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万葉集巻第二十4321-4322番歌(我が妻はいたく恋ひらし)~アルケーを知りたい(1608)

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▼今回から防人の歌。防人(さきもり)とはAI要約によると「 古代日本の律令時代に、主に東国から徴兵され、北九州の防衛にあたった兵士のこと」。防人になった人は、出発前に和歌を詠んでリーダーに提出していたらしい。それを家持が取りまとめて万葉集の巻20に収録したもの。家持、良い仕事してくれるぜ。  天平勝宝七歳乙未の二月に、相替りて筑紫に遣はさゆる諸国の防人等が歌 畏きや命被り明日ゆりや 草が共寝む妹なしにして  万4321  右の一首は、国造丁長下の郡の 物部秋持 。 *畏れ多くも命令が下りましたので、明日からは草と共寝です、妻は家にいるので。 我が妻はいたく恋ひらし飲む水に 影さへ見えてよに忘られず  万4322  右の一首は、主帳丁麁玉の郡の 若倭部身麻 呂 。 *妻が私をとても恋しがっているらしく、私の飲む水の面に妻の顔が浮かびます。忘れられませんよ。 【似顔絵サロン】 物部 秋持  もののべ の あきもち ? - ? 奈良時代の防人。遠江国(静岡県)長下郡出身の軍事的部民、国造丁(こくぞうのちょう)。755年、防人として筑紫に派遣。 若倭部 身麻呂  わかやまとべ の みまろ ? - ? 奈良時代の防人。遠江国(静岡県)麁玉郡出身の主帳丁(事務官)。755年、防人として筑紫に派遣。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4314-4320番歌(八千種に草木を植ゑて)~アルケーを知りたい(1607)

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▼前回は七夕をお題にした八首、今回は秋の野をお題にした六首プラスワン。プラスワンといったのが4314番で、季節ごとの花を愛でるために多くの種類の草木を植えましょう、という歌。この歌を眺めて、そういえば大学にもたくさんの草木があるなあ、確かに季節の変化を感じるなあ、と気が付いた。大学の緑は歴史を踏まえた文化だったのだ(今ごろ言うか)。4315番は宮人の服を、4316番は女郎花、4317番は男女みんな、4318番は萩、4319番は鹿、4320番はますらをと鹿を詠った作品。秋の野をテーマに、鍵になる対象にピントを合わせる作り方とまとめ方が心憎い。 八千種に草木を植ゑて時ごとに 咲かむ花をし見つつ偲はな  万4314  右の一首は、同じき月の二十八日に、大伴宿禰家持作る。 *いろんな種類の草木を植えて、季節ごとに咲く花を見て楽しみたいものですな。 宮人の袖付け衣秋萩に にほひよろしき高円宮  万4315 *宮人が着用する袖が付いた衣裳が秋萩によく映える高円の宮であります。 高円の宮の裾廻の野づかさに 今咲けるらむをみなへしはも  万4316 *高円の宮の廻りの野原に今咲いている女郎花だよ。 秋野には今こそ行かめもののふの 男女の花にほひ見に  万4317 *秋の花が咲く草原に今こそ行かなくちゃ。男女の姿に花がよく映える景色を見るために。 秋の野に露負へる萩を手折らずて あたら盛りを過ぐしてむとか  万4318 *秋の野で露が降りた萩。手折られないまま空しく盛りを過ごしていくのか。 高円の秋野の上の朝霧に 妻呼ぶを鹿出で立つらむか  万4319 *高円の秋。野原に朝霧が出ると、牡鹿が現れて 妻を呼ぶ のだろう。 ますらをの呼び立てしかばさを鹿の 胸別け行かむ秋野萩原  万4320  右の歌六首は、兵部少輔 大伴宿禰家持 、独り秋野を憶ひて、いささかに拙懐を述べて作る。 *ますらをが追い立てると、雄鹿は野原の萩を胸で分けるようにして進むのだろう。 【似顔絵サロン】 大伴 家持  おおともの やかもち 718 - 785 公卿・歌人。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4306-4314番歌(秋と言へば心ぞ痛き)~アルケーを知りたい(1606)

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▼今日、七夕の神事は 7月6日の夜から7日の早朝の間に行われるそうだ。「午前1時頃には天頂付近に主要な星が上り、天の川、牽牛星、織女星の三つが最も見頃になる」という。家持も独りで天を見上げていたのだ。「七夕」なのに八首作ったのは、どうしてだろう。  七夕の歌八首 初秋風涼しき夕解かむとぞ 紐は結びし妹に逢はむため  万4306 *初めて吹く秋の風が涼しい夕方。その夕べにまた解こうと思って結んだ紐です、これは。彼女に逢いたくて。 秋と言へば心ぞ痛きうたて異に 花になそへて見まく欲りかも  万4307 *秋というと心が痛い。いつもと違って、彼女を花になぞらえて眺めたいと思うからでしょう。 初尾花花に見むとし天の川 へなりにけらし年の緒長く  万4308 *すぐ散る花のようにちょっとしか逢えないのは、長い年月天の川が隔てているからだ。 秋風に靡く川びのにこ草の にこよかにしも思ほゆるかも  万4309 *秋風に川岸のにこ草が靡いているけど、これは二人が逢えると思ってにこにこするからだな。 秋されば霧立ちわたる天の川 石並置かば継ぎて見むかも  万4310 *秋になると霧た立ち渡る天の川。ここに石を並べればいつでも二人は渡って逢えるのに。 秋風に今か今かと紐解きて うら待ち居るに月かたぶきぬ  万4311 *秋風に吹かれながら相手が来るのを今か今かと紐解いて待っているうちに月が傾いてきた。 秋草に置く白露の飽かずのみ 相見るものを月をし待たむ  万4312 *秋草の白露を飽きず眺めるようにお互い会えるはずなのに、私は月だけ待っているよ。 青波に袖さへ濡れて漕ぐ舟の かし振るほどにさ夜更けなむか  万4313  右は、大伴宿禰家持、独り天漢を仰ぎて作る。 *青波に袖を濡らしながら漕ぐ舟、つなぎ止めようとするうちにすっかり夜が更けてしまう。 【似顔絵サロン】大伴 家持 おおともの やかもち 718 - 785 公卿・歌人。子が永主 (ながぬし) 。三十六歌仙の一人。785年の藤原種継事件に関わるも、既に死去していたため官位剥奪。20年後に名誉回復し、万葉集も表に出た。  〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4302-4305番歌(山吹は撫でつつ生ほさむ)~アルケーを知りたい(1605)

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▼今回は、山吹やホトトギスを介して人の情を伝える歌四首。4302番は来客の喜びを 置始長谷 が詠った作品で、4303番は家持によるその返し。4304番は別の日に別の場面で家持が橘卿に捧げた歌。4305番は、誰かに説明しているのか、はたまた独り言か分からないけど、視線を山に向けてホトトギスを詠う家持お得意の作。  三月の十九日に、家持が庄の門の槻の樹の下にして宴飲する歌二首 山吹は撫でつつ生ほさむありつつも 君來ましつつかざしたりけり  万4302  右の一首は 置始連長谷 。 *わが家の山吹を撫でるように大切に育てましょう。貴方様がおいでになってかざしてくれるのですから。 我が背子がやどの山吹咲きてあれば やまず通はむいや年のはに  万4303   右の一首は、長谷、花を攀ぢ壺を堤りて到来す。 これによりて、大伴宿禰家持この歌を作りて和ふ。 *私の親しい友人の家で山吹が咲きました。これから毎年欠かすことなく通いますよ。  同じき月の二十五日に、左大臣橘卿、山田御母が宅にして宴する歌一首 山吹の花の盛りにかくのごと 君を見まくは千年にもがも  万4304   右の一首は、少納言大伴宿禰家持、時の花を嘱て作る。 ただし、いまだ出ださぬ時に、大臣宴を罷めて、挙げ誦はなくのみ。 *山吹の花の盛りのときにこのように貴方様とお目にかかれる機会は、これからもずっと続いて欲しいです。  霍公鳥を詠む歌一首 木の暗の茂き峰の上をほととぎす 鳴きて越ゆなり今し来らしも  万4305  右の一首は、四月に大伴宿禰家持作る。 *木が茂って暗くなっている峰の上をホトトギスが鳴きながら越えています。もうすぐここにやって来るでしょう。 【似顔絵サロン】 置始 長谷  おきそめ の はつせ ? - ? 飛鳥時代の歌人。629年から672年にかけての代表的歌人。  〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4301番歌(印南野の赤ら柏は)~アルケーを知りたい(1604)

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▼今回は一首。天皇が宮で開いた宴会に参加した播磨の国の守の安宿王が詠んだ歌。紅葉は年に一度、でも私は君を思うのは年中です、と忠誠心を言葉にした。裏があるんじゃないかと疑う気持ちが恥ずかしくなる。  七日に、天皇、太上天皇、皇大后、東の常宮の南の大殿に在して肆宴したまふ歌一首 印南野の赤ら柏は時はあれど 君を我が思ふ時はさねなし  万4301  右の一首は、播磨の国の守 安宿王 奏す。古今未詳 *印南野の赤柏が紅葉するのは時期がありますが、私が君をお慕いするのはいつものことで時期がありません。 【似顔絵サロン】 安宿王  あすかべおう/あすかべのおおきみ ? - ? 奈良時代の皇族。天武天皇の後裔、長屋王の五男。橘奈良麻呂の乱の後、佐渡に流罪。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4298-4301番歌(年月は新た新たに)~アルケーを知りたい(1603)

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▼思ふどちが集まって宴会を開くのは楽しいねえ、と言い合う歌。集まって楽しい気持ちを言葉に出すことによって、さらに楽しくなる。楽しいときは楽しいね、とお互いに素直に言い合うのが大事だと思ふ。  六年の正月の四日に、氏族の人等、少納言大伴宿禰家持が宅に賀き集ひて宴飲する歌三首 霜の上に霰た走りいやましに 我れは参ゐ来む年の緒長く  古今未詳  万4298  右の一首は左兵衛督 大伴宿禰千室 。 *霜の上に降る霰が弾けるように私はこの会に参りますよ、この先いつまでも。 年月は新た新たに相見れど 我が思ふ君は飽き足らぬかも  古今未詳  万4299  右の一首は民部少丞 大伴宿禰村上 。 *年月はいつも新しくなりますが、気心知れた楽しいお仲間にお目にかかっているといくら一緒にいても飽き足りません。 霞立つ春の初めを今日のごと 見むと思へば楽しとぞ思ふ  万4200  右の一首は左京少進大伴宿禰池主。 *霞が立つ春の初めに今日のように顔を合わせのは、ホントに楽しいと思います。 【似顔絵サロン】 大伴 千室  おおとも の ちむろ ? - ? 奈良時代の官吏。 754年、大伴家持邸での年賀の宴で歌を詠んだ。 大伴 村上  おおとものむらかみ ? - ? 奈良時代の官吏。 754年、大伴家持邸での年賀の宴で歌を詠んだ。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20

万葉集巻第二十4295-4297番歌(高円の尾花吹き越す)~アルケーを知りたい(1602)

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▼今回の4295番の説明書きが漢詩の雰囲気を感じさせる、、、と思ったら、漢詩好きの池主の作品だった。どこが漢詩を感じさせるかというと、酒を持って高円の野に登る、の箇所。杜甫の登高を連想する。高校時代の漢詩にあった。続く 中臣清麻呂の 4296番と家持の4297番も同じ高円を詠みこんでいるけど、4295番と違ってとても和歌和歌しい(笑)。  天保勝宝五年の八月の十二日に、二三の大夫等、おのもおのも壺酒を提りて高円の野に登り、いささかに所心を述べて作る歌三首 高円の尾花吹き越す秋風に 紐解き開けな直ならずとも  万4295  右の一首は左京少進 大伴宿禰池主 。 *高円のススキを吹き抜ける秋風を感じながら、衣の紐をほどきましょう。人と直接会うわけではありませんけど。 天雲に雁ぞ鳴くなる高円の 萩の下葉はもみちあへむかも  万4296  右の一首は左中弁 中臣清麻呂 朝臣。 *上空で雁が鳴いています。高円の萩の下葉は紅葉しました。 をみなへし秋萩しのぎさを鹿の 露別け鳴かむ高円の野ぞ  万4297  右の一首は少納言大伴宿禰家持。 *女郎花や秋萩に降りた露をかき分けながら雄鹿が鳴く高円の野ですな。 【似顔絵サロン】 大伴 池主  おおとも の いけぬし ? - 757 奈良時代の官人・歌人。 大中臣 清麻呂  おおなかとみ の きよまろ 702 - 788 奈良時代の公卿・歌人。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集四』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=20