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万葉集巻第十1858‐1861番歌(馬並めて多賀の山辺を)~アルケーを知りたい(1438)

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▼花をめでる歌四首。1859番は大好きなフレーズ「馬並めて」があるので、それだけで嬉しくなる。1861番は、山の花の輝きが川の水底まで照らし出す、と詠う。言葉で風景を描けるものなのだなあ。 うつたへに鳥は食まねど繩延へて 守らまく欲しき梅の花かも  万1858 *鳥が食べちゃうわけではないけど、繩を張って守りたくなる梅の花です。 馬並めて多賀の山辺を白栲に にほほしたるは梅の花かも  万1859 *馬を並べて多賀の山辺に出かけると、梅の花が山を白く染めています。 花咲きて実はならねども長き日に 思ほゆるかも山吹の花  万1860 *花は咲くけど実は生らない山吹の花。咲くまでにかかる日数は長い。 能登川の水底さへに照るまでに 御笠の山は咲きにけるかも  万1861 *能登川の水底まで明るく照らし出すように御笠山の花が咲き誇っています。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 吉備 真備  きび の まきび 695 - 775 奈良時代の公卿・学者。717年から阿倍仲麻呂、玄昉ら遣唐使に同行して唐の長安に留学。735年に帰国、玄昉と共に橘諸兄を補佐。この体制に反発した藤原広嗣が乱を起こした。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1854‐1857番歌(うぐひすの木伝ふ梅の)~アルケーを知りたい(1437)

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▼今回の4首の並びを見ると、なんだかうまいこと起承転結になっている印象。和歌を並べるとストーリーになる発見!  花を詠む うぐひすの木伝ふ梅のうつろへば 桜の花の時かたまけぬ  万1854 *ウグイスが枝を伝う梅の花が終わると、桜の花の出番です。 桜花時は過ぎねど見る人の 恋ふる盛りと今は散るらむ  万1855 *桜の花はまだ満開ではないけれど、見る人のために今が盛りというように散ってくれるのだ。 我がかざす柳の糸を吹き乱る 風にか妹が梅の散るらむ  万1856 *私が簪にしている柳の葉が風でひらひらするように、妻の梅の花も散るのだろう。 年のはに梅は咲けどもうつせみの 世の人我れし春なかりけり  万1857 *毎年、梅は咲く。けれども、この世で生きる私に花が咲く春はない。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 聖武天皇  しょうむてんのう 701 - 756 第45代天皇。父親は文武天皇、母親は藤原不比等の娘・宮子。藤原広嗣が、政権を批判して乱を起こすも取り合わず。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1850‐1853番歌(朝な朝な我が見る柳)~アルケーを知りたい(1436)

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▼1850番は作者が柳に呼びかけている歌なので、考えて見ると変なのだが、気持ちは分かる。人以外のものにも声をかけてコミュニケーションを取りたくなるのは今も昔も変わらないのだ。 朝な朝な我が見る柳うぐひすの 来居て鳴くべく茂に早なれ  万1850 *毎朝眺めている柳よ、ウグイスが来て鳴くよう早く茂ってくれ。 青柳の糸のくはしき春風に 乱れぬい間に見せむ子もがも  万1851 *青柳の細い枝が糸のよう。春の風で乱れてしまう前に一緒に見る人がいたら良いのにな。 ももしきの大宮人のかづらける しだり柳は見れど飽かぬかも  万1852 *大宮人が髪飾りにするしだれ柳は、いくら見ても飽きません。 梅の花取り持ち見れば我がやどの 柳の眉し思ほゆるかも  万1853 *梅の花を折り取ってしげしげと眺めると、我が家の柳の眉のような葉っぱを連想しました。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 橘 諸兄  たちばな の もろえ 684 - 757 奈良時代の皇族・公卿。大伴家持と親交、『万葉集』に8首。藤原四兄弟死去の後、吉備真備と玄昉が補佐。反発した藤原広嗣が乱を起こした。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1846‐1849番歌(霜枯れの冬の柳は)~アルケーを知りたい(1435)

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▼これからの季節がらに合う歌。枯れていた柳の芽、若葉。こういう生命力のまぶしさを喜ぶ気持ちがあれば、一方で、勢いに押されて下を向く気持ちもある。そういう後者の気分がこのごろ分かってきた。  柳を詠む 霜枯れの冬の柳は見る人の かづらにすべく萌えにけるかも  万1846 *霜枯れていた冬の柳から見る人が髪飾りにしたくなるような緑の芽が芽吹いています。 浅緑染め懸けたりと見るまでに 春の柳は萌えにけるかも  万1847 *薄緑色の布を懸けたのかと見えるほど、春の柳が芽を出しています。 山の際に雪は降りつつしかすがに この川楊は萌えにけるかも  万1848 *山では雪が降る一方、こちらの川楊は芽吹いています。 山の際の雪は消ずあるをみなぎらふ 川の沿ひには萌えにけるかも  万1849 *山では雪が消えないまま残っているけど、川沿いでは緑が芽吹いています。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 凡河内 田道  おおしこうち の たみち ? - 740 奈良時代の武人。藤原広嗣の乱で、大野東人の率いる追討軍に討たれ戦死。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1841‐1845番歌(冬過ぎて春来るらし)~アルケーを知りたい(1434)

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▼1841と1842は、雪が舞い落ちる様子を 梅の花びら に例えた歌とそのツッコミの歌。ひとつ詠って乙に構えていると何言ってんだよ、というやりとりが脱力系で良き。この後に続く1843から1845は春霞を描いた歌。前の二つの歌の後なので、あとひとつ何か刺激が欲しくなる。 山高み降り来る雪を梅の花 散りかも来ると思ひつるかも  一には「 梅の花咲きかも散ると 」といふ 万1841 *高い山の方から降ってくる雪。梅の花が散っているのかと思いました。<梅の花が咲いて散るのかと> 雪をおきて梅をな恋ひそあしひきの 山片付きて家居せる君  万1842  右の二首は、問答。 *雪を差し置いて梅を恋しがっているのですか。山裾に家を構えていらっしゃるというのに。  霞をよむ 昨日こそ年は果てしか春霞 春日の山に早立ちにけり  万1843 *昨日こそ年末を過ごしたというのに早くも春霞が春日の山に立っています。 冬過ぎて春来るらし朝日さす 春日の山に霞たなびく  万1844 *冬が過ぎ、春になったらしい。朝日が指す春日山に霞がたなびいています。 うぐひすの春になるらし春日山 霞たなびく夜目に見れども  万1845 *ウグイスが鳴く春になりました。夜目にも春日山に霞がたなびいているのが見えます 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 大和 長岡  やまと の ながおか 689 - 769 奈良時代の貴族・明法家。広嗣の乱に連座して流罪のち赦免。役人に復帰、地方官。仁恵なしと言われた人物。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1837‐1840番歌(君がため山田の沢に)~アルケーを知りたい(1433)

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▼気持ちは春へと急いでるけど、天気が追い付かない歌。ウグイス、雪、野草のエグ、梅を歌に描き込むと視覚的・聴覚的に刺激されてよく伝わってくる。これは日本の伝統かな。 山の際にうぐひす鳴きてうち靡く 春へと思へど雪降りしきぬ  万1837 *山の際でウグイスが鳴いています。緑たなびく春がきたなーと思っていると雪が降ってきました。 峰の上に降り置ける雪し風の共 ここに散るらし春にはあれども  万1838  右の一首は、筑波山にして作る。 *山の峰の上に降り積もっていた雪が風に乗ってここに降るらしい。春なんだけど。 君がため山田の沢にゑぐ摘むと 雪消えの水に裳の裾濡れぬ  万1839 *貴方様のために山田の沢でエグを摘んでいると雪解けの水で衣の裾が濡れてしまいました。 梅が枝に鳴きて移ろふうぐひすの 羽白栲に沫雪ぞ降る  万1840 *梅の枝を鳴きながら移っていくウグイス。白い羽に沫雪が降りかかっています。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 塩屋 古麻呂  しおや の こまろ ? - ? 奈良時代の官人・明法家。藤原広嗣の乱に連座し流罪。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1832‐1836番歌(梅の花降り覆ふ雪を)~アルケーを知りたい(1432)

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▼2月、 いまの 寒い日と合いそうな歌。室内に籠ってばかりではなくて外を歩かねば、と思ふ。  雪を詠む うち靡く春さり来ればしかすがに 天雲霧らひ雪は降りつつ  万1832 *新緑が春風にそよぐ春がやってきたというのに、空には雲と霧が出て雪まで降ってくる。 梅の花降り覆ふ雪を包み持ち 君に見せむと取れば消につつ  万1833 *梅の花に降り積もる雪を大事に持ち帰って貴方様にお見せしようと思ったのに手に取ると消えてしまいました。 梅の花咲き散り過ぎぬしかすがに 白雪庭に降りしきりつつ  万1834 *梅の花は散ってしまったのに、白雪が庭にしきりに降っています。 今さらに雪降らめやもかぎろひの 燃ゆる春へとなりにしものを  万1835 *今さら雪が降るなんてあるでしょうか。陽炎が燃える春となったというのに。 風交り雪は降りつつしかすがに 霞たなびき春さりにけり  万1836 *風に交って雪が降っていますが、霞がたなびいて春らしくなりました。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 小野 東人  おの の あずまひと ? - 757 奈良時代の貴族。740年の広嗣の乱に連座し杖罪百回、伊豆国へ流罪。757年の橘奈良麻呂の乱に連座し杖で打たれる拷問の末、獄死。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1829‐1831番歌(朝霧にしののに濡れて)~アルケーを知りたい(1431)

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▼1829番の、人を誘うのにウグイスの鳴き声が聞けるよ、というのはエレガントで良き。1830と1831番は、鳴き声だけでなく、動きまで見えるよう。 梓弓春山近く家居れば 継ぎて聞くらむうぐひすの声  万1829 *春の山に近いところの家にいらっしゃるとひっきりなしにウグイスの声が聞こえることでしょう。 うち靡く春さり来れば小竹の末に 尾羽打ち触れてうぐひす鳴くも  万1830 *春がやって来ると小竹の先に尾羽を触れながらウグイスが鳴きます。 朝霧にしののに濡れて呼子鳥 三船の山ゆ鳴き渡る見ゆ  万1831 *朝霧にびっしょり濡れた呼子鳥が三船山の上を鳴きながら飛んでいるのが見えます。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 中臣 名代  なかとみ の なしろ ? - 745 奈良時代の貴族。広嗣の乱に連座して流罪。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1824‐1828番歌(冬こもり春さり来れば)~アルケーを知りたい(1430)

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▼今回もウグイスとカッコウの鳴き声の歌。歌の文字を眺めていると自然の風景が広がって清々しい。鳥の鳴き声まで聞こえてくる。和歌の不思議。 冬こもり春さり来ればあしひきの 山にも野にもうぐひす鳴くも  万1824 *冬が去り春なりました。山でも野でもウグイスが鳴いています。 紫草の根延ふ横野の春野には 君を懸けつつうぐひす鳴くも  万1829 *紫庫が根を張っている横野は春になるとわが君を恋しがってウグイスが鳴いています。 春されば妻を求むとうぐひすの 木末を伝ひ鳴きつつもとな  万1830 *春になると妻を求めるウグイスが梢を伝いながら鳴き続けています。 春日なる羽がひの山ゆ佐保の内へ 鳴き行くなるは誰れ呼子鳥  万1831 *春日にある羽がい山経由で佐保の内の方へ鳴きながら飛んでいるのは誰を呼んでいるのか、呼子鳥。 答へぬにな呼び響めそ呼子鳥 佐保の山辺を上り下りに  万1832 *答えてくれないに呼ばないでおくれよ、呼子鳥。佐保山の高いところや低いところで。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 藤原 田麻呂  ふじわら の たまろ 722 - 783 奈良時代の公卿。藤原宇合の五男。兄・広嗣の乱に連座して隠岐国に配流。二年後に赦免、帰京。以降、政治とは関わらず隠棲。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1819‐1823番歌(我が背子を莫越の山の)~アルケーを知りたい(1429)

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▼1819番から1821番までの三つの歌に出てくる鳥はウグイス。1822番の呼子鳥(よぶこどり)も1823番の 貌鳥(かほどり)も、 『新版万葉集二』によると 郭公 (かっこう) 。いずれも鳴き声を聞いての歌。良いな、聞きたくなるな。  鳥を詠む うち靡く春立ちぬらし我が門の 柳の末にうぐひす鳴きつ  万1819 *春になったらしい。我が家の門の柳に ウグイス がやってきて鳴いています。 梅の花咲ける岡辺に家居れば 乏しくもあらずうぐひすの声  万1820 *自宅が梅の花が咲く岡の近くなので、ウグイスの鳴き声がよく聞こえます。 春霞流るるへに青柳の 枝くひ待ちてうぐひす鳴くも  万1821 *春霞が漂うあたりで青柳の枝をくわえてウグイスが鳴いています。 我が背子を莫越の山の呼子鳥 君呼び返せ夜の更けぬとに  万1822 *莫越山の呼子鳥よ、私の夫に、夜が更けましたから家にお戻りくださいと呼びかけてください。 朝ゐでに来鳴く貌鳥汝れだにも 君に恋ふれや時終へず鳴く  万1823 *朝から川の堤防で鳴いている貌鳥よ。お前も我が君が恋しくてそんなに鳴いているのかい。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 藤原 良継 /宿奈麻呂 ふじわら の よしつぐ/すくなまろ 716 - 777 奈良時代の公卿。藤原宇合の次男。兄・広嗣の乱に連座して伊豆国へ流罪。二年後、赦免。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第九1757‐1758番歌(筑波嶺の裾みの田居に)~アルケーを知りたい(1428)

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▼筑波山に登るとこんなに気分が良くなるのか、と筑波山の株が上がる歌。1758番の反歌も楽しい。こういう心持ちで一日を過ごそう。  筑波山に登る歌一首 幷せて短歌 草枕 旅の憂へを  慰もる こともありやと 筑波嶺に 登りて見れば  尾花散る 師付の田居に  雁がねも 寒く来鳴きぬ  新治の 鳥羽の淡海も  秋風に 白波立ちぬ  筑波嶺の よけくを見れば  長き日に 思ひ積み来し  憂へはやみぬ  万1757 *旅の憂さを晴らそうと筑波山に登ったところ、花が散り、雁が飛び、海の白波が見えました。積もった憂さがすっかり晴れましたよ。  反歌 筑波嶺の裾みの田居に秋田刈る 妹がり遣らむ黄葉手折らな  万1758 *筑波山の裾の田で稲刈りしている娘さんにプレゼントする黄葉を手折っておきましょう。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 安倍 黒麻呂  あべ の くろまろ ? - ? 奈良時代中期の官人。阿倍虫麻呂と同族の武人。藤原広嗣の乱を平定する志願兵。逃亡、潜伏していた広嗣を捕縛。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=9

万葉集巻第九1755‐1756番歌(かき霧らし雨の降る夜を)~アルケーを知りたい(1427)

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▼鶯(うぐいす)への托卵で生まれた 霍公鳥(ほととぎす)の歌。よそに行かずウチにいて鳴いてくれ、と呼び掛ける。  霍公鳥を詠む一首 幷せて短歌 うぐひすの 卵の中に  ほととぎす ひとり生まれて  汝が父に 似ては鳴かず  汝が母に 似ては鳴かず  卯の花の 咲きたる野辺ゆ  飛び翔り 来鳴き響もし  橘の 花を居散らし  ひねもすに 鳴けど聞きよし  賄はせむ 遠くな行きそ  我がやどの 花橘に  棲みわたれ鳥  万1755 *うぐいすの卵の中でひとりで生まれたほととぎす。卯の花が咲く野辺で一日中鳴いて聞き飽きることがない。餌をやるから遠くに行かず我が家の花橘に棲んで欲しいよ。  反歌 かき霧らし雨の降る夜をほととぎす 鳴きて行くなりあはれその鳥  万1756 *急に霧がたって雨が降り出した夜。ほととぎすが鳴きながら飛んで行きます。味わい深い鳥です。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 阿倍 虫麻呂  あべ の むしまろ ? - 752 奈良時代の貴族・万葉歌人。佐伯常人と共に藤原広嗣の乱を鎮圧する官軍のリーダー。軍四千人を率いて藤原広嗣軍と交戦。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=9

万葉集巻第九1753‐1754番歌(今日の日にいかにか及かむ)~アルケーを知りたい(1426)

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▼今回の歌の作者は高橋虫麻呂。仕事で筑波にやってきた大伴旅人が筑波山に登りたいというので一緒に山登りした経験を詠う爽快な歌。  検税吏大伴卿が、筑波山に登る時の歌一首 幷せて短歌 衣手 常陸の国の  二並ぶ 筑波の山を  見まく欲り 君来ませりと  暑けくに 汗掻き投げ  木の根取り ふそぶき登り  峰の上を 君に見すれば  男神も 許したまひ  女神も ちはひたまひて  時となく 雲居雨降る  筑波嶺を さやに照らして  いふかりし 国のまほろを  つばらかに 示したまへば  嬉しみと 紐の緒解きて  家のごと 解けてぞ遊ぶ  うち靡く 春見ましゆは  夏草の 茂くはあれど  今日の楽しさ  万1753 *筑波山を見たいということでわが君がおいでになって暑い中、息を切らしながら山を登りました。晴天に恵まれ、眺めは素晴らしく家にいるようにくつろいで楽しめました。  反歌 今日の日にいかにか及かむ筑波嶺に 昔の人の来けむその日も  万1754 *今日のこの日にどうして及びましょうか。昔の人が来た、というその日に比べても。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 佐伯 常人  さえき の つねひと ? - ? 奈良時代の貴族。安倍虫麻呂と共に藤原広嗣の乱を鎮圧する官軍の勅使。広嗣に降伏を十回呼びかけて説得。乱鎮圧後、昇進。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=9

万葉集巻第九1751‐1752番歌(い行き逢ひの坂のふもとに)~アルケーを知りたい(1425)

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▼今回も旅の歌。1751番の長歌の最後に「風祭」という魅力的な言葉が出てくる。花を吹き散らさないようにする祈りのようだ。1752番の短歌は、妻がここにいれば、この桜を一緒に見れるのに残念という気持ちを述べた歌。反歌は長歌の趣旨をまとめる歌と思っていたら、今回の組合せでそうでもない事例もあることを知った。  難波に経宿りて明日に還り来る時の歌一首 幷せて短歌 島山を い行き廻れる  川沿ひの 岡辺の道ゆ  昨日こそ 我が越え来しか  一夜のみ 寝たりしからに  峰の上の 桜の花は  滝の瀬ゆ 散らひて流る  君が見む その日までには  山おろしの 風な吹きそと  打ち越えて 名に負へる杜に  風祭せな  万1751 *一晩で峰の上の桜の花が散って川に流れています。藤原宇合様がご覧になるまで風で散り果てないよう、風祭をしなければ。  反歌 い行き逢ひの坂のふもとに咲きををる 桜の花を見せむ子もがも  万1752 *竜田山の麓で咲いている桜を見せてやれる妻がここに居たらよいのに。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 紀 飯麻呂  きの いいまろ 690 - 762 奈良時代の公卿。父親は紀古麻呂。藤原広嗣の乱では、持節大将軍・大野東人の下で征討副将軍。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=9

万葉集巻第九1749‐1750番歌(暇あらばなづさひ渡り)~アルケーを知りたい(1424)

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▼前回と今回の歌は、高橋虫麻呂の上司の藤原宇合の仕事に随行した時の作品。同じ景色を見ながら、虫麻呂が和歌を作り、それを宇合がみて、風景と心象をあらためて味わいなおす様が浮かんでくる。 白雲の 竜田の山を  夕暮れに 打ち越え行けば  滝の上の 桜の花は  咲きたるは 散り過ぎにけり  ふふめるは 咲き継ぎぬべし  こちごちの 花の盛りに  見ざれども  君がみ行きは  今にしあるべし  万1749 *竜田山を夕暮れ時に越えたところ、滝の上のほうの桜の花はもう散っていました。つぼみはこれから咲くようです。花の盛りとはいかないまでも藤原宇合様がお出かけになるのは今が良い時でしょう。  反歌 暇あらばなづさひ渡り向つ峰の 桜の花も折らましものを  万1750 *時間があれば川を渡って向こうの峰の桜の花を折って帰りたいものです。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 大野 東人  おおの の あずまびと ? - 742 奈良時代の公卿・武人。父親は大野果安。広嗣の乱では、朝廷から持節大将軍を任じられ一万七千の兵を率いて鎮圧。広嗣と綱手を斬った。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=9

万葉集巻第九1747‐1748番歌(我が行きは七日は過ぎじ)~アルケーを知りたい(1423)

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▼今回は、 諸卿大夫等の一行が、 ちょうど花が良い時期に出張するので、風の神・竜田彦に花を吹き散らかさないよう頼みごとをしている歌。  春の三月に、諸卿大夫等が難波に下る時の歌二首 幷せて短歌 白雲の 竜田の山の  滝の上の 小桉の嶺に  咲きををる 桜の花は  山高み 風しやまねば  春雨の 継ぎてし降れば  ほつ枝は 散り過ぎにけり  下枝に 残れる花は  しましくは 散りなまがひそ  草枕  旅行く君が  帰り来るまで  万1747 *竜田山の高いところは風が強く春雨も続くので桜の花がどんどん散ってしまいます。せめて下に残っている桜は旅をしている藤原宇合様が戻るまで散らないでいて欲しい。  反歌 我が行きは七日は過ぎじ竜田彦 ゆめこの花を風にな散らし  万1748 *私らの出張は一週間を越えることはないから、竜田彦よ、花を風で散らさないようにしておくれ。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 藤原 綱手  ふじわら の つなて ? - 740 奈良時代の武人。藤原宇合の四男。広嗣の弟。兄が起こした乱では五千の兵を率いて豊後国から進軍。しかし大野東人率いる官軍に敗北、兄と共に斬刑。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=9