ遣り 振り放け見つつ いきどほる 心のうちを 思ひ延べ 嬉しびながら 枕付く  妻屋のうちに 鳥座結ひ 据ゑてぞ我が飼ふ 真白斑の鷹 万4154 *都から遠い越中で過ごしていると悶々とする。そこで山に出て真白斑の鷹を放つ。その様子を思い出してにんまりする。我が家で大切に買っている真白斑の鷹。 矢形尾の真白の鷹をやどに据ゑ 掻き撫で見つつ飼はくしよしも  万4155 *矢の形の尾が白い鷹が我が家にいる。撫でては姿を見て飼育するのは嬉しいこと。 【似顔絵サロン】藤原仲麻呂の乱に関係した人々: 佐伯 伊多智  さえき の いたじ ? - ? 奈良時代の貴族。764年、孝謙上皇方として活躍。藤原辛加知を斬殺。功が認められ昇進。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=19

万葉集巻第十九4143-4147番歌(燕來る時になりぬと)~アルケーを知りたい(1555)

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▼和歌によるスケッチ。 4143番は、井戸の周りの娘たちとカタクリの花。どういう絵にしますかねえ。 4144番は、一方では燕、もう一方では雁が飛ぶ、という絵。 4145番。秋風。これはどう描くか。秋風で紅葉する山は描けそう。 4146番と4147番は夜の川千鳥の鳴き声の歌。さすがに鳥の声は絵にできますまい。でも名人なら、夜の川、うっすらと川千鳥の姿。観賞する人が鳥の声が聞こえるような、、、。  堅香子草の花を攀ぢ折る歌一首 もののふの八十娘子らが汲み乱ふ 寺井の上の堅香子の花  万4143 *多くの娘子たちが押しかけて水を汲む寺井。その上で咲き乱れているカタクリの花。  帰雁を見る歌二首 燕來る時になりぬと雁がねは 国偲ひつつ雲隠り鳴く  万4144 *燕が飛んでくる季節になると雁たちは雲に隠れて 鳴きながら 故郷に 帰ります。 春まけてかく帰るとも秋風に もたみむ山を越え來ずあらめや   一には「春されば帰るこの雁」といふ  万4145 *春を待ってこのように帰って行く。でも、秋風で紅葉する山を越えて再びやって来るのです。  夜裏に千鳥の鳴くを聞く歌二首 夜ぐたちに寝覚めて居れば川瀬尋め 心もしのに鳴く千鳥  万4146 *夜半遅く目が覚めてしまった。川瀬で鳴く千鳥の声が聞こえて悲しくなります。 夜くたちて鳴く川千鳥うべしこそ 昔の人も偲ひきにけれ  万4147 *夜半すぎて鳴く川千鳥の声を昔の人は悲しく感じたという。よくわかる。 【似顔絵サロン】藤原仲麻呂の乱に関係した人々: 藤原 刷雄  ふじわら の よしお ? - ? 奈良時代の貴族。藤原仲麻呂の六男。764年、藤原仲麻呂の乱では、一族が悉く処刑されるも遣唐使留学生だった経歴が考慮され死罪を免れ、隠岐国へ流罪。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=19

万葉集巻第十九4139-4142番歌(春の日に萌れる柳を)~アルケーを知りたい(1554)

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▼今回から巻十九。春の歌で始まっている。 4139番は絵になる歌。じっさい絵にしようとしたら、絵描きはどういう構図を考えるだろう。 4140番は目を地面に向けて、散っているのは花か雪かと詠う。こういう表現はチャンスがあればマネしたいぞ。 4141番は前二首とうって変わった雰囲気の歌。 鴫(シギ)を動画で見ると昼でも悲しく聞こえる声。 4142番。この歌では、柳を攀じているのだが、どういう仕草なのだろう。枝を手にとってするりと手を動かす、みたいな? 昔の人はすぐ切り取ってかざそうとするのでこの歌でも同じことをしたのかと思ったが、芽ぶいた枝を手に取って眺め、都を思い出しただけのようだ。  天平勝宝二年の三月の一日の暮に、春苑の桃李の花を眺矚めて作る歌二首 春の園紅にほふ桃の花 下照る道に出で立つ娘子  万4139 *春の園で桃の花が紅く咲いています。花輝く 道に立つ娘さん。 我が園の李の花か庭に散る はだれのいまだ残りてあるかも  万4140 *私の庭に散っているのは李の花? それとも雪の消え残り?  翻び翔る鴫を見て作る歌一首 春まけてもの悲しきにさ夜更けて 羽振き鳴く鴫誰が田にか棲む  万4141 *春を待つもの悲しい気分の夜遅く、羽をばたつかせて鳴く鴫。誰の田にいるのだろう。  二日に、柳黛を攀ぢて京師を思ふ歌一首 春の日に萌れる柳を取り持ちて 見れば都の大道し思ほゆ  万4142 *春の日に芽を出している柳を手に持って見ると、都の大通りを思い出します。 【似顔絵サロン】藤原仲麻呂の乱に関係した人々: 藤原 薩雄  ふじわら の ひろお ? - 764 奈良時代の貴族。藤原仲麻呂の七男。764年、藤原仲麻呂の乱で官軍から斬殺。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=19

万葉集巻第十八4134-4138番歌(我が背子が琴取るなへに)~アルケーを知りたい(1553)

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▼今回は家持が宴の会で詠んだ歌の数々。 4134番は、雪が積もった月夜に開かれた宴会で、都に残してきた妻に会いたい気持ちを詠んだ歌。万葉時代の人は寒さにめちゃ強かったようだ。雪だよ、月が出ている夜だよ。 4135番は、琴の名手のお宅で開かれた宴での歌。演奏は内省的なものだったようだ。 4136番は、宴に参加している皆さまの長寿を祈る歌。人が集まるところでは寿の歌、皆の幸いを祈るポジティブな言葉がふさわしいと分かる。 4137番は気の置けない友人、広繩と向かい合って、こうして笑い合える時間は貴重だよなと言う歌。 4138番は趣が がらっと 代わって、仕事先で雨に降られたから今雨宿り中、という妻への連絡の歌。雨に濡れたくない家持、家持の言いつけで雨に濡れながら歌を運ぶ奴。雨宿り先は「 郡の主帳」宅なので、そのまま宴会になっているに違いない。  宴席にして雪月梅花を詠む歌一首 雪の上に照れる月夜に梅の花 折りて送らむはしき子もがも  万4134  右の一首は、十二月に大伴宿禰家持作る。 *雪の夜、月に照らし出された梅の花を折り取る。それをプレゼントするかわいい妻がここにいてくれたらなあ。 我が背子が琴取るなへに常人の 言ふ嘆きしもいやしき増すも  万4135  右の一首は、少目秦伊美吉石竹が館の宴にして守大伴宿禰家持作る。 *貴方様が琴を手に取るやいなや、世間の人の嘆きが音になって溢れてきます。   天平勝宝二年の正月の二日に、国庁にして饗を諸の郡司等に給ふ宴の歌一首 あしひきの山の木末のほよ取りて かざしつらくは千年寿くとぞ  万4136  右の一首は、守大伴宿禰家持作る。 *山の樹木の下にある「ほよ」をかんざしにしたのは、皆さまの長寿をお祈りしているからです。  判官久米朝臣広繩が館にして宴する歌一首 正月立つ春の初めにかくしつつ 相し笑みてば時じけめやも  万4137  同じき月の五日に、守大伴宿禰家持作る。 *正月の初春にこのように顔を合わせて笑い合えるのはじつに時を得たことです。  墾田地を検察する事によりて、礪波の郡の主帳 多治比部北里 が家に宿る。 時に、たちまちに風雨起り、辞去すること得ずして作る歌一首 藪波の里に宿借り春雨に 隠りつつむと妹に告げつや  万4138  二月の十八日に、守大伴宿禰家持作る。 *藪波の里のお宅で降り出した春雨が止むのを待ってい...

万葉集巻第十八4132-4133番歌(縦さにもかにも横さも)~アルケーを知りたい(1552)

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▼池主が前回に続いて針袋ネタで家持に送った手紙と短歌。ふざけた表現だが、漢文に長けた池主の手にかかると名文になってしまう。「 それ水を乞ひて酒を得るはもとより能き口なり 」には笑っても良いのではないか、恐れ多いけど。  さらに来贈する歌二首 駅使を迎ふる事によりて、今月の十五日に、部下の加賀の郡の境に到来す。 面蔭に射水の郷を見、恋緒深見の村に結ぼほる。 身は胡馬に異なれども、心は北風に悲しぶ。 月に乗じて徘徊れども、かつて為すところなし。 やくやくに来封を開くに、その辞云々とあれば、先に奉る書、返りて畏るらくは疑ひに度れるかと。 僕れ羅を嘱することをなし、 かつがつ使君を悩ます 。 それ水を乞ひて酒を得るはもとより能き口なり 。 時を論じて理に合はば、何せむに強吏と題さむや。 尋ぎて針袋の詠を誦むに、 詞泉酌めども渇きず 。 膝を抱き独り笑み、よく旅の愁を覘く 。 陶然に日を遣り、何をか慮らむ、何をか思はむ。 短筆不宣  勝宝元年の十二月の十五日物を徴りし下司  謹上 不伏使君 記室 別に奉る云々 歌二首 縦さにもかにも横さも奴とぞ 我れはありける主の殿外に  万4132 *上下の関係であろうと対等の関係であろうと、私は奴でありまして、ご主人様の館の外で控えております。 針袋これは賜りぬすり嚢 今は得てしか翁さびせむ  万4133 *針袋、これは確かに頂きました。今度はすり嚢を頂いて、翁っぽくしたいです。 【似顔絵サロン】藤原仲麻呂の乱に関係した人々: 藤原 小湯麻呂  ふじわら の おゆまろ ? - 764天平宝字8年10月17日 奈良時代の貴族。藤原仲麻呂の子。764年、藤原仲麻呂の乱で 坂上石楯 から斬殺された。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=18

万葉集巻第十八4128-4131番歌(草枕旅の翁と思ほして)~アルケーを知りたい(1551)

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▼池主が家持から贈られたプレゼントに対するお礼の 戯歌。例のごとく漢文調。これはいったい何だろうかと思ったら、針袋である。これは私を旅に出た翁だと思って贈ってきたものだから、何か縫うものが要る、で始まる四首。この歌への返答の歌は脱漏して見つからない、という後書きも冗談っぽい。これも古の方々のふざけ方、と思ふ。  越の国の掾大伴宿禰池主が来贈する戯歌四首 たちまちに恩賜を辱みし、驚欣すでに深し。 心中笑を含み、独り座してやくやくに開けば、表裏同じきことあらず。 相違何しかも異なる。 所由を推量るに、いささめに策をなせるか。 明らかに知りて言を加ふること、あに他意あらめや。 凡そ本物を貿易することは、その罪軽きことあらず。 正贓倍贓、急けく幷満すべし。 今し風雲を勒して、徴使を発遣す。 早速に返報せよ、延廻すべくあらず。   勝宝元年の十一月の十二日物の貿易せらえたる下吏謹みて貿易人を断宮司の庁下に訴ふ。 別に曰さく、可怜の意、黙止をること能はず。 いささかに四詠を述べ、睡覚に准擬せむと。 草枕旅の翁と思ほして 針ぞ賜へる縫はぬ物もが  万4128 *旅をしている翁と思われたのか、針を貰ったので、何か縫う物が欲しいです。 針袋取り上げ前に置き返さへば おのともおのや裏も継ぎたり  万4129 *針袋を手に取ってよく見ると、何と裏地までついています。 針袋帯び続けながら里ごとに 照らひ歩けど人もとがめず  万4130 *針袋を腰につけて見せびらかしながら里から里を歩いたが咎める人はいません。 鶏が鳴く東をさしてふさへしに 行かむと思へどよしもさねなし  万4131  右の歌の返し報ふる歌は、脱漏して探ね求むること得ず。 *針袋にふさわしい鶏が鳴く東の方へ行ってみようかと思うが、そのきっかけがありません。 【似顔絵サロン】藤原仲麻呂の乱に関係した人々: 藤原 朝狩  ふじわら の あさかり ? - 764天平宝字8年10月17日 奈良時代の公卿。藤原仲麻呂の四男。764年、藤原仲麻呂の乱で官軍から斬殺。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=18