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万葉集巻第二十4301番歌(印南野の赤ら柏は)~アルケーを知りたい(1604)

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▼今回は一首。天皇が宮で開いた宴会に参加した播磨の国の守の安宿王が詠んだ歌。紅葉は年に一度、でも私は君を思うのは年中です、と忠誠心を言葉にした。裏があるんじゃないかと疑う気持ちが恥ずかしくなる。  七日に、天皇、太上天皇、皇大后、東の常宮の南の大殿に在して肆宴したまふ歌一首 印南野の赤ら柏は時はあれど 君を我が思ふ時はさねなし  万4301  右の一首は、播磨の国の守 安宿王 奏す。古今未詳 *印南野の赤柏が紅葉するのは時期がありますが、私が君をお慕いするのはいつものことで時期がありません。 【似顔絵サロン】 安宿王  あすかべおう/あすかべのおおきみ ? - ? 奈良時代の皇族。天武天皇の後裔、長屋王の五男。橘奈良麻呂の乱の後、佐渡に流罪。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4298-4301番歌(年月は新た新たに)~アルケーを知りたい(1603)

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▼思ふどちが集まって宴会を開くのは楽しいねえ、と言い合う歌。集まって楽しい気持ちを言葉に出すことによって、さらに楽しくなる。楽しいときは楽しいね、とお互いに素直に言い合うのが大事だと思ふ。  六年の正月の四日に、氏族の人等、少納言大伴宿禰家持が宅に賀き集ひて宴飲する歌三首 霜の上に霰た走りいやましに 我れは参ゐ来む年の緒長く  古今未詳  万4298  右の一首は左兵衛督 大伴宿禰千室 。 *霜の上に降る霰が弾けるように私はこの会に参りますよ、この先いつまでも。 年月は新た新たに相見れど 我が思ふ君は飽き足らぬかも  古今未詳  万4299  右の一首は民部少丞 大伴宿禰村上 。 *年月はいつも新しくなりますが、気心知れた楽しいお仲間にお目にかかっているといくら一緒にいても飽き足りません。 霞立つ春の初めを今日のごと 見むと思へば楽しとぞ思ふ  万4200  右の一首は左京少進大伴宿禰池主。 *霞が立つ春の初めに今日のように顔を合わせのは、ホントに楽しいと思います。 【似顔絵サロン】 大伴 千室  おおとも の ちむろ ? - ? 奈良時代の官吏。 754年、大伴家持邸での年賀の宴で歌を詠んだ。 大伴 村上  おおとものむらかみ ? - ? 奈良時代の官吏。 754年、大伴家持邸での年賀の宴で歌を詠んだ。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4295-4297番歌(高円の尾花吹き越す)~アルケーを知りたい(1602)

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▼今回の4295番の説明書きが漢詩の雰囲気を感じさせる、、、と思ったら、漢詩好きの池主の作品だった。どこが漢詩を感じさせるかというと、酒を持って高円の野に登る、の箇所。杜甫の登高を連想する。高校時代の漢詩にあった。続く 中臣清麻呂の 4296番と家持の4297番も同じ高円を詠みこんでいるけど、4295番と違ってとても和歌和歌しい(笑)。  天保勝宝五年の八月の十二日に、二三の大夫等、おのもおのも壺酒を提りて高円の野に登り、いささかに所心を述べて作る歌三首 高円の尾花吹き越す秋風に 紐解き開けな直ならずとも  万4295  右の一首は左京少進 大伴宿禰池主 。 *高円のススキを吹き抜ける秋風を感じながら、衣の紐をほどきましょう。人と直接会うわけではありませんけど。 天雲に雁ぞ鳴くなる高円の 萩の下葉はもみちあへむかも  万4296  右の一首は左中弁 中臣清麻呂 朝臣。 *上空で雁が鳴いています。高円の萩の下葉は紅葉しました。 をみなへし秋萩しのぎさを鹿の 露別け鳴かむ高円の野ぞ  万4297  右の一首は少納言大伴宿禰家持。 *女郎花や秋萩に降りた露をかき分けながら雄鹿が鳴く高円の野ですな。 【似顔絵サロン】 大伴 池主  おおとも の いけぬし ? - 757 奈良時代の官人・歌人。 大中臣 清麻呂  おおなかとみ の きよまろ 702 - 788 奈良時代の公卿・歌人。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4293-4294番歌(あしひきの山行きしかば)~アルケーを知りたい(1601)

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▼今回から 万葉集の最終巻、 巻二十。最初が仙人が出て来る歌、次が山に行く仙人の気持ちが分からないし、その仙人が出会ったという仙人って一体誰や?、という歌。最初はとぼけた歌だと思って笑うんだけど、いや立派な歌が載っているはずの万葉集の歌だから、そんなはずはないかも知れないと思い返し、もう一度読む。でも、ふたつとも遊びだらけの歌だと思ふぞこれ。巻二十が楽しみ。  山村に幸行す時の歌二首 先太上天皇 、陪従の王臣に詔して曰はく、「それ諸王卿等、よろしく和ふる歌を賦して奏すべし」とのりたまひて、すなはち口号びて曰はく あしひきの山行きしかば山人の 我れに得しめし山づとぞこれ  万4293 *山に行くと山で暮らす人が私に暮れた山の土産です、これは。   舎人親王 、詔に応へて和へまつる歌一首 あしひきの山に行きけむ山人の 心も知らず山人や誰れ  万4294   右は、天平勝宝五年の五月に、大納言藤原朝臣が家に在る時に、事を奏すによりて請問する間に、少主鈴 山田史土麻呂 、少納言 大伴宿禰家持 に語りて曰はく、「昔、この言を聞く」といふ。 すなはちこの歌を誦ふ。 *山に行ったという山人の気持ちが分かりませんが、この山人というのはいったい誰なのでしょう。 【似顔絵サロン】 元正天皇  げんしょうてんのう 680 - 748 第44代天皇。在位:715 - 724 独身で即位した初めての女性天皇。母親は元明天皇。 舎人親王  とねりしんのう 676 - 735 天武天皇の皇子。政治家・歌人。729年、長屋王の変では、新田部親王らと共に罪を糾問。 山田 土麻呂  やまだ の つちまろ/ひじまろ ? - ? 奈良時代の官吏。 大伴 家持  おおともの やかもち 718 - 785 公卿・歌人。三十六歌仙の一人。万葉集の編者。  〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第十九4289-4292番歌(青柳のほつ枝攀ぢ取り)~アルケーを知りたい(1600)

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▼昔の人は枝を切り取っては頭に差していたけど、その理由は、祈りであった。4289番に解説がある。 頭に青柳の枝を差すのは、 末長く栄えるようにと祈ってのことだと。 4290番は春の野の夕方の舞台でウグイスの声が聞こえる、うら悲しい、という。 4291番も音を詠った作品。竹林を吹き抜ける風の音。 4292番は空にヒバリが舞い上がって鳴く風景を見て、孤独感に悲しみを感じる歌。 こうやってみると今回の四首はみな内省的だ。  二月の十九日に、左大臣橘家の宴にして、攀ぢ折れる柳の条を見る歌一首 青柳のほつ枝攀ぢ取りかづらくは 君がやどにし千年寿くとぞ  万4289 *青柳の枝を攀じ取って頭につけるのは、貴方様のお宅が末永く栄えるようにと祈ってのことです。  二十三日に、興に依りて作る歌二首 春の野に霞たなびきうら悲し この夕影にうぐひす鳴くも  万4290 *春の野に霞がたなびいてうら悲しい風景です。そんな夕方にウグイスが鳴いています。 我がやどのい笹群竹吹く風の 音のかそけきこの夕かも  万4291 *私の家の笹竹の群を吹き抜ける風の音がかすかに聞こえるこの夕方です。  二十五日に作る歌一首 うらうらに照れる春日にひばり上がり 心悲しもひとりし思へば  万4292   春日遅々にして、鶬鶊正に啼く。 悽惆の意、歌にあらずしては撥ひかたきのみ。 よりて、この歌を作り、もちて締緒を展ぶ。 ただし、この巻の中に作者の名字を稱はずして、ただ、年月、所処、縁起のみを録せるは、皆大伴宿禰家持が裁作る歌詞なり。 *うらうらと照る春の日にひばりが空に飛んでいく。ひとりでもの思いしていると心悲しくなる。 【似顔絵サロン】今回の歌の時期に大納言を務めた人物二人。 巨勢 奈弖麻呂 こせ の なでまろ 670 - 753 奈良時代の公卿。父は巨勢人。万葉歌人。 天地と相栄えむと大宮を仕へ奉れば貴く嬉しき  万4273。 藤原 仲麻呂  ふじわら の なかまろ 恵美押勝 706 - 76 奈良時代の公卿。藤原武智麻呂の次男。 天雲の去き還りなむもの故に思ひそ我がする別れ悲しみ  万4242 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=19

万葉集巻第十九4285-4288番歌(大宮の内にも外にも)~アルケーを知りたい(1599)

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▼暑い時期に冬の歌も良いものだ。今回は大雪が降り積もった日の歌。弾んだ気分が伝わってくる。 4285番は、きれいな雪を踏まないようにしよう、という歌。その気持ち分かる。 4286番は、雪が降り続く竹林からウグイスの鳴き声が聞こえる、と妙味を喜ぶ歌。 4287番は、ウグイス大好きの家持が、こんどは梅の花が雪で落ちるのを気にする歌。 4287番は、どうやら雪に追われた千鳥も宮の内に来ていると詠う。 どの歌にもビジュアルとサウンド効果があります。  十一日に、大雪落り積みて、尺に二寸有り。 よりて拙懐を述ぶる歌三首 大宮の内にも外にもめづらしく 降れる大雪な踏みそね惜し  万4285 *大宮の内にも外にも降った大雪が珍しいので、踏み散らかさないようにしましょう、もったいないから。 御園生の竹の林にうぐひすは しば鳴きにしを雪は降りつつ  万4286 *園庭の竹林にも雪が降っています。しきりにウグイスが鳴いています。 うぎひすの鳴きし垣内ににほへりし 梅この雪にうつろふらむか  万4287 *ウグイスが鳴く宮の内に咲いている梅。この雪で散っているだろうか。  十二日に、内裏に侍ひて、千鳥の喧くを聞きて作る歌一首 川洲にも雪は降れれし宮の内に 千鳥鳴くらし居む所なみ  万4288 *川の洲にも雪が降りましたので、千鳥は居場所がなくなって宮の内で鳴いているらしい。 【似顔絵サロン】 藤原 豊成  ふじわら の とよなり 704 - 766 奈良時代の貴族。藤原南家、左大臣・藤原武智麻呂の長男。今回の歌の時期に右大臣を務めた人物。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=19

万葉集巻第十九4282-4284番歌(新しき年の初めに思ふどち)~アルケーを知りたい(1598)

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▼今回は753年の正月に仲間が集って詠んだ歌三首。4282番の作者、 石上宅嗣は729年の生まれなので、24歳。4283番の茨田王の年齢は不詳。4284番で、新年にこうやって親しい仲間が集まるのは楽しいねと詠った道祖王は36歳。集まって歌を詠み、それが残る。家持が万葉集巻19に収録した。現代に至る。ありがたや。  五年の正月の四日に、治部少輔 石上朝臣宅嗣 が家にして宴する歌三首 言繁み相問はなくに梅の花 雪にしをれてうつろはむかも  万4282  右の一首は主人石上朝臣宅嗣。 *人の口がうるさいから訪問を控えていたが、その間に梅の花が雪で萎れて時期が過ぎるのではないかと気が気でない。 梅の花咲けるがなかにふふめるは 恋か隠れる雪を待つとか  万4283  右の一首は中務大輔 茨田王 。 *梅の花の中にまだつぼみがいる。これは恋を待っているのでしょうか、雪を待っているのでしょうか。 新しき年の初めに思ふどち い群れて居れば嬉しくもあるか  万4284  右の一首は大膳大夫 道祖王 。 *新年の初めに気が合う者が集まるのは嬉しいことですな。 【似顔絵サロン】 石上 宅嗣  いそのかみ の やかつぐ 729 - 781 奈良時代後期の公卿・文人。石上麻呂の孫。経書・歴史書、作文を好んだ。草書・隷書も巧みで淡海三船と並ぶ文人の筆頭。 日本最初の図書館「芸亭(うんてい)」を開設。 茨田王  まむたのおほきみ ? - ? 奈良時代の官吏。 道祖王  ふなどのおおきみ 717 - 757 天武天皇の孫。新田部親王の子。孝謙天皇の皇太子となるも素行不良を理由に 廃太子。 日本史上で初のこと 。橘奈良麻呂の乱に連座、麻度比(まどひ=惑い者の意)と改名させられ拷問で獄死。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=19