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万葉集巻第十2094‐2097番歌(雁がねの来鳴かむ日まで)~アルケーを知りたい(1446)

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▼季節の変わり目の花が雨で落ちるのを惜しむ歌。自分は風情を解する心に疎いけれど、こうやって詠まれた歌を見ていると、そうだなあと思ふ。そろそろ桜が咲くので、せっかくの花が雨で早く散るのが惜しい。  花を詠む さを鹿の心相思ふ秋萩の しぐれの降るに散らくし惜しも  万2094 *牡鹿が大好きな秋萩の花が時雨で散ってしまうのがたいへん残念です。 夕されば野辺の秋萩うら若み 露にぞ枯るる秋待ちかてに  万2095  右の二首は、柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ。 *夕方には野原の若い秋萩が露でしおれました、秋が来るのを待ちかねるように。 真葛原靡く秋風吹くごとに 阿太の大野の萩の花散る  万2096 *真葛原では秋風が吹くたびに、阿太の大野で咲いている萩の花が散ります。 雁がねの来鳴かむ日まで見つつあらむ この萩原に雨な降りそね  万2097 *雁が来て鳴く日まで見ていたいから、 雨よ、 この萩の原に降らないでおくれ。 【似顔絵サロン】740年、ポスト藤原広嗣の乱の人々: 藤原 百川  ふじわら の ももかわ 732 - 779 奈良時代の公卿。藤原宇合の八男。広嗣の弟。神託事件で配流された和気清麻呂のために秘かに仕送りして支えた。称徳天皇=道鏡コンビの時代が終わった後、光仁天皇を擁立。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1886‐1889番歌(白雪の常敷く冬は)~アルケーを知りたい(1445)

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▼1886番は町で偶然知人に会った時にも応用できそう。1888番の「白雪の常敷く冬」が厳しい寒さを感じさせる美しい表現。1889番の「下心」 は、悪だくみの意味になっているけど、この歌ではそうではない。心の下、底からじわりと嬉しい、という感じ。  懼逢 住吉の里行きしかば春花の いやめづらしき君に逢へるかも  万1886 *住吉村を進んでいると、春の花のように心惹かれる貴方様に出逢いました。  旋頭歌 春日にある御笠の山に月も出でぬかも 佐紀山に咲ける桜の花の見ゆべく  万1887 *春日にある御笠山に月が出てくれないかな。佐紀山で咲いている桜の花が見えるように。 白雪の常敷く冬は過ぎにけらしも 春霞たなびく野辺のうぐひす鳴くも  万1888 *いつも白雪が積もる冬の季節が過ぎたようです。春霞がたなびく野原でウグイスの鳴き声が聞こえます。  譬喩歌 我がやどの毛桃の下に月夜さし 下心よしうたてのこのころ  万1889 *私の家の毛桃の木の下に月光が差しています。何となく嬉しい気持ちになるこの頃です。 【似顔絵サロン】740年、ポスト藤原広嗣の乱の人々: 和気 清麻呂  わけ の きよまろ 733 - 799日 奈良時代末期~平安時代初期の貴族。道鏡が天皇になって良いものか宇佐八幡に出かけて神託を聞き、朝廷に報告した。道鏡の意に反する内容だったので、散々な目に遭わされる。朝廷が変わり名誉回復できたので幸い。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1882‐1885番歌(物皆は新しきよし)~アルケーを知りたい(1444)

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▼1882番は好きなキーワード「思ふどち」が出て来る歌。よき。1883番は「梅をかざして」いる人たちの心持ちが楽しい。能では竹の枝を持つと気がふれている様を表す。和歌では梅をかざすと楽しい場面を思わせる。何を持つかで状況説明ができるのだ。1884番と1885番は人の老いを詠った作品。84番で「そうだねえ」と思い85番で「それそれ、それですよね」と思ふ。前向きな気持ちにしてくれる歌。 春の野に心延べむと思ふどち 来し今日の日は暮れずもあらぬか  万1882 *春の野でのんびりしようと思い、気心知れた仲間と出かけました。今日が暮れないと良いのに。 ももしきの大宮人は暇あれや 梅をかざしてここに集へる  万1883 *大宮人は暇なのだろうか、梅を簪にしてここに集まっているけど。  歎旧 冬過ぎて春し来れば年月は 新たなれども人は古りゆく  万1884 *冬が過ぎて春になれば年月は新しくなるけれども、人は古びるのです。 物皆は新しきよしただしくも 人は古りにしよろしかるべし  万1885 *物はなんでも皆新しいものが良い。でも人は古びるのが良いのだよ。 【似顔絵サロン】740年、ポスト藤原広嗣の乱の人々: 道鏡  どうきょう 700 - 772 奈良時代の僧侶。平将門、足利尊氏とともに「日本三悪人」。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1878‐1881番歌(春日野に煙立つ見ゆ)~アルケーを知りたい(1443)

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▼春の風景を詠う4つの歌。1878番は増水した川の瀬の音、「たぎつ」という言葉で激しそうだな、と思わせてくれる。台風の時は川や水路を見に行くのは危険だからダメだけど、春雨の増水くらいならば、いつもと違う風情を味わえるのだ。1879番は、野原で煮物をする煙が見えるという長閑な歌。アウトドアでの料理も道具だてが揃った今より、当時の娘子らのほうがちゃちゃっと要領が達者かもね 。1880番は「思ふどち」という好きなキーワードがある。思ふどちがある歌に外れなし。  川を詠む 今行きて聞くものにもが明日香川 春雨降りてたぎつ瀬の音を  万1878 *今すぐ行って聞けるものなら聞きたいものです。明日香川が春雨で増水して激しくなっている瀬の音を。  煙を詠む 春日野に煙立つ見ゆ娘子らし 春野のうはぎ摘みて煮らしも  万1879 *春日野に煙が立っているのが見えます。これはきっと娘子らが春野の若葉を摘んで煮ているのでしょう。  野遊 春日野の浅茅が上に思ふどち 遊ぶ今日の日忘れえめやも  万1880 *春日野の浅茅の上で仲の良い仲間で遊んだ今日の日は忘れられない思い出です。 春霞立つ春日野を行き返り 我れは相見むいや年のはに  万1881 *春霞が立っている春日野を往復しながら、私たちは毎年、顔を合わせるのです。 【似顔絵サロン】740年、ポスト藤原広嗣の乱の人々: 藤原 仲麻呂  ふじわら の なかまろ / 恵美押勝 706 - 764 奈良時代の公卿。藤原武智麻呂の次男。 淳仁天皇を推す。 恵美押勝の乱で孝謙天皇=道鏡に敗北、斬首。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1874‐1877番歌(春されば木の暗多み夕月夜)~アルケーを知りたい(1442)

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▼春の月を詠んだ3つの歌と雨を詠んだ歌ひとつ。言葉は万葉時代の言葉なので古いのはもちろんだけど、詠ってる対象や心情は今も同じだなーと思ふ。1877番とか、仕事帰りにすぐどこかにひっかかって帰りが遅くなる男の言い訳のようで親しみが湧く。  月を詠む 春霞たなびく今日の夕月夜 清く照るらむ高松の野に  万1874 *春霞がたなびく今日の夕月夜。高松の野に清く照ることでしょう。 春されば木の暗多み夕月夜 おほつかなしも山蔭にして   一には「 春されば木蔭を多み夕月夜 」といふ  万1875 *春になったので木の葉が茂って夕月夜でも見通しがきき難い山蔭です。 朝霞春日の暮は木の間より 移ろふ月をいつとか待たむ  万1876 *朝霞が漂う春の日の夕方。木の間を動く月がいつごろ現れるのか待つことにしましょう。  雨を詠む 春の雨にありけるものを立ち隠り 妹が家道にこの日暮らしつ  万1877 *春雨だから濡れても良いのに、妻が待つ家にすぐ帰らずに、ちょっと雨宿りしたつもりが一日を過ごしてしまいました。 【似顔絵サロン】740年、ポスト藤原広嗣の乱の人々: 淳仁天皇  じゅんにんてんのう 733 - 765 第47代天皇。天武天皇の孫。藤原 仲麻呂  ふじわら の なかまろ / 恵美押勝 706 - 764 奈良時代の公卿。藤原武智麻呂の次男。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1870‐1873番歌(春雨はいたくな降りそ)~アルケーを知りたい(1441)

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▼ 春雨よ降れ と思ふ。 山火事には春雨でも雪でも降って鎮火すると良いと願う。 春雨はいたくな降りそ桜花 いまだ見なくに散らまく惜しも  万1870 *春雨よ、あまり降らないでもらえないか。桜の花が見ないうちに散ってしまうのが惜しいから。 春されば散らまく惜しき梅の花 しましは咲かずふふみてもがも  万1871 *春になると散るのが惜しい梅の花。しばらく咲かずに蕾のままであってよいのに。 見わたせば春日の野辺に霞立ち 咲ききほへるは桜花かも  万1872 *春日の野原を見わたすと、霞が立っています、その中で花を咲かせているのは桜のようですね。 いつしかもこの夜の明けむうぐひすの 木伝ひ散らす梅の花見む  万1873 *いつになったらこの夜が明けるのでしょう。ウグイスが木を伝うときに散る梅の花を見たいのに。 【似顔絵サロン】740年、ポスト藤原広嗣の乱の人々: 孝謙天皇  こうけんてんのう 718 - 770 父親である聖武天皇の譲位で749年、第46代天皇に即位。藤原仲麻呂が勢力を伸ばす。758年、淳仁天皇に譲位し太上天皇。道鏡に肩入れ。764年、淳仁天皇を島流しに処し藤原仲麻呂を処刑し、第48代天皇として重祚。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1866‐1869番歌(かはづ鳴く吉野の川の)~アルケーを知りたい(1440)

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▼今回も春の花の歌四首。うち二つには音響効果がある。ひとつは雉、もうひとつはカエル。花が咲いている風景に鳴き声が聞こえると感興がいっそう刺激されることでしょう。わかる気がするわー。 雉鳴く高円の辺に桜花 散りて流らふ見む人もがも  万1866 *雉の鳴き声が聞こえる高円のあたり。桜の花が散って流れています。一緒に眺める人がいたら良いのに。 阿保山の桜の花は今日もかも 散り乱ふらむ見る人なしに  万1867 *阿保山の桜の花は今日も散り乱れているのでしょう、見る人もいないというのに。 かはづ鳴く吉野の川の滝の上の 馬酔木の花ぞはしに置くなゆめ  万1868 *カエルが鳴く吉野川の滝の上の馬酔木の花です、これは。粗末にしないでくださいね、けっして。 春雨に争ひかねて我がやどの 桜の花は咲きそめにけり  万1869 *春の雨と争っていたようだけど、私の家の桜の花が咲き始めました。 【似顔絵サロン】740年、ポスト藤原広嗣の乱の人々: 鑑真  がんじん 688 - 763 奈良時代の僧人。754年、来日し、平城京に到着。広嗣の乱の後、民心安定のため仏教に力を入れていた聖武上皇が歓迎。東大寺に住み、唐招提寺を建立。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10

万葉集巻第十1862‐1865番歌(雪見ればいまだ冬なり)~アルケーを知りたい(1439)

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▼今回の1862番は、冬と春が同居している風景の歌。1864番は春雨の歌。今日は天気が良いけど、来週は雨になりそうなので、この歌の風景になるのだろう。で、1865番のように、春になったなあ、という季節感を感じるのだろう・・・今月の終わりくらいだろうか。 雪見ればいまだ冬なりしかすがに 春霞立ち梅は散りつつ  万1862 *雪を見るとまだ冬だなと思うけれども、春霞が立って梅の花は散っています。 昨年咲きし久木今咲くいたづらに 地にか落ちむ見む人なしに  万1863 *昨年花を咲かせた久木が今頃花を咲かせて散っています。見る人もいないというのに。 あしひきの山の際照らす桜花 この春雨に散りゆかむかも  万1864 *山の際を照らすように咲いている桜の花。この春雨で散ってしまうのでしょう。 うち靡く春さり来らし山の際の 遠き木末の咲きゆく見れば  万1865 *草が風に靡く春の季節がやって来たようです。遠くの山際の木末に花が咲き始めているのを見ると。 【似顔絵サロン】740年、藤原広嗣の乱の関係者: 玄昉  げんぼう ? - 746 奈良時代の僧。717年、阿倍仲麻呂、吉備真備らと遣唐使に同行して長安に留学した学問僧。735年に帰国、吉備真備と共に橘諸兄を補佐。この体制に反発した藤原広嗣が乱を起こした。 〔参考〕 伊藤博訳注『新版 万葉集二』角川ソフィア文庫。 https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/dicDetail?cls=d_kanno&dataId=10