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万葉集巻第十九4285-4288番歌(大宮の内にも外にも)~アルケーを知りたい(1599)

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▼暑い時期に冬の歌も良いものだ。今回は大雪が降り積もった日の歌。弾んだ気分が伝わってくる。 4285番は、きれいな雪を踏まないようにしよう、という歌。その気持ち分かる。 4286番は、雪が降り続く竹林からウグイスの鳴き声が聞こえる、と妙味を喜ぶ歌。 4287番は、ウグイス大好きの家持が、こんどは梅の花が雪で落ちるのを気にする歌。 4287番は、どうやら雪に追われた千鳥も宮の内に来ていると詠う。 どの歌にもビジュアルとサウンド効果があります。  十一日に、大雪落り積みて、尺に二寸有り。 よりて拙懐を述ぶる歌三首 大宮の内にも外にもめづらしく 降れる大雪な踏みそね惜し  万4285 *大宮の内にも外にも降った大雪が珍しいので、踏み散らかさないようにしましょう、もったいないから。 御園生の竹の林にうぐひすは しば鳴きにしを雪は降りつつ  万4286 *園庭の竹林にも雪が降っています。しきりにウグイスが鳴いています。 うぎひすの鳴きし垣内ににほへりし 梅この雪にうつろふらむか  万4287 *ウグイスが鳴く宮の内に咲いている梅。この雪で散っているだろうか。  十二日に、内裏に侍ひて、千鳥の喧くを聞きて作る歌一首 川洲にも雪は降れれし宮の内に 千鳥鳴くらし居む所なみ  万4288 *川の洲にも雪が降りましたので、千鳥は居場所がなくなって宮の内で鳴いているらしい。 【似顔絵サロン】 藤原 豊成  ふじわら の とよなり 704 - 766 奈良時代の貴族。藤原南家、左大臣・藤原武智麻呂の長男。今回の歌の時期に右大臣を務めた人物。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=19

万葉集巻第十九4282-4284番歌(新しき年の初めに思ふどち)~アルケーを知りたい(1598)

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▼今回は753年の正月に仲間が集って詠んだ歌三首。4282番の作者、 石上宅嗣は729年の生まれなので、24歳。4283番の茨田王の年齢は不詳。4284番で、新年にこうやって親しい仲間が集まるのは楽しいねと詠った道祖王は36歳。集まって歌を詠み、それが残る。家持が万葉集巻19に収録した。現代に至る。ありがたや。  五年の正月の四日に、治部少輔 石上朝臣宅嗣 が家にして宴する歌三首 言繁み相問はなくに梅の花 雪にしをれてうつろはむかも  万4282  右の一首は主人石上朝臣宅嗣。 *人の口がうるさいから訪問を控えていたが、その間に梅の花が雪で萎れて時期が過ぎるのではないかと気が気でない。 梅の花咲けるがなかにふふめるは 恋か隠れる雪を待つとか  万4283  右の一首は中務大輔 茨田王 。 *梅の花の中にまだつぼみがいる。これは恋を待っているのでしょうか、雪を待っているのでしょうか。 新しき年の初めに思ふどち い群れて居れば嬉しくもあるか  万4284  右の一首は大膳大夫 道祖王 。 *新年の初めに気が合う者が集まるのは嬉しいことですな。 【似顔絵サロン】 石上 宅嗣  いそのかみ の やかつぐ 729 - 781 奈良時代後期の公卿・文人。石上麻呂の孫。経書・歴史書、作文を好んだ。草書・隷書も巧みで淡海三船と並ぶ文人の筆頭。 日本最初の図書館「芸亭(うんてい)」を開設。 茨田王  まむたのおほきみ ? - ? 奈良時代の官吏。 道祖王  ふなどのおおきみ 717 - 757 天武天皇の孫。新田部親王の子。孝謙天皇の皇太子となるも素行不良を理由に 廃太子。 日本史上で初のこと 。橘奈良麻呂の乱に連座、麻度比(まどひ=惑い者の意)と改名させられ拷問で獄死。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=19

万葉集巻第十九4279-4281番歌(能登川の後には逢はむ)~アルケーを知りたい(1597)

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▼今回は送別会の歌。 4279番は「 悲しくもあるか 」、 4280番は「 斎ひて待たむ 」、4281番は「 息の緒に思ふ 」が効いている。これらのフレーズが出て来る気持ちの持ち方は今でもマネできそう。  二十七日に、 林王 が宅にして、但馬の按察使 橘奈良麻呂 朝臣を餞する宴の歌三首 能登川の後には逢はむしましくも 別るといへば悲しくもあるか  万4279  右の一首は治部卿 船王 。 *能登川ののと=のちにまた会いましょう。しばらくの間でもお別れと言ってしまうと悲し過ぎるので。 立ち別れ君がいまさば磯城島の 人は我れじく斎ひて待たむ  万4280   右の一首は右京少進 大伴宿禰黒麻呂 。 *ここでお別れして貴方様が行ってしまいましたら、磯城島の人は我と同じように謹んでお待ちします。 白雪の降り敷く山を越え行かむ 君をぞもとな息の緒に思ふ  万4281   右大臣、尾を換へて「息の緒にする」と云ふ。 しかれども、なほし喩へて、「前のごとく誦め」と曰ふ。 右の一首は少納言大伴宿禰家持。 *白雪が降り積もっている山を越えて行く貴方様。息をこらして思っております。 【似顔絵サロン】 林王  はやしの おおきみ ? - ? 奈良時代の皇族。天平18年、元正天皇の雪の宴に参じ、藤原豊成・巨勢奈弖麻呂・大伴牛養ら17名と共に歌を作り天皇に上奏するも、遺漏したため記録されず。 橘 奈良麻呂  たちばな の ならまろ 721 - 757 奈良時代の公卿。橘諸兄の子。橘奈良麻呂の乱の後、獄死。 奥山の真木の葉しのぎ降る雪のふりはますとも地に落ちめやも  万1010 船王  ふねおう/ふねのおおきみ ? - ? 奈良時代の皇族。舎人親王の子。757年、橘奈良麻呂の乱では、百済王敬福とともに謀反者を拷問、道祖王・黄文王・大伴古麻呂らが死亡。764年、藤原仲麻呂の乱では加担しなかったものの隠岐国へ流罪。 眉のごと雲居に見ゆる阿波の山かけて漕ぐ船泊知らずも  万998 大伴 黒麻呂  おほとも の くろまろ ? - ? 奈良時代の官吏。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=19

万葉集巻第十九4273-4278番歌(島山に照れる橘)~アルケーを知りたい(1596)

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▼今回は 新嘗会の肆宴の楽しい歌、前回に続く 後半の三首。 4276番では橘の枝を頭に差してかんざしにしている。たのしげだ。祭でお面を頭に乗っけるのはその名残だろうか。 4277番でウグイスが出た。続く4278番で家持は大好きなウグイスではなく、葛と梅を取り上げて参加者の視線をより遠くに導いている。  二十五日に、新嘗会の肆宴にして詔に応ふる歌六首 (後半の三首) 島山に照れる橘うずに挿し 仕へまつるは卿大夫たち  万4276  右の一首は右大弁 藤原八束 朝臣。 *島山で輝いている橘をかんざしにしてお仕えているのは卿大夫たちです。 袖垂れていざ我が園にうぐひすの 木伝ひ散らす梅の花見に  万4277  右の一首は大和の国の守 藤原永手 朝臣。 *袖を垂らして、さあ我が家の庭へどうぞ。ウグイスが木を伝って梅の花を散らすのを見に。 あしひきの山下ひかげかづらける 上にやさらに梅をしのはむ  万4278  右の一首は少納言大伴宿禰家持。 *山の麓の日陰では葛が這っています。山の上には梅があります。これも愛でましょう。 【似顔絵サロン】 藤原 真楯  ふじわら の またて/初名は 八束  やつか 715 - 766 奈良時代の公卿。藤原北家の祖・藤原房前の三男。山上憶良と交流。 藤原 永手  ふじわら の ながて 714 - 771 奈良時代の公卿。藤原北家、藤原房前の次男。真楯の兄。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=19

万葉集巻第十九4273-4278番歌(天地と相栄えむと)~アルケーを知りたい(1595)

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▼今回の歌の背景にある 新嘗祭とは「天皇がその年に収穫された穀物を供えて感謝の奉告を行い、神からの賜りものとして食する儀式」 (Wikipedia) だそうだ。この 肆宴 ( とよのあかり ) 宴会で幹部たちが詠んだ歌が六首あって、今回はそのうちの前半の三首。 4273番の結び「貴く嬉しき」が良い、特に「嬉しき」が良きと思ふ。なぜそう思うのか・・・たぶん仕事をして「嬉しき」という心持ちになるのが大事なことと思うからだろう。 4274番は、綱が張られている風景が見えて来そう。見たことないけど(笑)。 4275番は、酒を歌っている。やはり宴会では酒が出ないとね。  二十五日に、新嘗会の肆宴にして詔に応ふる歌六首  ※以下、前半の三首 天地と相栄えむと大宮を 仕へまつれば貴く嬉しき  万4273  右の一首は 大納言巨勢 朝臣。 *天地と共に栄える大宮に仕えられるのは、何とも貴く嬉しいことです。 天にはも五百つ綱延ふ万代に 国知らさむと五百つ綱延ふ   古歌に似ていまだ詳らかにあらず  万4274  右の一首は式部卿 石川年足 朝臣。 *天には多くの綱が張られています。治世を知らせるために多くの綱が張られています。 天地と久しきまでに万代に 仕へまつらむ黒酒白酒を  万4275  右の一首は従三位 文室智努真人 。 *天地と共にこれから先ずっとずっと仕えましょう、黒酒白酒を捧げます。 【似顔絵サロン】 巨勢 奈弖麻呂  こせ の なでまろ 670 - 753 奈良時代の公卿。父は巨勢人。万葉歌人。 石川 年足  いしかわ の としたり 688 - 762 飛鳥時代末期~奈良時代中期の公卿・歌人。蘇我安麻呂の孫。石川石足の長男。清廉・勤勉な性格。政治に習熟。楽しみは読書。 文室 真人  ふむや の まひと / 邑知王 おほち の おほきみ 704 - 780 奈良時代の皇族・公卿。天武天皇の孫。長皇子の七男。智奴王と兄弟。天平18年、元正天皇の雪の宴に参じ、藤原豊成・巨勢奈弖麻呂・大伴牛養ら17名と共に歌を作り天皇に上奏するも記録されず。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=19

万葉集巻第十九4269-4272番歌(よそのみに見ればありしを)~アルケーを知りたい(1594)

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▼4269番は聖武天皇が太上天皇になり、橘諸兄の家を訪問したときの歌。これまでは外から見るだけだったが、宴会を開いて内から眺めたときの感想の歌。 4270番は、諸兄が太上天皇の訪問を喜ぶ歌。 4271番は、宴会に同席していた 藤原八束 が諸兄と同じく 太上天皇の訪問を喜ぶ歌。 4272番は、家持の未奏の歌。前の歌で浜辺が出たので、家持は里全体まで広げたようだ。  十一月の八日に、左大臣 橘 朝臣が宅に在して肆宴したまふ歌四首 よそのみに見ればありしを今日見ては 年に忘れず思ほえむかも  万4269  右の一首は太上天皇の御歌。 *外で見かけるだけだったのとちがい、今日、このようにして見たことでと毎年忘れずに思い出すであろう。 葎延ひ賤しきやども大君の 座さむと知らば玉敷かましを  万4270  右の一首は左大臣橘卿。 *むさくるしい我が家ですが、大君がいらっしゃると分かっていましたら玉石を敷いておりましたのに。 松蔭の清き浜辺に玉敷かば 君來まさむか清き浜辺に  万4271  右の一首は右大弁 藤原八束 朝臣。 *この庭の松の蔭にある清らかな浜辺に玉を敷いておきましたら、大君はまたおいでくださるでしょうかこの清らかな浜辺に。 天地に足らはし照りて我が大君 敷きませばかも楽しき小里  万4272  右の一首は少納言大伴宿禰家持  未奏 *天地のすみずみまで照らしておられる我が大君がいらっしゃれば里全体が楽しいものとなります。 【似顔絵サロン】 聖武天皇  しょうむてんのう 701 - 756 第45代天皇。 在位:724 - 749年 父親は文武天皇、母親は藤原不比等の娘・宮子。 橘 諸兄  たちばな の もろえ 684 - 757 奈良時代の皇族・公卿。吉備真備と玄昉が政治を補佐。 藤原 真楯 / 八束  ふじわら の またて/やつか 715 - 766 奈良時代の公卿。藤原北家の祖・藤原房前の三男。山上憶良と交流。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=19

万葉集巻第十九4268番歌(この里は継ぎて霜や置く)~アルケーを知りたい(1593)

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▼今回は訪問した先で言葉を贈るときの見本の歌。「 黄葉せる沢蘭一株を抜き取」って贈る言葉の象徴にする。同じような機会があれば見習うことにします。 今回の一首には関係者が四名、うち三名が女性。   天皇 、 太后 、共に大納言藤原家に幸す日に、黄葉せる沢蘭一株を抜き取りて、内侍 佐々貴山君 に持たしめ、 大納言藤原卿 と陪従の大夫等に遣し賜ふ御歌一首  命婦誦みて曰はく、 この里は継ぎて霜や置く夏の野に 我が見し草はもみちたりけり  万4268 *この地では次々に霜が降りるのであろう、夏の野で私が見た草は紅葉しています。 【似顔絵サロン】 佐々貴山君  ささきのやまのきみ ? - ? 孝謙天皇の内侍(女官)。天皇は内侍に沢アララギ (サワヒヨドリ、ヒヨドリバナの仲間) の黄葉を持たせて大納言藤原仲麻呂に賜ったのが4268番。 孝謙天皇  こうけんてんのう 718 - 770 第46代天皇。史上6人目の女性天皇。道鏡を法王にした。 光明皇后  こうみょうこうごう 701 - 760 藤原不比等と県犬養橘三千代の子。聖武天皇の皇后で孝謙天皇の生母。 藤原 仲麻呂  ふじわら の なかまろ 恵美押勝 706 - 764 奈良時代の公卿。藤原武智麻呂の次男。 天雲の去き還りなむもの故に思ひそ我がする別れ悲しみ  万4242 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=19